↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/29

第18話 配信

――動画配信サイト。


 一本の動画が、投稿されてからわずか数時間で急速に再生数を伸ばしていた。


 投稿者は、人気配信者――ジョー。


 チャンネル名は、


 『ジョーのヤバい部屋』


 廃墟、心霊スポット、危険地帯などを実際に訪れ、その様子を撮影する動画で人気を集めている。


 今回のタイトルは、


 『【危険】特異生物を追ってみたら、ヤバいものが映った』


 だった。


⸻


『どうも、ジョーです』


 画面には、夜の山道が映っていた。


 周囲には街灯もほとんどない。


 聞こえるのは風で揺れる木々の音だけだった。


『今日はですね』


 ジョーがカメラに向かって話す。


『最近ニュースでめちゃくちゃ話題になってる、特異生物を探しに来ました』


 画面の端に、現在地を示す簡単な地図が表示される。


『この辺りで、昨日から目撃情報が何件か出てるんですよ』


 コメントが流れる。


【また危険なことしてる】


【特異生物はマジでやめとけ】


【今回は洒落にならんぞ】


【ジョーなら行くと思った】


【特災隊に怒られろ】


『いやいや、ちゃんと安全には配慮してますから』


 ジョーが笑う。


『危ないと思ったらすぐ逃げます』


【それ毎回言ってる】


【信用できない】


【前回も逃げるの遅かっただろ】


『……まあ、それは置いといて』


 ジョーが森へ入っていく。


 ライトの光が木々を照らす。


 しばらく歩いても何も起きない。


『……静かですね』


 ジョーの声が少し小さくなる。


『特異生物がいるなら、何か痕跡くらい――』


 そのとき。


 ――ガサッ。


 右側の茂みが揺れた。


 ジョーが固まる。


『……』


 カメラがゆっくり動く。


『今の、聞きました?』


【聞こえた】


【右!!】


【何かいる】


【逃げろ】


 ジョーがライトを向ける。


 何もいない。


『……気のせいか』


 そう言って歩き出した瞬間。


 ――グルルル……。


 今度は、はっきり聞こえた。


『……え?』


 ジョーの表情が変わる。


 カメラが正面を向く。


 木々の隙間。


 暗闇の中に――


 二つの赤い光が浮かんでいた。


『……いた』


 ジョーが息を呑む。


 ライトがその姿を照らす。


 四本の脚。


 異常に大きな身体。


 鋭い爪。


 そして、赤く光る目。


『……デカ』


 コメント欄が一気に流れ始める。


【うわあああ】


【本物じゃん】


【マジでいるのかよ】


【デカすぎ】


【ジョー逃げろ!!】


【近づくな!!】


【これ特異生物?】


 特異生物は、ジョーをじっと見ていた。


 だが。


 襲ってこない。


『……俺のこと見てるよな?』


 ジョーが小声で言う。


 数秒後。


 特異生物は突然、森の奥へ歩き始めた。


『……どこ行くんだ?』


 ジョーは少し迷った。


 そして――


『……追ってみます』


【やめろw】


【死亡フラグ】


【追うなって!!】


【本当に死ぬぞ】


 ジョーは距離を取りながら、特異生物の後を追った。


⸻


 数分後。


 特異生物が、再び立ち止まった。


『……?』


 ジョーも木の陰から様子を見る。


 特異生物は、何もない場所を見つめていた。


『何見てんだ?』


 ジョーがカメラを向ける。


 最初は何も見えなかった。


 しかし。


 映像を拡大すると――


 空間が揺れていた。


『……え?』


 ジョーが息を呑む。


 木々の向こう。


 そこだけ景色が歪んでいる。


 まるで透明な膜が、内側から押されているようだった。


『なんだ……これ』


 カメラを近づける。


 ――ジジジジ……。


 映像にノイズが走る。


【何これ】


【空間歪んでる?】


【編集じゃないの?】


【特異生物そこに何しに来た?】


【怖すぎる】


 特異生物が一歩、前へ進む。


 しかし――


 途中で止まった。


 その先には進もうとしない。


 ただ、歪んだ空間を見つめている。


『……入れないのか?』


 ジョーが呟く。


 そのときだった。


 歪みの向こうに、


 何かが動いた。


『……っ!』


 ジョーが息を呑む。


 カメラをさらにズームする。


 ぼんやりとした人影。


 一人。


 そして、その後ろにもう一人。


『人……?』


 さらにカメラを動かす。


 もう一人いた。


 合計三人。


 そのうち一人が、こちらに向かって何かを指示している。


 黒い服。


 手には銃。


 その隣では、別の男が端末を操作している。


 そして――


 少し離れた場所に、一人の男が立っていた。


 右手を前に出している。


 暗闇の中で、


 黒い光が揺れていた。


『……何だ、あれ』


 ジョーの声が震える。


【人いるぞ】


【誰?】


【特災隊じゃね?】


【あの銃持ってる人、隊員っぽい】


【でも何でこんなところに?】


【黒い光なに?】


【人間の手から出てる?】


 黒い光をまとった男が、何かを叫んでいる。


 だが、音声は距離のせいではっきり聞き取れない。


 その直後。


 歪みが大きく揺れた。


 特異生物が後ろへ下がる。


 銃を持った男も、すぐに構える。


 端末を操作していた男が顔を上げる。


 そして。


 黒い光をまとった男が――


 こちらを向いた。


 ほんの一瞬。


 顔がカメラに映る。


『……』


 ジョーは息を止めた。


 次の瞬間。


 映像が大きく乱れた。


 ――ザザッ。


 画面が真っ暗になる。


『うわっ!』


 ジョーが慌ててカメラを下げる。


『ちょ、待って……!』


 そのまま走り出す。


 ――ザッ、ザッ、ザッ。


『無理無理無理!』


 背後から、


 ――グォォ……。


 低い音が響いた。


『来てる!?』


 ジョーは振り返らない。


 そのまま森を走り抜けた。


⸻


 翌朝。


 動画は爆発的に拡散された。


【最後の三人誰なん?】


【特災隊じゃないの?】


【あの場所で何してたんだ?】


【黒い光の男ヤバくね?】


【手から光出てたぞ】


【CGだろ】


【いや、途中まで普通の配信だったぞ】


【特異生物より人間のほうが気になる】


【政府関係者?】


【秘密の実験とか?】


【17年前の事件と関係あるんじゃね?】


 さらに。


 動画から切り抜かれた一枚の画像が投稿される。


 黒い光をまとった男。


 その隣に、銃を構える男。


 そして、端末を持つ男。


 画像には、こんな文字が付けられていた。


 『この3人、誰?』


 数時間で数万件の反応がついた。


【見たことある人いる?】


【特災隊の黒瀬隊長じゃね?】


【いや、顔似てるけど確証ない】


【もう一人は白石じゃない?】


【待って、それなら黒い光の男は誰だよ】


【隊員じゃないってこと?】


【一般人?】


【特異生物と一緒にいたぞ】


【人間なのか?】


 そして。


 あるユーザーが、過去のニュース映像を掘り起こした。


【これ見て】


 数ヶ月前に撮影された、アーク鉱採掘施設の映像。


 そこに一瞬だけ――


 黒い光が映っていた。


【同じじゃね?】


【マジだ】


【誰か特定してくれ】


【この男、何者なんだよ】


 その日の夜。


 SNSでは、一つの呼び名が急速に広がっていった。


 「黒い光の男」


 まだ誰も、


 その男の名前を知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。