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第16話 接触

 ――ドォン!!


 巨大生物が突進してきた。


「桐生!」


 黒瀬の声が響く。


 俺は右手を前に出した。


 黒い光が一気に広がる。


 ――ガァン!!


 巨大生物の爪と右腕がぶつかった。


「ぐっ……!」


 身体が後ろへ吹き飛ぶ。


 床を転がり、壁に肩をぶつけた。


「桐生!」


「大丈夫です!」


 痛い。


 腕が痺れている。


 それでも立ち上がる。


 巨大生物がこちらを見る。


 赤い目。


 その視線は俺ではなく――


 第33実験区画へ向いていた。


「……やっぱり」


 白石が呟いた。


「こいつは33番を守っています」


 黒瀬が扉を見る。


「白石」


「はい」


「俺たちは33番へ入る」


 白石が頷く。


「ですが、あの個体がいます」


 黒瀬が俺を見る。


「桐生。お前に頼みたい」


「俺に?」


「あいつを足止めできるか」


 俺は巨大生物を見る。


 明らかに俺より強い。


 正面から戦って勝てるとは思えない。


「……倒さなくていいんですよね?」


「ああ」


 黒瀬が答える。


「俺と白石が33番を調べる。その間だけでいい」


 俺は右手を見る。


 黒い光が、まだ残っている。


「どのくらいですか?」


「三分」


「三分……」


 巨大生物が低く唸る。


 ――グゥゥゥ……。


 俺は拳を握った。


「やります」


「無茶するな」


「分かってます」


 俺は巨大生物の前へ歩き出した。


「でも、俺も知りたいんです」


 一歩。


「33番の中に、何があるのか」


 右手が黒く光る。


「だから、俺が止めます」


 巨大生物が咆哮した。


 ――グォォォォォ!!


 そして突進してくる。


 俺も走った。


⸻


 巨大生物の爪が迫る。


 俺は横へ飛んだ。


 ――ズガァン!!


 床が砕ける。


「速すぎる……!」


 立ち上がる暇もない。


 巨大生物が振り返る。


 再び来る。


「だったら……!」


 俺は右手を前に出した。


 黒い光が腕を包む。


 巨大生物の爪が振り下ろされる。


 ――ガァン!!


 受け止めた。


「ぐっ……!」


 腕が震える。


 足が床に沈む。


 それでも耐える。


「今だ!」


 黒瀬が叫ぶ。


「白石、行くぞ!」


「はい!」


 二人が33番の扉へ走る。


 巨大生物がそちらを見る。


「行かせるか!」


 俺は右手に力を込めた。


 黒い光が膨らむ。


「こっちだ!」


 巨大生物が俺を見る。


 俺は拳を振り抜いた。


 ――ドォン!!


 黒い光をまとった拳が、巨大生物の身体に直撃する。


 巨大生物の巨体が数メートル吹き飛んだ。


「……!」


 だが。


 巨大生物はすぐに立ち上がった。


「嘘だろ……」


 右腕に激痛が走る。


 黒い光が弱くなる。


 巨大生物が俺を睨む。


 それでも俺は前に立つ。


「……行かせない」


⸻


 その頃。


 黒瀬と白石は33番実験区画へ入っていた。


 古い研究室。


 壁には大量の計器。


 中央には、巨大な円形の装置。


「……これが実験装置か」


 黒瀬が呟く。


 白石が端末を接続する。


 ――ピッ。


 古い画面が点灯した。


 実験番号33


 白石が息を呑む。


「記録が残っています」


「開け」


 画面を進める。


 そこに表示されたのは――


 実験目的:アーク鉱の反応元となる未知領域への接触


「未知領域……?」


 黒瀬が画面を見る。


 白石がさらに進める。


 アーク鉱を利用し、空間上に特殊反応を発生させる。


 次の記録。


 反応領域内に、未知の空間を確認。


 黒瀬が黙る。


「空間そのものを調べていたのか」


「はい」


 さらに進む。


 接触を試みる。


 そして――


 応答あり。


 二人の動きが止まった。


「……応答?」


「向こう側から反応した、という意味でしょう」


 白石が答える。


 さらに記録を進める。


 しかし。


 そこでデータが途切れていた。


「ここから先がありません」


「削除されたのか?」


「おそらく」


 白石がデータを復元する。


 数秒後。


 一行だけが表示された。


 『境界を開くことに成功』


 黒瀬の表情が変わった。


「……境界」


「はい」


 白石が画面を見つめる。


「17年前、この装置は……何かとつながった可能性があります」


 その瞬間。


 ――ドォン!!


 地下施設全体が揺れた。


「桐生!」


 黒瀬が振り返る。


「戻るぞ!」


⸻


 俺は床に倒れていた。


「……くそっ」


 右腕が動かない。


 巨大生物がゆっくり近づいてくる。


 もう一度来る。


 そう思った。


 だが。


 巨大生物は突然、止まった。


 そして33番の扉を見る。


 ――ドクン。


 扉の向こうから音がした。


 巨大生物が低く唸る。


 俺も扉を見る。


「……何があるんだ」


 そのとき。


 黒瀬と白石が戻ってきた。


「桐生!」


「大丈夫です……」


 白石が俺を見る。


「33番について分かったことがあります」


「何ですか?」


 白石は一度、巨大生物を見る。


 そして言った。


「17年前、この施設では――」


 少し間を置いて。


「この世界と、別の場所をつなぐ実験が行われていました」


 俺は息を呑んだ。


「別の……場所?」


「はい」


 白石が答える。


「そして、その実験は成功していた可能性があります」


 巨大生物が33番の扉を見る。


 俺はその赤い目を見る。


 こいつは知っている。


 そんな気がした。


 17年前。


 この世界と何がつながったのか。


 そして――


 なぜ、巨大生物はその場所を守っているのか。


 まだ、答えは出ていない。


 だが。


 俺たちは今。


 十七年前に起きた事件の核心に、初めて触れた。

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