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第14話 再会

――特異災害対策隊・本部。


 会議室へ向かう廊下を歩きながら、俺は何度も右手を見た。


 見た目は、普通の手だった。


 傷もない。


 腫れてもいない。


 それなのに。


 この手には、明らかに何かがある。


 黒い光。


 特異生物への反応。


 そして、昨日の巨大生物。


 全部が、俺の身体に起きた異変とつながっている。


「……俺は、どうなったんだ」


 小さく呟く。


 アーク鉱に触れる前までは、普通だった。


 普通の会社員だった。


 特異生物なんて存在すら知らなかった。


 それなのに、あの日を境に全部が変わった。


 右手がおかしくなった。


 特異生物が俺に反応するようになった。


 そして昨日は、巨大生物まで俺を見た。


 怖くないと言えば嘘になる。


 このまま力が強くなったら。


 俺はどうなる?


 元の身体に戻れるのか。


 それとも――


 二度と戻れないのか。


 だから俺は、ここにいる。


 特災隊に協力するためだ。


 政府が持っている情報。


 十七年前の研究記録。


 地下施設。


 そして――


 実験番号33。


 俺一人では調べられない。


 だから、彼らの力を借りる。


 自分の身体に何が起きたのか。


 なぜ俺だけがアーク鉱に反応するのか。


 なぜ特異生物は俺を見るのか。


 そして――


 俺は一体、何になったのか。


「……知りたい」


 俺は右手を握った。


 元に戻れるなら、戻りたい。


 でも。


 戻れなかったとしても。


 何も知らないままなのは嫌だった。


 これはもう、誰かに巻き込まれた事件じゃない。


 俺自身の問題だ。


 だから俺は、自分の意思でこの事件を追う。


⸻


「来たか」


 会議室に入ると、黒瀬が待っていた。


 その隣には白石。


 大型モニターには、昨日の地下施設の映像が映し出されている。


「実験番号33について、追加の情報が見つかりました」


 白石が言った。


「どんな情報ですか?」


「正確には、情報ではありません」


 白石が画面を切り替える。


 十七年前の施設図面が表示された。


「記録上、地下二階には存在しないはずの区画があります」


「存在しない?」


「はい」


 白石が一部分を拡大する。


「この壁の奥です」


 そこには、小さな空白があった。


「古い図面では、この部分だけ記録がありません」


 黒瀬が腕を組む。


「だが、昨日の映像を見る限り……」


「空間があります」


 白石が答えた。


「しかも、内部から微弱な電力反応が確認されています」


 俺は画面を見つめた。


「そこに、33番がある?」


「可能性があります」


 黒瀬が俺を見る。


「だから、もう一度地下へ入る」


「俺も行きます」


 黒瀬が少しだけ眉を動かした。


「危険だぞ」


「分かっています」


 俺は答えた。


「でも、俺のことを調べるなら……そこに行く必要があるんですよね?」


 黒瀬はしばらく俺を見る。


 そして、


「ああ」


 短く答えた。


「お前自身が、それを望むならな」


「行きます」


⸻


 数時間後。


 俺たちは再び地下施設へ向かった。


 前回と同じ場所。


 だが、今回は装備が違う。


 隊員たちは完全武装。


 特殊な測定機器も用意されている。


「今回の目的は資料の確保だ」


 黒瀬が隊員たちに指示する。


「無理に戦う必要はない」


 白石が続ける。


「異常を確認したら、即座に報告してください」


 俺は二人の話を聞きながら、地下への階段を見る。


 前回。


 ここから巨大生物が現れた。


 思い出すだけで、背中が冷たくなる。


 それでも。


 俺は足を止めなかった。


⸻


 地下へ降りる。


 冷たい空気。


 湿った壁。


 古い照明。


 前回と同じ通路を進んでいく。


 だが。


 今回は静かだった。


「……反応ありません」


 隊員が端末を見る。


「特異生物は?」


「確認できません」


 黒瀬が周囲を見る。


「妙だな」


 白石も頷く。


「前回は大量にいました」


 俺は通路の奥を見る。


 なぜか胸の奥がざわついていた。


「……何か、いる」


 口から言葉が漏れた。


 白石が俺を見る。


「感じるんですか?」


「分からない。でも……」


 右手が熱い。


「近い」


 黒瀬が警戒する。


「全員、警戒」


⸻


 さらに進む。


 巨大なアーク鉱があった部屋を通り過ぎる。


 前回は強烈な光を放っていたアーク鉱も、今は静かだった。


「反応は?」


 黒瀬が聞く。


「微弱です」


 白石が答える。


 俺はアーク鉱を見る。


 右手が少し震えた。


 ――熱い。


 だが、前回とは違う。


 まるで、


 何かに呼ばれているような感覚。


「……何なんだよ」


 俺は右手を握った。


⸻


 しばらく進むと、一枚の巨大な扉が現れた。


 他の扉とは明らかに違う。


 厚い鉄。


 何重ものロック。


 そして中央には、古いプレート。


 白石がライトを当てる。


「……ありました」


 全員が止まる。


 プレートには、


 第33実験区画


 と刻まれていた。


「ここが……」


 黒瀬が呟く。


 白石が端末を接続する。


 ――ピッ。


 古い機械が動き始める。


 画面に文字が表示された。


 実験番号33


 俺は息を呑んだ。


「本当に残ってた……」


 白石が操作する。


 次の画面。


 実験内容――――


 そこで文字が途切れていた。


「消されている?」


「はい」


 白石が答える。


「ですが、完全には消えていません」


「復元できるか?」


「少し時間が必要です」


 白石が作業を続ける。


 そのとき。


 俺の右手が突然熱くなった。


「……っ!」


 黒い光が、指の隙間から漏れる。


「桐生!」


 黒瀬が振り返る。


「大丈夫です!」


 俺は右手を押さえる。


 しかし。


 今度は俺だけじゃなかった。


 施設の奥から、


 ――ズン。


 地面が揺れた。


 全員が動きを止める。


 ――ズン。


 もう一度。


「反応です!」


 隊員が叫ぶ。


「地下深部から巨大な反応!」


 白石が画面を見る。


 顔色が変わった。


「……この反応」


「何だ?」


 黒瀬が聞く。


「昨日の個体です」


 その瞬間。


 地下の奥から、


 ――グゥゥゥ……。


 低い咆哮が響いた。


 照明が一斉に消える。


「全員、構えろ!」


 黒瀬が叫ぶ。


 暗闇。


 誰も動かない。


 俺は息を殺した。


 そして。


 暗闇の中に――


 二つの赤い光が浮かんだ。


「……来るぞ」


 黒瀬が呟く。


 巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。


 四本の脚。


 異常な巨体。


 背中から伸びた巨大な突起。


 昨日、地下から現れた存在。


 巨大生物。


 だが。


 そいつは俺たちを見ると、すぐには襲ってこなかった。


 ゆっくりと俺たちの横を見た。


 その先にあるもの。


 ――第33実験区画。


 巨大生物が低く唸る。


 そして。


 俺たちと33番の間に、


 ゆっくりと身体を移動させた。


 まるで――


 「ここから先へは行かせない」


 そう言っているようだった。


 白石が呟く。


「……守ってる」


 黒瀬が銃を構える。


「全員、戦闘態勢」


 俺は巨大生物を見る。


 右手から、黒い光が漏れていた。


 巨大生物の赤い目が、


 ゆっくりと俺を捉える。


 そして――


 巨大な身体が、地面を踏みしめた。


 ――ドンッ!!


 地下施設全体が震えた。


 俺は拳を握る。


 逃げるつもりはなかった。


 ここには、俺が知りたい答えがある。


 その答えを知るためなら――


 俺も戦う。

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