第13話 本部
――特異災害対策隊・本部。
施設を出てから数時間後。
俺は黒瀬と白石に連れられ、本部の会議室にいた。
大きなテーブル。
壁一面のモニター。
その中央には、昨日まで俺が知らなかった情報が表示されている。
「まず、今までに分かっていることを整理します」
白石がモニターの前に立った。
最初に表示されたのは、
アーク鉱
という文字だった。
「今回の件を理解するには、まずこれを知ってもらう必要があります」
白石が続ける。
「アーク鉱は、17年前以上前から政府によって研究されていました」
画面に、古い研究施設の写真が映る。
「そして、研究によって一つの重要な事実が分かっています」
画面が切り替わる。
人間。
犬。
鳥。
鹿。
それぞれの実験データが並んでいる。
すべて、
反応なし
と表示されていた。
「アーク鉱は、人間や通常の動物には反応しません」
白石が言う。
「どれだけ近づけても、基本的に何も起こらない」
次の画面。
そこには、異形の生物が映っていた。
「ところが、特定の生物だけは違った」
アーク鉱が光る。
同時に、生物が反応する。
「この反応を示す生物が、現在の特異生物です」
俺は画面を見つめた。
「つまり……」
俺は口を開いた。
「アーク鉱が特異生物を作ったわけじゃない?」
「その通りです」
白石が頷く。
「少なくとも、普通の動物がアーク鉱によって特異生物になったという証拠はありません」
黒瀬が腕を組む。
「むしろ、アーク鉱に反応する生物が最初から存在していた」
俺は息を呑んだ。
「最初から……?」
「はい」
白石が画面を切り替える。
古い研究記録。
そこには、現在の特異生物とよく似た姿が映っていた。
「十七年前の研究記録にも、同じような生物が残っています」
四本の脚。
異常な身体構造。
赤く光る目。
俺がこれまで見てきた特異生物と同じ特徴だった。
「当時の研究員は、この生物を地球上の既知の生物として分類できませんでした」
画面に文字が表示される。
既知の生物分類に該当せず
「だから、研究対象になった」
黒瀬が言った。
「そして十七年間、正体は分からないままだ」
俺は画面を見つめた。
「……じゃあ、こいつらはどこから来たんですか?」
白石が黙った。
黒瀬もすぐには答えなかった。
「それが、最大の謎です」
白石が静かに言った。
⸻
画面が切り替わる。
今度は、昨日地下施設から現れた巨大な生物だった。
俺は思わず息を止める。
「こいつも、アーク鉱に反応しました」
巨大生物の反応データが表示される。
「ただし、特異生物とは別の存在です」
「別?」
「生体反応が一致しません」
特異生物と巨大生物。
二つのデータが並ぶ。
「ですが、アーク鉱への反応だけは確認されています」
黒瀬が言った。
「そして、あの個体にも十七年前の記録がある」
「……あいつも?」
「十七年前の施設で、似た個体が確認されています」
俺は言葉を失った。
十七年前。
特異生物。
巨大な生物。
アーク鉱。
すべてが同じ場所に存在していた。
⸻
白石が画面を切り替えた。
今度は地図だった。
複数の地点に印が表示されている。
「現在、アーク鉱が確認されている場所です」
続いて別の印が表示される。
「そして、特異生物が確認された場所」
いくつかの地点が重なっている。
「完全に一致しているわけではありません」
白石が説明する。
「ですが、近い場所で確認されるケースが多い」
「特異生物はアーク鉱を探している?」
「可能性はあります」
白石が答える。
「少なくとも、両者に強い関係があることは間違いありません」
俺は地図を見つめた。
ここまでなら、まだ分かる。
分からないのは――
「じゃあ、俺は?」
俺は自分の右手を見る。
あの黒い光。
特異生物の反応。
そして、巨大な生物。
白石が俺を見る。
「そこが、もう一つの問題です」
画面に俺の名前が表示された。
桐生光一
その横には、
アーク鉱への反応:あり
と表示されている。
「人間には反応しない」
白石が言う。
「通常の動物にも反応しない」
そして俺を見る。
「なのに、あなたには反応した」
「……はい」
「しかも、あなたが反応するようになったのは、アーク鉱に触れた後です」
俺は黙った。
「その前は?」
黒瀬が聞く。
「何もありませんでした」
白石が答える。
「少なくとも、確認されている限りでは」
画面に時系列が表示される。
以前
反応なし。
↓
何らかの接触
↓
アーク鉱に接触
↓
反応が発生
俺はその画面を見つめた。
「その間に、何かありませんでしたか?」
白石が聞く。
俺は答えようとして――
やめた。
あの日。
あの場所で。
俺は確かに、普通ではないものに触れている。
だが、それをどう説明すればいい。
「……分かりません」
俺はそう答えた。
白石は何も言わなかった。
ただ、俺の反応データを見つめていた。
⸻
黒瀬が立ち上がる。
「今の時点で、整理する」
モニターに項目が表示される。
一、アーク鉱は人間や通常の動物には反応しない。
二、特異生物はアーク鉱に反応する。
三、特異生物は十七年前から存在していた。
四、巨大生物もアーク鉱に反応するが、特異生物とは別の存在。
そして最後。
五、桐生光一もアーク鉱に反応する。
俺は五つの項目を見つめた。
「……結局、分かってないことばかりですね」
「ああ」
黒瀬が答える。
「だが、一つだけ確かなことがある」
俺は黒瀬を見る。
「何ですか?」
「アーク鉱は、原因ではない可能性が高い」
「……原因じゃない?」
「アーク鉱が生物を作ったわけじゃない」
黒瀬が言う。
「すでに存在していた何かが、アーク鉱に反応している」
白石が続ける。
「問題は、その“何か”がどこから来たのかです」
会議室が静まり返る。
俺はモニターを見る。
十七年前の研究記録。
特異生物。
巨大な生物。
アーク鉱。
そして――自分。
全部が一本につながっている。
なのに、その中心だけが見えない。
そのとき。
「……まだ一つあります」
白石が言った。
新しい資料を表示する。
古い研究記録だった。
「十七年前の最終記録です」
画面に、
実験番号33
と表示される。
「この実験だけ、詳細が残っていません」
「削除されたのか?」
黒瀬が聞く。
「はい」
白石が答える。
「映像も、実験内容も、対象もありません」
「何か残っていないのか?」
「一つだけ」
白石が画面を拡大する。
そこには、短い文章が残されていた。
――「対象はアーク鉱そのものではない」
俺は、その一文を見つめた。
「……どういう意味だ?」
黒瀬が呟く。
白石は答えなかった。
十七年前。
政府が研究していたのは、アーク鉱だけではなかった。
では――
何を研究していた?
そして。
その研究は、今の俺たちとどうつながっている?
まだ、答えは出ていなかった。




