第9話 カラオケボックスに連れてこられた理由
学校の授業をサボって、午前の十時頃からカラオケボックスを利用する高校生四人組。
それは、世間から見ると一体どんな風に映るのだろう。
確実に非行に走っている少年少女だと思われているはずだ。
なるべくそんなことはしたくないと思っていたのに。
俺は、瞳にヤバい光を灯らせた屋島三姉妹と共に、午前からカラオケボックスの個室を利用していた。
もちろん、これは俺の意思じゃない。
春花と二人きりだった状況で、柊花と捺花に遭遇した。
いや、遭遇したというより、二人は俺と春花のことを探していたんだと思う。
ようやく見つけた、と息巻く柊花と捺花は、冷ややかな瞳に確かな殺意を浮かべていた。
何をしているの、と問われて、くだらない誤魔化し文句など通用しない。
とりあえずはわかりきった嘘で切り抜けようとしたが、当然失敗して、俺と春花は柊花と捺花に手を引かれ、今ここ、カラオケボックスの個室にいる。
「可愛くてご〜め〜ん〜♪」
マイクを手に持ち、スカートを揺らして歌っているのは春花だ。
俺とのことで柊花と捺花はピリついてるのに、このマイペース加減。
これぞ春花って感じだけど、こっちからすれば歌ってないでどうか言い訳の一つでも考えてくれ、といったところだ。
さっきからずっと二人の視線が痛い。
とんでもない目で俺睨まれてる。
「ふぅ。……あれ? しゅうちゃんとなっちゃん、まだ曲何も入れてないの? 春花が連続で入れちゃうけど、いい?」
マイペース過ぎる春花のセリフを受け、柊花と捺花は「歌ってないでここに座りなさい」と冷ややかに言う。
一度は拒否する春花だったが、再度圧をかけられ、素直に従っていた。
それもそうだ。
俺は既にこんなにも怯えてる。
いくら春花と言えど、逃げられるわけがなかった。
「それで、春花? 一曲歌って、色々白状する気になった? 何で勇信のこと襲うような真似してたの?」
捺花のこんな声音は聞いたことがない。
静かに、けれど完全に怒ってる。
「別に襲ったりなんてしてないよ……? ゆっちゃんに私の好意を伝えてただけで……」
「あんなに近付いてキスして、襲ってない、は無理があると思わないかしら?」
お次は柊花さん。
これまた捺花と同じで冷ややかに怒りマークの窺える声。
俺は、気配を消すかのように、ひたすら身を縮こまらせて下を向く。
「ねえ、ゆう君? あなたもそう思うでしょう? アレは完全に襲われてたわよね?」
突如として柊花が答えにくい質問を投げかけてきた。
勘弁して欲しい。何て答えればいいんだこれ。
「あ……え、えーっと……襲われ……てたのか? アレは……ははは……んー……」
「お・そ・わ・れ・て・た・わ・よ・ね・?」
「はい、襲われてました。すみませんでした」
速攻で答えてしまった。
本能が身の危険を感じた次第だ。
春花は「ちょっと!」とツッコんできたけど、心の中で謝るしかない。
これは無理です。今の二人、怖過ぎるので。
「だってよ、春花? 勇信、あんたに襲われてたってゲロっちゃった。どうすんの?」
正確には言わされた、という方が正しいですけどね、捺花さん。
「どうすんのって……そんなの私……!」
スカートの裾をギュッと握り、下を向いてから、小走りに俺の方へやって来る春花。
何をするのかと思えば、そのまま俺の隣に座り、腕を抱いてきた。
「そのまま責任とってゆっちゃんの彼女になる」
そして、訳のわからないことを言い始める春花さん。
俺もだが、一瞬柊花と捺花も固まった。
これは、いくら何でも強過ぎる。
引く気が一切無い。
「……あのね、春ちゃん? 少し聞いて?」
思わず悲鳴を上げてしまいそうなほどに恐ろしい柊花の冷ややかな声。
何を言い出すのか、俺はそのまま怯えていたのだが、
「ゆう君は私のです! あなたの彼女にはできません! 所有権は私にあるんです!」
春花と同じように、向かい側から小走りで俺の隣に座り、空いていたもう片方の腕を抱いてくる柊花。
もう、何が起きても驚かない。何を言われても驚かない。
仏の心。
急に幼児退行したように、柊花は春花と同じレベルで言い争いし始めた。
怖さは和らいだが、これはこれで収拾がつかない。
誰か助けてくれ。
そんな思いで正面を見やるのだが、
「ほんっと、二人とも仕方ない。ね、勇信? 子どもは放っておこ?」
気付けば俺の真正面にいた捺花。
唯一空いていた場所だ、と言わんばかりにかがみ、俺の頰に手で触れてくる。
「何やってるの捺花!?」
「なっちゃん何してるの!?」
両端の二人を置き去りにして、俺にキスしようとしていた捺花だったが、それを強引に左右から止められる。
頰を押され、タコ口になっていた。
思わず笑ってしまう。
あんなに殺伐とした雰囲気だったのに、何だそのギャグみたいな顔は、と。
「ちょ、やめてよ二人とも! お子様は勇信の腕で満足しとけばいいでしょ!? 正面は私がもらうんだから!」
「そんなことさせるわけないでしょ! ゆう君の右も左も、正面だって全部私のものなんだから!」
「しゅうちゃんのものでもないし、なっちゃんのものでもないから! ゆっちゃんは、全部春花のものでーす!」
ギャアギャアと言い争う三人。
けど、何度も言うが、さっきのあの雰囲気よりはマシだ。
俺は安堵しつつ、彼女らに待ったをかけた。
「安心してくれ、まだ俺は誰のものでもないから」
「「「まだ、でしょ?」」」
仲良く三人が声を揃えて言う。
つい何とも言えない表情を作ってしまった。
「……そこに関しては詳しくは話せないけど、俺は……」
「「「これからは?」」」
「だから、詳しくは話せません。シークレット」
口元に指でバツ印を作って言う俺。
それなのに、その指を捺花は外して、強引にキスしてきた。
「「あぁぁぁぁぁぁ!!!」」
なんか、今になって何でカラオケボックスに連れてこられたかわかった。
こうやって大声を出しても何も言われないから、みたいです。
「何やってるの捺花!!! いきなりなんて最低!!! この犯罪者!!!」
柊花が引き剥がしにかかるが、捺花の力は強い。
びくともせず、俺の唇を奪い続けてきた。
俺も捺花から離れられない。
「……ふーっ……♡ ふーっ……♡ わらひのもの……ゆーしんは……わらひの……♡」
鼻息荒く、執念剥き出しの捺花さん。
目は完全にキマっていた。
俺、生気取られてるんじゃなかろうか。
「なっちゃんがその気なら、こっちにも考えがあるもんっ」
そう言ってしゃがみ込み、俺の下半身にキスしようとしてくるのは春花だった。
「んんんんむがぁぁぁ!?!?」
「ははははは、春花ぁぁぁ!?!?」
叫ぶ捺花と柊花。
俺も叫んだ。
それだけはやめろ。
アウト。完全にアウトだ。
でも、春花は止まらず、制服ズボンのジッパーを見事に下げてくる。
「はぁ……はぁ……♡ お口で満足……させだけるね♡」
「何言ってるのあなたは!? 離れなさい、このおバカ!」
「ほんとだよ! 何がお口で、だ! 私がその口塞いでやる!」
柊花も捺花も、二人して春花を引き剥がしにかかった。
これまたすごい力の春花だったけど、二人分には敵わない。
俺はようやく自由の身になるが、身も心もなぜかめちゃくちゃにされた気がしていた。
「これは……ヤバい……」
つい呟いてしまうほど、俺たちの関係は深みにハマっていってしまっていたのだ。




