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第10話 甘くて柔らかい

 通常、学校が終わるのは夕方の四時頃だが、今はまだ昼時。


 サボりという名の早退をした俺と屋島三姉妹は、四人揃ってどこかで時間を潰さなければいけなかった。


 家には帰れない。


 学校から連絡がいってるのかはわからないが、恐らく親へ連絡がいっていれば、今度は母さんたちが俺たちへ直接電話を掛けてきたりするはずだ。


「ママから連絡があったら家帰ろ。何も無いのに帰ったら、それはそれで誤魔化すの面倒だし」


 と、捺花。


 それもそうだった。


 屋島三姉妹の母、優花ゆうかさんはとても心配性だ。


 娘のことを想っていつだって行動するし、だからこそ早退したなんて事実が彼女の耳に入れば、体調不良をすごく気にしてくると思う。


 俺のオカンは……まあ、心配してくるとは思う。


 それ以上に疑い深い性格でもあるから、俺が仮病を使って早退したこともすぐに察知してきそう。


 仮病なんてのがバレたら、うちの母親は即キレだからな。


 悪いのはどう考えても俺なのだが、なるべく面倒ごとは避けたい。


 すまないが、ここは嘘をつかせていただく。


 四時頃まで家には帰らない。


 早退とは悟られない方向でいく。


 何度も言うが、学校から連絡があれば、その時は体調が悪いことをどうにか演技しないといけないわけだが。


 ってことで、俺たちは四人揃ってカラオケボックスに入り浸り続ける。


 適当に順番で歌を歌い、疲れたらソファに座ったり寝転んだり、ダラダラして過ごす。


 無論、俺は簡単にだらけることができなかった。


 なぜか?


 それは決まってる。


「……あの、三人とも? ちょっと俺も体勢変えたいんだけど、一旦どいてくれない?」


「「「ダメ」」」


 柊花は俺の右腕を抱きながら歌を歌い、捺花は俺の太ももを枕代わりにして寝転び、春花は左腕に張り付いて、俺にお菓子を食べさせてくれていた。


「えへへ……♡ ゆっちゃん、春花のあげるポテチ……美味しい?」


「春花のあげる、って表現が必要なのかはわかんないけど、とにかく美味しいよ。でも、そろそろ飽きてきたな。一旦立ちたい気持ちもありますね」


「いいの、ゆっちゃんは立たなくて大丈夫。ポテチが飽きたって言うんなら、他のお菓子買ってくるね。何がいいかな?」


 買いに行ってくるって、まさかコンビニまで……?


 問うと、春花は頷いて細く説明してくれる。


「なっちゃんに買ってきてもらうから、安心して? ね、なっちゃん? さっきからゆっちゃんの太もも独占してるんだから、ポテチに代わるお菓子、何か買ってきて? 十分以内にお願い」


 春花に言われ、俺の太ももを枕代わりにしている捺花がこちらを睨みながら「は?」と圧を掛けてくる。


「春花、あんた何言ってんの? そんなの自分で行ってくりゃいいじゃん? 勇信の奴隷としてさ」


「気付かないの? なっちゃんがゆっちゃんの太ももにずっと頭乗せてるから、それでゆっちゃん足が痺れてるんだよ? サイテーだよ。ごめんね、ゆっちゃん。私が後でマッサージしたげるね? ……じゅる♡」


「はーい出ましたー、じゅる、出たー。勇信、気を付けてねー? この変態、マッサージとか言いながら勇信の体触りまくるつもりだからねー?」


 捺花が言って、「違うもん!」と否定する春花。


 果たして本当に違うのだろうか。


 言い方からして、マッサージを通して奉仕しようなどという気概はあまり感じられなかった。


 どちらかというと、自分の欲望を解消させたいような、そんな感じだ。


「で、でも、ゆっちゃんの奴隷っていうのは悪くないかも……♡ 困ってるゆっちゃんのためなら私……どんなことでもするよ……?」


 と、イタズラに舌を出して、誘惑的な表情で上目遣いの春花。


 柊花と捺花が特にヤバくなった、と思い込んでいた頃の俺を殴ってやりたい。


 どこがだ。


 今のところ春花が一番ヤバいじゃん。


 どっちかというと幼いタイプだったのに、それを活かして信じられないくらい迫ってくる。


 もはやまともに直視できなかった。


 視線を逸らしながら注意するしかない。


「……春花さん? 高校生女子がそんな顔して男子に迫っちゃダメです。ほんと勘弁してください」


 俺がしどろもどろになりながら言うと、


「そうよ? 何ビッチみたいなことしてるの、春花?」

「ね。ほんと言えてる。色気の無いあんたがそんなことしても意味ないんだから、どいて? 勇信はアタシのものなんだし」


 柊花と捺花。


 二人仲良く春花を引き剥がしにきた、と。


 そう思っていたが、捺花のセリフに今度は柊花が反応する。


「捺花、アタシのもの、ってどういうことかしら? ゆう君はあなたのものではなくて、むしろ私のものだと思うのだけれど?」


 言いながら、その豊満な胸で俺の頭を抱き締めてくる柊花。


「ちょっ、な、何胸押し付けてんの!?」


 捺花の声だけが聞こえる。


 俺の視界は柊花の胸によって遮られ、いい匂いに包まれていた。


「……やば……今なら俺……死んでもいいかも……」


「ゆ、ゆっちゃん何言ってるのぉぉぉ!?」


 春花の動揺する声も聞こえてくる。


 だって仕方ない。こんなの男の夢だ。


 拒否しなきゃとか、公平性を保たせなきゃとか、そんな理性的思考が一気に吹っ飛んだ。


 思わず本音を吐露してしまった次第だ。


「うふふっ……♡ いいわよ、ゆう君♡ 死んじゃダメだけど、私とこうして一つになりましょ……♡ ずっと、ずっと、私たちは一緒……永遠に一緒……♡ クフフフフッ♡」


「「なわけあるかー!!!」」


 重なる捺花と春花の声。


 ふにゅふにゅの夢の中にいた俺だが、その声が聞こえたと同時に、カラオケボックス内であるという現実世界に引き戻された。


 薄暗い場所にただいま。


 柊花の胸……控えめに言って最高だった……。


「はぁ……はぁ……♡ んんんっ〜……♡ 残念っ……ゆう君のぬくもり……もっと感じてたかったのに……♡」


 瞳をトロンとさせながら、綺麗な指を口元にやっている柊花。


 その姿を見てドキッとする俺だが、対照的に捺花と春花はブチギレだった。


「まったくだよね……! びっくりだよ、姉妹の二人がとんでもないビッチだったなんて……!」

「しゅうちゃんとなっちゃんが敵だとは思わなかったなぁ。ゆっちゃん、もう、やっちゃっていいよね?」


 ……何を?


「戦争♡」


 俺の心を読むようにして言う春花。


 刹那、三人はわちゃわちゃとぶつかり合い出したんだけど、俺はそれを必死になって止めるのだった。

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