表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第18話 健気なお願い。淀んだ闇の光。

「あー、美味しかったー! やっぱり真央おばちゃんの手料理は最高だねー!」


 夕飯を摂り終え、俺は自室で天と二人きりになる。


 もちろん、二人きりと言っても気は抜けない。


 どこに仕掛けられているかわからない監視カメラで、柊花たちは俺を見張っているのだ。


 てっきり天と二人きりになった瞬間家まで押しかけてくるかと思ったが、それはしてこない。


 ギリギリの理性でそれは踏みとどまっているといったところか。


 家には父さんと母さんもいることだし。


「天、さっそくだけど、さっきのことについて詳しく聞かせてくれ。花夫さんがどうとか言ってたことについて」


 俺が切り出すと、天はカーペットの上に座り込み、そのままグデーっと仰向けになった。


「え〜? もう〜? ユたくんってば、案外せっかちだね〜」


 ダラダラしながら返してくるから、俺はため息。


 学習机付属の椅子に腰掛け、スマホの電源をつけた。


 ……柊花たちからのメッセージ通知が三桁件数来てる。


「せっかちっていうか、早いところハッキリさせたいんだよ。お前、明らかに変じゃん? 昔なら、もっと俺にグイグイ来てた。もうほんと、襲うつもりか、ってくらいに」


「ふふふっ。自分が好かれてるって自惚れてますな〜? 私、そんな単純な女じゃないんだからね〜?」


 別に自惚れてない。


 そうやって俺が勘違いするくらいに、前までの天は俺に襲いかかって来てたのだ。


 違和感くらい抱く。


「まあ、シンプルに私も大人になったってことですよ。いつまでも従兄弟に対して好き好き攻撃しません」


「……」


「って、何だよユたく〜ん! 黙り込んじゃってさ〜! 私が迫って来ないの、そんなに寂しい〜? 仕方ない、じゃあちょっとでも……」


 起き上がり、近付いてくる天だったが、俺は「違うだろ」と首を横に振る。


「今したいやり取りはそういうのじゃない。いい加減、ちゃんと話せよ?」


 ピタリ止まる天の体。


 少し強く言い過ぎただろうか。


 いや、と。


 俺が慌てて言葉を続けようとしたところで、天は「わかったよ」と、神妙な口調で返してくれる。


「わかった。ユたくんの言う通り、真面目に話す。この部屋、柊花ちゃんたちにも監視、盗聴されてるんでしょ? それなら私にとっても都合が良いし」


「……私にとっても都合が良いってどういうことだよ?」


 控えめに俺が返すと、天は呆れるような笑みを浮かべ、


「そのままだよ。私は、花夫さんの意思を君たちに伝えるためにここへ来たんだからね」


 花夫さんの意思。


 それを聞いて、俺は居ても立っても居られない気持ちになる。


「花夫さんの意思っていうのは要するに……」


「うん。ユたくんと、柊花ちゃんたちのことについて」


 俺は椅子から立ち上がった。


 そのまま天の前まで行き、同じようにカーペットの上で腰を下ろす。


「聞かせてくれ。それが聞きたかった」


「もちろん話すよ。ユたくん、これが聞きたくてたまらないっぽいからね」


 座ったまま、足を伸ばす天。


 カメラ越しで、柊花たちはどんな思いを抱いているんだろう。


 わからないが、俺は生唾を飲み込んだ。


 天は軽く深呼吸して、言葉を紡ぐ。


「まず、ユたくん? あなたは、早く誰か一人の女の子を選びましょう」


 いきなり高火力の言葉をぶち込んでこられる。


 思わず俺は頰を引き攣らせてしまった。


「……いや、だからさ、それができれば苦労しないわけで……」


「そうやって悩む必要もないから。ユたくんが一人の女の子を選んでも、柊花ちゃんたちはきっと認めてくれるよ」


 瞬間、ドタバタと廊下から音がしてきて、


「あなたは本当に何を言ってるのかしら?」

「ほんと、あんた何言ってんの?」

「何を何を何を何を何を何を……」


 屋島三姉妹のご登場。


 勢いよく開けられた扉は、壊れてないか心配になる。


 大丈夫なことを祈りつつ、俺は冷や汗をダラダラ浮かべた。


 やっぱりまあ、こうなりますよね。


「何って、三人のお父さんが言ってたことをユたくんにそのまま伝えてるだけだよ? 花夫さん、私にも言葉を遺してくれてたの」


「「「何であなたに?」」」


 声が重なる。


 揃いも揃って殺意に満ち溢れた口調。


 父さんと母さん、柊花たちが来たこと知ってんのかな……?


 まあ、知ってて俺の部屋まで上げたんだろうな、たぶん。


「ふふっ。何でだろうね? もしかしたら、私も結構信頼されてたのかも?」


「クフフフ……おめでたいのね、あなた。それ、多分気のせいよ? お父さんが泥棒猫に大切なことを伝えるはずがないから」

「そうそう、柊花の言う通りだよ。お父さん、独り言を呟いてただけでしょ? それをあんたが勝手に聞いてただけ」

「ゆっちゃんは春花のものゆっちゃんは春花のものゆっちゃんは春花のものゆっちゃんは春花のものゆっちゃんは春花のもの……」


 落ち着いて欲しい。


 冷静になって、天の話の続きを聞こう。


 俺は柊花たち三人に言って、どうにか場を抑えた。


「落ち着くから、私の頭撫で撫でして、ゆう君?」

「じゃあ、アタシは太もも撫でて♡」

「春花はその……ゆっちゃんの綺麗な指舐めたいな……♡」


 まるで脈絡がない。


 頭撫でるだけならまだしも、指舐めとかぶっ飛び過ぎだった。


 さすがに春花のお願いは断り、俺は仕方なく三人を手招きして集め、頭を撫でてあげる。


 太もももダメだ。


 いたいけな男子高校生が、同い年の女子の脚なんて触って良いはずがないだろう。絶対冷静じゃなくなるんだから。


「ごめん、天。予想通りこういうことになったけど、俺が一人の女の子を選ぶとか……無理だ」


 言うと、天はすかさず首を横に振って、


「ううん。無理じゃない。選ばないとダメなの」


「……選ばないとダメって……」


「もちろん、それは柊花ちゃんたち三人のうちから一人ね?」


 淡々と、ハッキリ言う天。


 表情を変えず、冷静に俺をジッと見つめて言葉を紡ぐ姿に、少し驚いてしまう。


「……天……お前は……」


「だから、そういう自惚れはいらないって言ってるよね? 余計なこと考えなくていいから、早く柊花ちゃんたちの中から一人選ぶの」


 強く言われ、俺は思わず下を見やる。


 何でか、柊花たちは「私を選んで」と言ってこない。


 ただ、ジッと俺のことを見つめている。


 彼女らを撫でていた手も止まった。


「……それが、本当に花夫さんの言ってたことなのか?」


 苦し紛れに天へ問いかける。


 彼女は確かに頷いて応えた。


「花夫さん、責任感じてたの。ユたくんに自分の娘三人を背負わせて、将来苦しまないか、って」


「っ……」


「歳を重ねていけば、自然と恋をして、その時近くにいる女の子を選ぶことになるわけだけど……それが三姉妹のうちの誰かだった場合、ユたくんの首を絞めてしまいかねない。花夫さんはね、柊花ちゃんたち三人のことも想ってたけど、ユたくんのことも同じくらい大切に想ってたの」


 言われ、花夫さんの顔が脳裏に浮かぶ。


 俺は……。


 俺は……!


「まあ、花夫さんがそう言ってたから、必然的に私はユたくんの恋愛候補からフェードアウトするしかない、ってわけなんだよね。従姉妹だし、当然と言えば当然なんだけどー! ふふふっ!」


 頭の後ろで手を組み、軽く言ってのける天。


 それが無かったら、彼女は俺のことを恋人にしたい、と思い続けてくれていたのだろうか。


 胸が痛む。


 急な展開で感情を揺さぶられ、心がついていかなかった。


 危うく軽い言葉を投げてしまいかねない。


 それだけは嫌だった。


 俺は、俺の中では、皆大切で、だからこそ……。


「っていう感じでね、神妙な空気にさせちゃいましたけど、私からは以上です! 色々悩んでるユたくんに、金言を与えた天ちゃんなのでした! なはははっ!」


 虚しく、場に天の笑い声が響く。


 俺だけじゃない。


 柊花たちも黙り込み、俺を見つめている。


 俺が誰かを選んだ瞬間、冗談混じりだった好意のぶつけ合いが、冗談じゃなくなる。


 それを皆わかっていたのだ。


 残酷なまでの宣告が近付いている。


「……お、俺……」


 と、俺が口を開いたところ、


「……私、今日は早めに寝るわ。おやすみなさい」


 柊花が部屋から出て行った。


 それに続くように、春花も部屋を出ていく。


 俺は呼び止めようとするものの、それを叶えられず、ただその場に座り込んだまま。


「二人とも……」


 消え入りそうな俺の声。


 どうしよう。


 早く二人を追いかけないと。


 おやすみって言ってたけど、このまま家に帰しちゃダメな気がした。


「どうするの、ユたくん? 二人のこと、追いかける?」


 天が問いかけてくる。


 俺は……。


「……だめ。行かないで?」


 立ち上がろうとした刹那、俺は手を引っ張られてしまう。


 そこには、当然ながら残っている捺花の姿。


「……アタシ……今日はこのまま勇信の部屋で寝る……」


 健気にそう訴えてくる彼女の目は、揺れながらも真っ直ぐで、どこか淀んだ闇を浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ