第16話 ユたくんに伝えたいこと
美少女からのキスで溺れる。
そんな経験、一度でいいからしてみたい。
漫画やアニメを見ながら羨ましく思っていたが、こんなことになるならそんな経験したくなかった。
「ねえ、ゆう君? 今から私がキスの上書きをするけれど、窒息死したらごめんなさい。その場合、私もちゃんと後を追うから、心配せずに逝ってちょうだいね? 二人で未来永劫、魂レベルでずっと一緒にいましょう?」
目の前に修羅がいる。
俺、まだ、死にたく、ない。
冷や汗が、止まら、ない。
「あのー、柊花さん……だけじゃないな。捺花と春花もいるけど、とにかく三人とも? 皆俺のこと守るって言ってくれてたよね……? 死んじゃったら……それも意味が無くなるんじゃ……? 俺、まだ死にたくないよ……???」
「「「じゃあ、この泥棒猫をさっさと追い出して?」」」
俺の部屋の隅。
そこでニヤニヤしてる従姉妹が一人。
「え〜、私はまだユたくんに会いに来たばかりだし〜w 出て行きたくないニャン♡」
わざとらしくぶりっ子全開。
ただ、それは自身の可愛さをアピールするためのものではなく、完全に柊花たちの怒りを煽るためだけのものだ。
俺はもう、恐ろしい三人の方を見やることができない。気配だけでわかる。とんでもなくご乱心だということが。
「ねぇ、勇信? アタシと勇信が二人きりになるには、もう同じお墓に入るしかないよね?」
「い、いや、そそそ、そんなことしなくても良いのでは!?」
「シなくちゃダメじゃないカナ? だってゆっちゃん、気を抜いたらすぐ春花以外のメス猫に盗られそうになるから」
「ひぃぃぃ!!!」
春花が俺にまとわりついてきて、首筋を細い指でなぞってくる。
綺麗に切り揃えられてはいるが、爪が皮膚を切るようにしてスライドされたから、思わず情けない声を出してしまった。恐ろしすぎる。
「はーい、春花。勇信から離れてね? アタシからすれば、アンタも大概意地汚い泥棒猫だから」
冷ややかな声音で言い、捺花は春花を引き剥がす。
やがて向かい合って、二人は互いに頰を引っ張り合っていた。
「な、捺花……春花……? 可愛い顔が台無しになるから、喧嘩は、や、やめた方がいいぜ?⭐︎」
苦笑いのウインクをかまして言ってやると、捺花と春花は片方ずつ俺の頰をつまんできて、
「勇信がアタシだけ見てれば済む話なんだよ?」
「ゆっちゃんが春花だけ見てれば済む話でしょ?」
綺麗に二人同時にツッコんでくる。
ぐうの音も出ない正論だけど、それをしてしまうとその一人を除いた他の子が暴走モードに突入してしまう。簡単な選択ではないわけだ。
「二人とも、ゆう君のこと離してあげて? 正妻がちゃんと面倒を見てあげるから」
「「絶対嫌」」
目がガチ過ぎる。
しかも柊花さん、今『正妻』と書いて『わたし』って呼んだよね?
どういうこと? 俺、まだ結婚してないが?
「あはははっw 相変わらず屋島三姉妹ちゃんたちは面白いなぁw からかいがいがあるっw」
「おい、天? お前が遊び感覚でした行為のせいで無くなる命もあるんだからな? その辺自覚しろ?」
俺が静かに言うと、天は肘でウリウリ突いてくる。
「そんなこと言って嬉しいくせにさ〜! 私を含め、こんな美少女四人からチュッチュしてもらえるなんて、ユたくんは幸せ者なんだぞ〜?」
自分で美少女とか言うな、と一応ツッコんでおく。
でも、天が美少女なのは間違いない。
通ってる高校でもファンクラブができてるくらいらしいし、堂々と可愛くない、とは言えなかった。それがまた悔しい。
「けど、真央おばちゃんから聞いてた通りだね。柊花ちゃんたち、小っちゃい時に逆戻りって感じ」
「何がどう逆戻りなのかしら?」
わかってるくせに、柊花はわざとらしく天に聞き返していた。
話そうとする天だったのだが、それすらも遮り、柊花は続ける。
「そもそも、あなたが今ゆう君の元にいること自体イレギュラーなのだから、そこからまず説明したら?」
怖いです、柊花さん。
「平日だし、学校もあるのに、あなたはサボるつもり? 親御さんから何か言われていないの?」
問われるも、天はケロッとして、
「あー、その辺は大丈夫! 私のお父さんとお母さん結構柔軟でさ! ユたくんちに行くって言ったら、すぐにOK出してくれたんだー!」
そうなのである。
天の両親、具体的に言うと、母さんの妹である絢音さんと真介さんは、とにかく自由。
どれくらいかと聞かれると、今の天のセリフの通り。
しかも、泊まる先が俺の家となると、ノーと言われるはずもなく。
天はこうして、今ここにいる。
俺の父さんや母さんも、家に人を受け入れるのを嫌うタイプじゃないから余計にだ。
「元々、早めにユたくんちには行こうと思ってたんだよね。事故に遭ったって聞いて、すごく心配してたからさ〜」
「へぇ、そうなの? それにしては随分と遅いご到着ね? 事故に遭ってもう一ヶ月以上経つのに……フフフッ」
勝ち誇った顔で天を煽りまくる柊花。
続くようにして、捺花と春花も嫌な顔でクスクス笑っていた。めっちゃ嬉しそう。
「仕方ないよ、柊花。アタシたちと違って、この子は従姉妹だもん。勇信と付き合えないことくらい自覚してるんだと思う」
邪悪な笑みを浮かべながら、わざと天の方を見て言う捺花。
天は苦笑いを浮かべていた。
なんかもう、俺の従姉妹の方が大人のように思える。
「まあ、従姉妹でも付き合えるし、結婚もできるんだけど〜?」
「できるわけないでしょ!?」
「できるわけないじゃん!?」
「できないよ!?」
いや、一応できはするよ。
迫真の表情で声揃えて、本当はすごい仲良いよな、この三人。
「あははっ……いやぁ、まあ、ねぇ? とにかくそういうことなんだけど……」
敢えて柊花たちのことを否定せず(多分面倒だから)、天は続ける。
「何というか、私も理解してはいるんだよね……ユたくんとのこと」
「……?」
疑問符を浮かべてしまう。
今のはどういうことだろう。
「結局、柊花ちゃんたちのお父さんには勝てないってこと、私はユたくんに伝えたくて来たの」
「「「???」」」
「だから、一週間ほどここに居候させていただきますっ。お願い、ユたくんっ♡」
ギュッ、と。
俺の手を握ってきながら言う天を見て、柊花たちは地獄のような形相で飛びかかってくるのだった。
……にしても、今の天の発言はどういうことだ。
気になりながら、俺は美少女四人のわちゃわちゃを眺めていた。




