第15話 いとこ、天ちゃん
「へぇ〜、そう。優花ちゃん、一緒に花夫君のお墓参りに行こうって? ふふふっ」
家に帰り、さっそくリビングで夕食を摂っていると、母さんが温めてくれた味噌汁を持ってきて、微笑み交じりに言う。
俺はそれを見てため息をついた。
楽しそうにしてる場合じゃない、と。
「いやさ、そりゃ誘われた時は俺も久しぶりにいいな、と思ったよ? けど俺の現状、母さんも知ってるだろ?」
「それはもちろん。とっても贅沢な悩みよね。あんなに可愛い子三人のうちから選び放題だなんて」
あくまでも楽しそうに、ゲームみたいな感覚で言う母さん。
呆れる。●ケモンの御三家を選ぶんじゃないんだから、もう少し慎重に、一人を選んだ先でどうなるか、まで考えて欲しい。
「母さん、これはゲームじゃないんだからな? 一人を選んだら、途端に残りの二人に俺は殺される。確実にね」
「え、それって幸せなことじゃない? 美少女に殺されるとか本望でしょ?」
この人、本当に俺の母親か。
実の息子に向かってそんなこと言うなよ。しかも微妙に思春期男子っぽいセリフなのが余計に腹立つ。何だ、美少女に殺されるのが本望って。それじゃあまるで俺にそういう嗜好があるみたいじゃないか。
「だって、ねぇ? 母さん覚えてるわよ? あんたが中学生の頃……」
「やめてくれ。それに関しては触れないで。お願いします。頼みますから」
心の底から頭を下げる。
瞬間的に黒歴史がよみがえった。
拙いエロ自作小説。
俺はそれを中学の時に母さんに読まれ、一週間ほど家族内で『ドMエロ小説家さん(笑)』というあだ名で呼ばれていたのだ。
本当、あの時は自害しかけた。
すべてはあいつ……いとこのせいなのだが、そこには今触れないでおこう。
奴も奴で、会ったら状況がややこしくなるからな……。
「そういえば、天ちゃん次のお休みの日に家族でこっち来るって。ちょうど花夫君のお墓参りの日と被るんじゃない?」
「は!?!?」
つい声を大きくさせてしまう。
最悪だ。
何でよりにもよってこんなタイミングで……。
「もう一回、天ちゃんに読んでもらおうかな? あんたの作ったエッチな小説」
「お母さん、あなたは僕をそんなに殺したいのですか? 今それをやられると、僕は正気でいられなくなりますよ?」
真顔。
澄んだ目と、澄んだ表情で言ってやった。
「あはははっ! 嘘よ、嘘嘘! しないしない! ほんっと、実の息子ながらイジリがいがあるわねぇ、勇信は!」
「実の息子をイジるなよ……。あんたは思春期男子が夢見るオタクに優しいギャルか何かか?」
「ごめん、その例えはよくわかんない。オタクに優しいギャルが最近の流行りなんだ?」
真面目な顔で聞いてこないで欲しい。
変に俺にダメージが入るだろうが。
「もういいよ……飯食うのに集中させてくれ……ったく……」
「ふふふっ。まあ、頑張んな? 天ちゃんが来たら……ふふっ、また面白いわね?」
「面白くないわ! 修羅場だったのが、さらにとんでもないことになるわ!」
ちくしょう、本当にこれどうすんの?
天と柊花たちを会わせたら、俺は大戦争を止める役に徹しないといけなくなる。
しかも今、柊花たちはおかしなことになってるからな……。
想像するだけで逃げたい。
一ヶ月ほどどこかに隠れててもいいですかね? だめ? まあそうですよね……。
「くそ……くそ……何で最近俺にはこうおかしな展開ばかり……」
「モテ期ね。ほんっと贅沢な男〜」
からかってんじゃないよ、他人事みたいに……。
俺は先のことに頭を抱えつつ、温かい味噌汁を啜るのだった。
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その日の夜、俺は変な夢を見た。
大人になった自分が、顔の見えない女性と幸せそうに歩いている。
そんな場面を、ひたすら後ろから眺め続けるという、訳のわからないものだ。
だが、訳がわからなくても、女性のことは気になる。
まるでその夢の内容が未来の自分を暗示しているかのようで、見過ごしていられないのだ。
「待ってくれ!」
そう叫んでも、二人はスタスタと先へ行ってしまう。
待て。待て。行かないでくれ。
ひたすらに叫び、汗を浮かべ、俺は懸命に二人の後を追いかける。
でも、歩いているはずの彼らの方がなぜかスピードは速くて。
瞳には、なぜか涙が浮かんだ。
置いて行かれたくない。
置いて行かれたら、俺はもう何もかもダメな気がした。
何もかも、が具体的に何を指すのかはわからない。夢の中だから、思考も曖昧だ。
追いかけて、追いかけて、追いかけて。
遂に、女性が立ち止まり、振り返ってくれる。
「ゆ…………」
彼女の顔は……。
「ユたく〜ん……?」
目が、覚めた。
覚めて、眼前に見覚えのある顔がドンとある。
「は……? え……?」
「えへへぇ……おあよ〜♡」
「んむぅ……!?」
今月に入り、何度目かもわからないキス。
そこには、週末に来るとされていた天が、完全な下着姿でいるのだった。




