第14話 楽しみ
「三人を守るのに限度がある? そんなの当たり前よ、ゆう君?」
わざわざ俺が神妙な空気を作ったのに、それを思い切りぶち壊してくれる柊花。
「ゆう君はたった一人の男の子で、私たちは三人の女の子。影分身の術なんて現実でできるはずないのだから、あなたは私しか愛せないはずなの。わかるかしら?」
「いや、まあ、半分はわかるけど、もう半分は現段階でわかっちゃダメなやつだな」
苦し紛れに俺が言うと、柊花は「どうしてよ!」と距離を詰めてくる。
超接近されて、キスする一秒前みたいな感じになったが、すかさず捺花と春花が俺から柊花を引き剥がす。
「ほんと、油断も隙もないよね。何さりげなく勇信と付き合う流れで話進めてんの?」
「そうそう。ゆっちゃんと付き合うのは春花だよ? しゅうちゃゃんじゃないんだが?」
助かった。
ありがとう、捺花に春花。
そう言おうとしたが、それはやめておく。
二人は目をかっ開き、瞳孔を小さくさせて、額に青筋を立てていた。
「三人とも、冷静になってくれ。俺はまだ、三人のうちの誰のものでもないからな?」
「「「まだ、ね?」」」
声を揃えて強調させないで欲しい。
変なプレッシャーが掛かるから。
「でも、結果としてゆう君が私を一番愛してくれているのはハッキリしたわ。なんせ、三人のうちで最初に私の部屋の扉をノックしてくれたのだから」
自慢げに胸を張って言う柊花だが、すぐさま捺花と春花が「いやいや」と首を横に振る。
「それさ、今勇信も言ってたじゃん? 『たまたま』柊花が最初に生まれてお姉ちゃんだから、『たまたま』一番初めにノックした、ってさ」
「しゅうちゃんは勘違い女だから仕方ないね。チョロメスとも言う。……ふふふっ。可愛くていいと思うよ? みっともないなぁ、とは思うけど」
存分に毒を含ませ、悪い顔をして言う二人。
その流れで、いつも通り危ない目をしながら俺の腕に触れてくる春花。
「ゆっちゃん、ごめんね? しゅうちゃんはこういう子だけど、許してあげて?」
「……まあ、幼馴染だし、どんな子かくらいはもう知ってるけど」
「そっか。じゃあ、春花のこともちゃんと知ってるはずだね?」
疑問符。
いや、それはもちろん知ってるのだが、唐突に首筋を噛んでくるような女の子だとは思わなかった。
めちゃくちゃいきなりで変な声を上げてしまう。
瞬間的に、柊花と捺花の目が闇の炎によって燃え上がるのがわかった。
「ちょっ、やっ、やめっ……! はる……かっ……! ひぁっ……!」
「んふふふっ……♡ ひぁ、だって……♡ ゆっちゃん可愛いぃ……女の子みたい……♡」
変な声が漏れ出て、俺はすぐに口元を抑える。
春花を引き剥がそうとしても、想像以上に力が強くてそれもできない。
「ゆっちゃん……♡ ゆっちゃん……♡ 誰のものかわかるように、しっかり私の歯形を……きゃっ!」
春花が悲鳴を上げた理由。それは、言うまでもなくそこにいた二人が原因だ。
「意外だわ。まさか、私たち三子姉妹の中に、こんな泥棒猫が紛れていたなんてね」
「春花、あんた勇信のこと何も分かってないね。勇信はこういう迫り方されるの嫌いなんだよ? わかった? この●●●」
捺花さん、実の妹にそんな放送禁止用語言わないであげてください……。
「勇信はね、こうやってぇ……」
「ちょっ、な、捺加!? んむっ……!!!」
イタズラに笑みを含んだような声音で言い、そっと俺の唇を奪ってくる捺花。
もはや定番となったキスを再度仕掛けられた。
「ちゅっ……んっ……♡ ちゅっ……っぱ……ちゅっ……♡ っはぁ……はぁ……ゆうしん……しゅきぃ……♡♡♡」
「いつものやつじゃない!!!」
「いつものやつじゃん!!!」
柊花と春花が強くツッコミ、捺花を引き剥がしてくれる。
俺はもう、好き放題やられて呆然だ。
キス、三人合わせてここ最近でどれくらい経験したんだろう。
わからなくなってきた。
「ほんと、春花のこと●●●とか、いったいどの口が言うのかしらね? 一番の●●●はあなたよ、捺花?」
柊花に言われ、捺花はペロリと舌を覗かせながら小悪魔っぽい顔で、
「違いますー。私のは純粋な気持ちからくるものですー。春花みたいに邪な気持ちでしてませーん」
「そんないやらしいキスに純粋さなんてあるわけないじゃん。なっちゃん本当最低」
春花が睨みを利かせながら捺花に言う。
ほんと、純粋さなんて微塵も感じられなかった。
舌と舌を絡め合う、一番いやらしいやつだった。
「想いは正直なの。あんたみたいな●●●ムーブとは違う。ここは●田新地じゃないんだから、もっと誠実な誘い方した方がいいよ?」
まあ、それも無理そうだけどw
と。
煽りっけ100%で言う捺花。
俺、こんな会話を聞くためにここへ来たわけじゃないんだが。
二人が言い争ってる隙に、柊花は俺の腕をさりげなく抱いてきてるしさ。勝ち誇った顔で見つめてくるけど、もう何も言わずに会釈だけしておいた。好きにしてくれ。隙だけに。
「……あの、三人とも? 話を元に戻します。ちゃんと聞いて?」
「「「はぁい♡♡♡」」」
声が揃う。
でも、また三人で見つめ合って、ばちばち火花を散らしていた。ほんと、仲良くしてくれ。
「俺、さっきまで優花おばさんと話してたんだ。花夫さんのお墓参り行こう、って」
「それは知ってるよ? 当然三人とも把握してる」
捺花がフォローを入れてくれながら、俺と柊花を引き離す。
腕を抱いてたのも気付いてたらしい。そりゃそうか。明らかに近いもんな。
「そんで、そのお墓参り、俺も母さんと一緒に参加することになった」
「「「えっ♡ そうなんだぁ♡」」」
だから仲良過ぎるって。
声揃い過ぎだろ。
その後はお決まりみたいに睨み合う癖してさ……。
「けれど、それはすごく嬉しいわ。お父さん、きっとゆう君に会いたがってるはずだもの。喜んでくれると思う」
「それなー。パパ、勇信のこと気に入ってたんもんねー」
「戦い、既に始まってるね。これはもう、お墓の前で誰がゆっちゃんに一番アピールできるかの勝負」
そんな勝負やめてください、春花さん。墓地ですよ、墓地。
「お父さんにアピールして、決めてもらおうかしら。誰が一番ゆう君の彼女に相応しいか」
だから、花夫さんは三人を守ってくれって言ってたんだよ、柊花さん。
誰が一番とか、そんなの絶対判断しないと思う。
「それもやめて、柊花。花夫さん、そんなの望んでないと思うし……」
言うも、「そうかしら?」と返して、また俺の腕にくっつく柊花。
今度はさっきよりも力が強かった。
捺花と春花が引き剥がそうとしても、簡単に離れない。
笑顔のまま、すんごい踏ん張ってる。
「へぇ。いいね、それ。まあ、パパなら絶対アタシって言ってくれると思うけど、大丈夫?」
張り合う捺花。
空いてる俺のもう片方の腕を抱いてきて、瞳をギラギラさせている。
「……ひひひっ♡ そうやってゆっちゃんの嫌いな争いをしてる二人を差し置いて、春花は正面から王道に攻めるのでしたー……♡」
ちゅっ。
逃げ場の無い俺は、正面から堂々と春花にキスされる。
もはや唇の貞操などとっくの昔に崩壊している。
三人に何度こうして唇を重ねられたか。
どのキスが誰かまで、なんとなくだがわかり始めた。贅沢な話である。
「「ちょっと春花ぁ!!」」
両方から叫び声。
もはや争いに終わりなどない。
俺が止めなきゃ延々とこの感じで行きそうだ。
「はい、もうストップ! 喧嘩するの禁止!」
その場で犬みたいにブルブル三人を振り払い、ビシッと言ってやる。
けど……。
「「「んっ♡」」」
静電気みたいに、振り払ったと思っても三方向からまたくっついてきた。
正面がまた春花だったから、不服そうに柊花と捺花が唇を噛んでいる。
もはやため息もの。
部屋の中でいったい何をしてるのか、と。自分にツッコみたくなった。
「このまま続けて頂戴、ゆう君」
仕方ない。
近付くな、とも言えず、俺は三人に密着されたままため息をついて続けるのだった。
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「それじゃ、優花おばさん。お菓子とか、色々ありがとうございました」
そろそろ帰らないといけない時間帯。
俺は、散々柊花の部屋で三人と話し、お墓参りの日は終わった後どこへ行くかなどを決めた。
もちろん、お墓参り自体もしっかりやる。
個人的に花夫さんへ現状報告をしたいし、彼の元へ行くと、幾分今のプレッシャーも少しは和らぐと思うから。
「またいらっしゃい。ほんと、三人にいつまでも引っ付かれて大変ね」
笑いながら手を振ってくれる優花さんに、俺は苦笑い。
柊花たちは、相変わらず俺に引っ付いており、家まで送ってくれると言うのだ。
「お母さん、大変なのはゆう君じゃなくて私たち。ゆう君のことを何が何でも守ってあげないといけないんだから」
柊花の言葉に、捺花も春花も頷く。
今は仲良くしてくれてるけど、さっきまで本当大変だった。
アルバムを観てたのだが、少し気を抜けば、「あの時は私が一番ゆう君のこと好きだった」とか言ってマウント合戦が始まる。
その度に俺は三人を抑え、落ち着かせていたわけだ。まあ、それもそれである意味微笑ましいのだが。
「なんかゆう君の事故から、三人とも昔に逆戻りしたみたいね」
呆れながら言う優花さん。
「小さい時は、そうやってどこまでも勇信君に引っ付いて離れなかったじゃない? たぶん、勇信君も覚えてると思うけれど」
覚えてます、と。
俺は視線を少し斜め下にやりながら、苦笑いを浮かべて頷く。
「お、お母さん! その話は今やめて!」
謎に恥ずかしがる柊花、捺花、春花。
別に今もめちゃくちゃ引っ付いてきてるのに、何を恥ずかしいと思う必要があるのか。
よくわからないけど、まあいい。
「わかったわよ。もう言わないから、早く勇信君帰してあげなさい? 真央ちゃんも心配するでしょう?」
俺の母さんか。
まあ、心配するかもな。
夕飯も作って待ってるらしいし。
「お墓参りの日のことも、色々何するか決められたっぽいし、当日は楽しみね」
優花さんの言う通りだ。
好意をあらわにしてくれる三人のうち、俺は誰を選べばいいのか。
贅沢な悩みだが、深刻な問題でもあるこれに押し潰される前に、皆で花夫さんの元へ行きたかったから。
「勇信君、真央ちゃんにもまたよろしくね?」
優花さんに言われて俺は頷き、柊花たちと一緒に家路へとつくのだった。




