第13話 謝りたいこと
「柊花さん、柊花さん? いますかい? いるよな?」
しゅうか、と。
ネームプレートが取り付けられている扉をノックして、俺は声を掛ける。
当然中にはお目当ての柊花がいるはずなのだ。
五秒ほど間が空いた後、扉はガチャリと音を立てて開かれた。
「……ゆう君だけ? 捺花と春花は?」
扉を半開きにさせ、上目遣いで問うてくる柊花。
「二人ともいないよ。同い年だけど、まずは一番お姉ちゃんの柊花から訪問」
俺が言うと、彼女はニチャァと笑みを浮かべ、
「にひ……ひひ……知ってるわ。ゆう君は照れ屋さん。本音を言葉の裏に隠す癖があるの」
「……つまり、その心は?」
「私のことが一番好き♡ だから、真っ先に私の元へ来てくれたっ♡」
目がキラキラしてる。
淀んだ光の浮かぶ瞳が最近のデフォルトだったのに、今は純粋な美少女そのもの。
永遠にこういう目でいて欲しい、と切に願いつつ、俺は半分開けられている扉に手を掛けた。
「わかった。一旦それでいいから、中に入れさせてくれ」
「ななな、中にぃ!? そそそ、それはちょっと大胆過ぎないゆう君!?」
うん。黙ってください。
何も言わず、静かに呆れていた俺だが、隣の部屋と、さらにその隣の部屋の扉が同時にバタバタと開けられた。
「勇信!!!」
「ゆっちゃん!?!?」
封印していたため息をここで解放させる。
一部屋一部屋訪問しようとしていたのに、その手間が省けた。
ちゃんと一対一で話そうとしてたのにな。まあ、ここじゃそれも無理があるか。
「今のどういうこと!? セクハラだよ!? 私以外の女の子にセクハラしちゃダメって言ったよね!? 勇信も『ああ、わかった。お胸揉み揉み、足サワサワ、キスチュッチュッするのは捺花にだけだぜ?』って言ってたじゃん!』
言ってません。事実改変するのはやめろ。何でそんな真剣な顔で嘘付けるんだよ。俺怖いよ。
「ゆっちゃん、春花に言ってた! 『よーし、これからは春花だけを毎日●●●して、●●●●するぞー!』って!」
だから言ってない。というかやめて。女子高校生が発していいセリフじゃないよそれ。
「……春花……流石に冗談でもそれは……」
ほら、柊花もガチ引きしてるじゃん。俺からすればお前もいい勝負だけどな。まったく。
「ごほんっ。はい、じゃあ言葉遊びもそれまで。ちょうどいいや。捺花と春花も柊花の部屋で一緒に話を聞いていってくれ」
「だ、だめぇっ♡ やっ♡ 私の部屋はゆう君だけ出入り可能なのっ♡」
ぶりっ子してにゃんにゃん言い出す柊花。
捺花と春花の目がすごい。
ゴミを見る目だ。
ほんと、仲良くしてよ三人とも……。
「あーあ、一番のおばさんがなんか言ってるなー」
「ぶりっ子きつー」
捺花と春花の蔑みを食らっても、柊花はノーダメージ。
二人を無視して、俺の腕を抱いてきた。胸がこれでもかというほどに押し当てられる。
「ゆう君? ね? あんな子たち放っておいて、私とペットごっこしよ♡ ゆう君が飼い主役で、私が盛りのついたメス猫役っ♡」
「柊花さん、あなたそういうキャラでしたっけ……?」
ぎこちなく問うと、柊花はぶりっ子全開で、
「こういうキャラだったぉ♡ ゆう君、しゅきしゅきなのっ♡」
いや、知らない。こんな柊花俺は知らない。見たことがない。優等生キャラの真面目な柊花さんを返して。
「もしかして、優花さんに注意されてまたなんかおかしく……?」
花夫さんのこととか、さっきの会話のこととか、真面目な話をするつもりがこれだ。
捺花がため息をつき、俺の名前を呼んできた。
「真面目だからが故なのかもね。さっきママに怒られたから、自分をさらにアップデートしなきゃ、とか思い始めたのかも」
何だそれ。ポンコツコンピュータかよ。誰もそんな変化望んでないだろ。
「ゆう君……♡ しゅー……きっ♡」
…………いや、可愛くね?
「ちょっと? 何でゆっちゃんまでおかしくなるの?」
ベチン、と春花にお尻を叩かれて正気に戻る俺。
危ない。
素でメロってた。
さすがは柊花さん。
黙っていれば超絶美少女なだけある。
にゃんにゃんモードは危険だ。
そろそろ封印してもらわないと。
「ああ、もうっ。柊花、まともな状態に戻ってくれ。俺、三人に話したいことがあって二階まで上がってきたのに」
「何? 話したいことって?」
柊花の代わりに捺花が疑問符を浮かべる。春花は俺のことを勘繰るようにして、
「お父さんのことでしょ? さっき、お母さんと二人で色々話してた」
「……盗聴器か何か使ってたか? 春花?」
俺がジッと目を見て疑いをかけると、彼女は下手くそな口笛を吹きながら誤魔化そうとしだす。
全然吹けてねーし、音も出てねーよ。
やれやれだ。
「そう。花夫さんのこと。俺、三人に謝らないといけないな、と思って」
「謝る? 勇信がアタシたちにどうして謝るの?」
小首を傾げる捺花。
柊花はぶりっ子したまま疑問符を浮かべていた。
やっぱ可愛くね?
「可愛くないです。何回籠絡されてんの、ゆっちゃん?」
またしても春花のビンタで正気に戻される俺。
情けないの限りだ。
そして、その情けなさを誤魔化すみたいに、俺は言葉を続ける。
「花夫さんのこと、俺がいつまでも引き合いに出すから」
「?」
「三人を守る、なんて。そんなの、限度があるのにな」
呟くように言って、俺は床へ視線を落とすのだった。




