⑥
女生徒の取材のために、カケルたちはミコトのパソコンの前に集まっていた。
「さて、吉川めぐみを探すわけだが……川口は写真とかは持ってなかったのか」
「ああ、さっき連絡してみたけど、持ってないらしい」
「似顔絵書いてもらえば?」
「聞いてみて、実際に書いてもらった。んで……それがこれだ」
カケルが川口から送られてきた画像を2人に見せる。点と線の謎の物体を見て、困惑した顔が2つ出来上がった。
「これは……さすがに参考にならないな」
「川口も謝ってた。『絵心が無くてすみません』って」
「まあ仕方ない。なら、地道にガクコエから探すしかないな」
「あい」
ミコトが頷き、ガクコエにアクセスした。中学生のタブを開き、SNSの項目を選ぶと、学生のとりとめのないつぶやきが時系列に表示された。
さまざまなつぶやきが秒単位で次々更新されていく。
「とんでもない量だな」
「全国の学校が集まっちゃってるからね」
言いながら、ミコトは画面の隅にあった日本地図をクリックし、東京を選択した。ミコトはページ上部にある検索ボックスを開く。
「絞り込みが東京だけじゃあ多すぎるから。なんて検索掛けようか」
「高校名はどうだ」
ミコトは、昨日川口から聞いた高校名を入力する。
キーワードに該当したメッセージとそれぞれのユーザー名が羅列される。
「おお、すげえな」
「これくらい普通でしょ。普段どうやってネタ探してるんだか」
「……」
ちくりとした指摘にカケルは押しだまる。
ミコトのスクロールを眺めていると、不意に、あるつぶやきで手が止まった。
明るい髪色をした女生徒のアイコンをクリックすると、投稿がずらりと並ぶ。ひんぱんにSNSを利用しているようだ。
『ワンヴォイスのSNSでめっちゃ可愛い記者アイドル見つけた!きらりん★』
『今朝買ったリップが今日届くってえぐ』
『ゆうて校長先生の話ってそこまで長くないよね』
『テストだるすぎて死ぬ』
「とりとめのない投稿ばっかだな」
「こんなもんでしょ。女子中学生なんて」
妙な年上風を吹かせながら、ミコトはどんどんとつぶやきをさかのぼっていく。
「ありゃ、この子は吉川じゃあないみたいね」
『スターフロントでママと喋りすぎてたら、めっちゃ遅くなってて、店員に怒られた笑 母親気付けし笑』
写真には、ホイップクリームとチョコが乗った甘そうなドリンクを手に、母親らしき女性と笑う姿が映っていた。
「これで、どうして違うってわかるんだ」
「いやいや、これくらいわかるでしょ」
カケルは写真を見つめるが、理由がわからない。
「ここを見てみろ」
シュウが指さしたのは、投稿日時だった。
「この時間、川口が吉川めぐみと合っていた時間と重なっている」
「つまり、アリバイがあるってこと」
「なるほど」
カケルは納得する。そして、この作業の進め方がわかった。
「派手な髪の女の子を探して、つぶやき見て候補を絞っていくんだな」
「そう。あとはアカウント名とか、クラスがわかればそこでも判断できる」
しばしの間、静寂が流れ、時折聞こえるミコトのクリック音だけが聞こえた。
(やはりというか、中々見つからないな)
そう心の中でつぶやくと、思わずため息が口から漏れ出た。隣では、シュウがあくびをかみ殺していた。
そんな状態でミコトを見守ってると、突然、その背中がブルブル震え出した。
「どうしたんだミコト。寒いのか」
「……べつに」
「なんだ。ほら、さっさと続けるぞ」
シュウがやや呆れ気味にいうと、
「あのねえ!後ろで見てないで、あんたたちも自分のパソコンで探しなさいよ!」
カケルとシュウはわずかに姿勢を正して、
「いやあ、俺は張り込み専門で、調査はネットニュースくらいしか」
「若者文化にはついていけないんだよな」
「……はあ」
ミコトは露骨に嫌そうな顔をした。
ミコトが再びアカウント画面を調べていると、
「……これ」
「おい」
「見つけたか?」
髪色が派手な女子生徒。
アカウント名は「ym_77」。
「おい、これ、イニシャルじゃないか」
肯定するように、ミコトは前のめりの姿勢になる。背後からカケルたちも目を凝らす。
教室内で級友が映った写真のつぶやきをクリックし、画像を拡大する。たくさんの生徒たちが談笑している。
「くそ、外側から撮ってくれてればどこのクラスかわかったんだが」
「いや、わかる」
「え?」
ミコトは履歴から、手際よく一人のアカウントを呼び出して、その中から写真付きの投稿を選ぶ。その中の生徒一人を指さして、
「これ、川口と同じクラスだよ。さっき、クラスはあってるけど事件時のアリバイがあったやつの写真と同じやつが映ってる」
「ほう」
シュウがやや興奮をにじませた声音でいう。
ミコトは他の投稿にも目を通していく。この女生徒はあまり写真を上げない性質らしく、文章のみの投稿が続いた。
やがて、決定的ともいえる投稿を見つけた。
『うちの担任の変態教師に、制裁を加えてやった』
事務所内が張り詰めた空気で満たされる。
写真のない、シンプルな投稿。しかし、少ない文字数ほど情報にインパクトをもたらす。
「これって……」
全員で顔を合わせる。あの記事と時期的にも重なっている。
『今日までずっと我慢してた』
『じっと待ってた』
『犯罪者』
『うざい。何もかも、うざい』
『そろそろ、潮時』
怨嗟の投稿が続き、カケルは小さく顔を歪める。
「ねえ、これみてよ」
ミコトが画面を動かしながら、
「この子、これまでも同じような投稿をしてる」
順々に表示される投稿には、「制裁」「ざまあ」「執行完了」などの文言が並んでいる。
「それで、投稿の時間を辿ると……一致するんだよね、御影が出した記事」
ミコトが表示した記事。記名欄には御影の名前が記され、そのどれもが川口の記事のように炎上していた。コメント欄には、「教師は全員調べろ」「まだ余罪があるはず」といった断定的な言葉が並んでいた。
「ミコト」
シュウがいうと、ミコトはDMのアイコンをクリックし、メッセージを入力する。
『突然、失礼します。我々は、オルビスという報道機関です。そちらの投稿内容について、詳しく聞かせてもらえないでしょうか。何卒、ご検討お願いいたします」
決定ボタンを押すと、内容がチャット画面にふわりと更新された。
(これでアポが取れればいいんだけど)
今回は、かなりプライバシーの関わる話題だ。不審がって返事をもらえない可能性は低くない。
どちらにせよ、返信を待つしかない。
その後、カケルたちはしばらく他のアカウントも当たるが、どれも名前やクラス、アリバイなどで除外された。
そろそろ切りあげようという雰囲気になっていた時に、メッセージのアイコンに「1」と表示された。
ミコトがすぐさまアイコンをクリックする。
差出人は、先ほどの生徒だった。
メッセージ欄には、
『私の知っていることで良ければ、全てお話します』
とあった。
カケルたちは全員で顔を見合わせる。シュウが頷いて、ミコトがメッセージを入力した。
『ご連絡ありがとうございます。都合の良い日を教えてください』




