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フェイクブレイカー  作者: merbotan
【完結済】炎上家
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5/14

 RMIの本社はオルビスの最寄駅から3駅となりの町のオフィスビル群にある。およそ三階程度の高さのビルではあるが、セキュリティは整えられており、玄関には受付の女性とガードマンが控えている。

 その建物の前に、白鳥ミコトは立っていた。

(なんで、あたしが……)

 ミコトは心の中で、悪態をつきながら、RMIの一階の窓に映る自分の姿を見た。

 デコルテが開いた細網のトップスはミコトのふくよかな胸元を強調している。下半身は上品なハリ感のある白色のレースアップスカートから、すらりと引き締まった脚が伸び、フェミニンなブラウンのサンダルには、可愛らしいワンポイントチャームがあしらわれている。

(もう、なんなのよ、この格好―――!)

 ミコトは改めて自分の服装を見て、顔がかあっと熱くなるのを感じた。

 他社の記者に飛び込みでアポをとるための「くのいち作戦」である。ミコトが御影レンジのファンを語り、情報を引き出す算段だ。

 記者バトルがある世の中で、ふつう記者は他の記者と会おうとはしない。相手に敗北すれば報道権を奪われるからだ。

 とはいえ、カケルたちにとって記者自身に直接会うことは、フェイクを暴く有効な一手だ。そのためには様々な手段を講じなければいけない。今回の記者に対しては、これが効果的だと結論付けられた。

 普段はもっぱらTシャツとショートパンツなどのシンプルな服装のミコトは窓の前で悶絶する。後ろ姿を確認しようとを体をひねると、そのわずかな動きだけでスカートの中が見えてしまいそうになり、慌てて手で隠す。

(これが終わったら……覚えてろよ、シュウ)

 ミコトはこの作戦および服のチョイスを行ったリーダーへの不満をいだきながら、RMIの社屋ビルに入った。

「いらっしゃいませ。今日のご用件は何でしょうか」

 受付の女性は、品よく微笑みながらミコトを出迎えた。らしくない服装をして、ミコトは変に緊張してしまう。

「は、はい、あの、こちらに御影レンジさんはいらっしゃるでしょうか」

「アポはとっていらっしゃいますか?」

「え?」

「ですので、御影とアポはとっていらっしゃいますか?」

 思いがけない展開に膠着してしまったミコトに、女性は諭すように言った。

「御影は非常に人気の記者でして、事前にアポを取っていただいた方のみ入館を許可させていただいております」

 自分が門前払いを受けんとしていることを理解した・

(全然だめじゃないの!)

「ど、どうにかなりませんか。せっかく来たし、取り次いでもらうだけでも」

「それが出来てしまうと、ひっきりなしに御影に会い人が来てしまうようになってしまいますので……申し訳ありませんが……アポを取っていただいてから出直していただけますでしょうか」

 口調は丁寧だが、女性は毅然と言った。

「わ……わかりました」

 ミコトはすごすごと先ほど通ったばかりの自動ドアを通り抜ける。

 受付から見えない角度まで出たところで、ミコトはアスファルトの道路を思いっきり踏みつけた。

(なんなのよまったく!何のためにこの格好したのよ!これさえやれば入れるっていうから、仕方なくやったのに!もう、最悪すぎて最悪!)

 ガシガシとサンダルの踵が地面を鳴らす。みっともないことこの上ないが、何か八つ当たりしないとやってられなかった。

(これから、どうしよう)

 もう一度、交渉してみようかとも思うが、一度出てきてしまった以上、なんとなく気が引ける。ミコトが途方に暮れていると、後ろから何者かに声をかけられた。

「お嬢さんどうかしたの~?」

 振り向くと、そこに一人の男が立っていた。

(うわ、なんか……チャラそう)

 身長は170センチ後半くらいで、明るい色のショートカットをツンツンに逆立てている。全体的に軽薄そうな顔つきで、眉は過剰なくらい細く、瞼につけたピアスがいやな輝きを放っている。。男は無遠慮にミコトの頭から足の先まで、下心丸出しの視線を浴びせてくる。

「いえ、そこの会社に用があっただけです」

 たちの悪いナンパかとミコトが適当に返すと、男はなぜか嬉しそうな顔になる。

「まじで?俺そこの会社の記者やってんだよ。なんの用があるの?」

 男の答えにミコトの脳裏に電流が走った。

 この男を利用すれば、御影との面会が叶うかもしれない。ミコトは一旦、男に対する嫌悪感を押し殺して、口を開いた。

「私、御影さんって記者のファンで……今日お会いしたいと思ってたんですけど、アポがないとだめって断られちゃって」

 突然、男が親指を突き立てた。

(は?)

 自分の顔にびしっと向けた。

(なにやってんのこいつ)

 意味が分からず、ミコトが苛立ちを感じていると、

「それ、俺よ」

「え」

 ミコトは一瞬男が言った意味が分からなくなった。やがて、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

「なんだあ、俺のファンだったのね。大歓迎だよ~、それじゃあ、とっとと会社の中は行っちゃおうか」

 元から馴れ馴れしかった男、御影の態度がさらに気安いものになった。ミコトは本格的な拒絶反応が出た。

「ああ、でも、その、アポがないとだめって」

(やば、反射的に断っちゃった)

「ファンは多いけど、君くらいかわいい子はなかなかいないよ~?」

(全然気づいてないし)

 ミコトの葛藤はつゆ知らず、御影はミコトの腕をとり、強引に社内に引っ張り込もうとしてきた。御影に触られた不快感で、全身に鳥肌が立つのを感じる。

(ううん、そんなんじゃだめ)

 ミコトは全身を走る不快感を押し殺す。不本意な作戦とはいえ、このままなんの取材もなく変えることは、記者失格だ。あんな記事を書く人間を、このまま野放しにはできない。

「……それじゃあ、よろしくお願いいたします」

 ミコトはそう言って、手を掴まれたままRMIの受付を通り抜けた。


~取材メモ~

スクープギアは、「強化系」「干渉系」「サポート系」に分けられる。

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