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フェイクブレイカー  作者: merbotan
【完結済】炎上家
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14/15

数日後のオルビスの事務所。カケルたちはささやかな祝勝会として、来客用のテーブルを囲んでいた。カケル、シュウ、ミコトと、吉川恵、その母親の愛子が座っている。

ミコトがわなわなと肩を震わせる。

「シュウ……これは、どういうこと」

「ん、何がだ?」

「これただのパック寿司じゃん!しかも見切り品の!」

 ミコトはテーブルをだんと叩くと、パック詰めされた寿司が小さく浮いた。

「いや、何を言ってる。これも立派な『回らない寿司』だろ?」

「そんなの……ちがう。絶対に違う」

 ミコトは魂が抜けたように椅子に座った。しばらく恨み言をつぶやいていたが、やがてパック寿司に手を伸ばし始めた。吉川めぐみの母である愛子も遠慮がちに、他のパック寿司を開、取り皿に醤油を出していった。吉川めぐみは紙コップに飲み物を注いでいく。

「それじゃあ、ささやかですが。皆さんお疲れ様でした」

 揃った所で、シュウが音頭を取った。

 オルビスの面々が寿司に箸を伸ばし、吉川親子も遠慮がちに続く。

「まあまあね」

 ミコトが、微妙なコメントをして、シュウが苦笑いする。

 その発言を最後に、沈黙が訪れる。

 その理由をカケルはよく認識していた。

「それにしても、みんなが記事について何も覚えてないって不思議じゃない?」

カケルはうなずく。

気づいた時には、RMIの事務所にいた。川口が被害を訴えた記事の報道権をカケルが獲得し、アクトへ送った削除申請は無事、受理された。

だが、その前後の記憶。そして、今回の記事の顛末について、どんなやりとりがあったのかがはっきりと思い出せない。カケルだけではなく、当事者全員がそうなのだ。

「なあ、シュウ。これっていったいどういう事なんだ」

 場の全員の視線がシュウに集まると、シュウは重々しく口を開いた。

「心当たりはある」

「本当か?」

「だが、それを言うには、俺の中でも情報が足りない。余計な情報をこの場でいうことはオルビスのリーダーとしてはしたくない」

 カケルは追求したい気持ちをこらえる。

 報道において、裏取りのできていない憶測は控えなければいけないのだ。

「現状は、俺たちのできることをやっていくしかない」

 シュウがそう結論づけると、

「まあ、シュウがそういうんなら、そうするけどね」

「ああ、俺も同じ意見だ」

「でもな~」

 ミコトは、テーブルの背もたれに寄りかかった。 

「結局、覚えてないんじゃ、なんも意味ないじゃん」

カケルは心の中で、ミコトに同意する。

 自分は確かに真実に辿り着いた。しかし、それがいつの間にか、どこかへ消え去っていた。残ったのは、言いようのない無力感と、虚無感だった。

 不意に、扉がノックされた。

 シュウが立ち上がり、ドアを開けた。来訪者と何かやり取りした後に、その人物を部屋に招き入れる。

「川口さん」

「みなさん、お久しぶりです」

川口が小さく会釈をした。祝勝会をするために、カケルが呼んでいたのだ。

「この度は本当に……ありがとうございました。それに新しい記事も」

 川口が携帯の記事をこちらに向ける。見出しは、『生徒想いの教師。誤解を乗り越えて』だ。川口の人柄にフォーカスし、再起を促す内容だ。

「記事を読んだ中学校から、採用を前提に会ってみたいと連絡を頂きました。もう一度、教鞭を振るうことが出来そうです」

「そう……ですか」

 深くお辞儀をした川口を見て、カケルは胸の奥が暖かくなるのを感じた。

 自分が追い求めた結果は決してなくなってなかったのだ。

「せん……せい」

 吉川めぐみの呼びかけに、川口の微笑みが引っ込んだ。

「私……いろんな人をだまして……御影に協力していました」

 吉川の言葉を川口は黙って聞いている。その瞳には何の感情も感じられない。

「先生はいつも相談に乗ってくれて……だから、都合いいって御影に言われて……その通りにしました」

 声音には嗚咽が混じっていた。

「その結果……取り返しのつかないことになりました……本当に……ごめんなさい」

 それでも、瞳にためた涙がこぼれることはなかった。

 場に緊張が張り詰める。

 やがて、川口の口が動いた。

「妻は助からなかった」

 吉川の肩が、まるで何かを突き立てられたかのように、びくりと跳ねた。

「娘も……もういない」

 カケルが、たまらず割って入ろうとして――

「でも」

川口が吉川を抱きしめた。

「君を……助けることが出来た」

 腕の中で、吉川が目を見開く。

「ごめんな……気づいてやれなくて……ごめんな」

 吉川の見開かれた目から、とうとう涙があふれ出た。

「先生……ごめんなさい、ごめ……うあああああああん」

 オルビスの事務所には、2人分の嗚咽が響く。

 カケルは思った。

 確かに、事実はどこかに消えてしまったのかもしれない。

 それでも、2人はこうしてわかり合えた。

 真実は、確かにここに残っていた。

 2人が泣き止むまで、オルビスの3人はずっと見守り続けた。


炎上家~Frame Reposter~編は終了です。

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