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フェイクブレイカー  作者: merbotan
【完結済】炎上家
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13/15

 空中に巨大なホログラムが投影され、そこにはシュウとめぐみと見知らぬ女性がいた。

 シュウがぐっと親指を立てた。

『この人たちの報道権は俺がもらった』

 ホログラム上に記事が写される。

 『連載企画『人を見る』と表示されていた。

『人生に焦点をあてた新連載企画だ。記念すべき1回目は、吉川めぐみの母親、吉川愛子さんだ』

見出しには、『4人の娘を1人で育てるスーパーマザー』。女手一つで四姉妹を育て上げた母親の奮闘が書かれている。

『さっきまで取材していてな。ちょうど記事が書きあがった所だ』

『はいはい!記事はあたしが書きました!』

 画面の下から、ミコトが勢いよく顔を出した。大きな瞳が大写しになる。

その姿に、御影が舌打ちをした。

「てめえ……こいつらの仲間だったのか」

『そうだよーん。あ、そうそう』

 恨みが込められた言葉を受けて立つように、ミコトは御影を正面から見据えた。 

『あんたのセクハラ記事。書いてやったから』

 ホログラムに別の記事が映し出された。

見出しは『RMIの記者、御影レンジはセクハラが趣味だった!!!!!』

 ミコトは、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

『あーあ。こんな記事が出ちゃったら、記事の依頼なんてされなくなっちゃうね。会社でも居場所がなくなっちゃう~』

「ふざけやがって……」

 御影は画面の向こうのミコトに睨みつけたと思ったら、不意に笑いだした。

「は、はっはっは、はあ!」

『うえ、急に笑い出したよ。何、セクハラの禁断症状でもでた?』

「クソアマが!偉そうなこと言ってる割に、やってることは俺とおんなじだなあ!」

御影の言葉にミコトは一瞬ぽかんとしたあと、

「はあ?何いってんの?」

 挑発するように画面に顔を近づける。

『だって、これは“真実”じゃない?」

「ぐ……くそがあ……っ」

 ミコトの向こう側にいるシュウが、

『さあカケル!吉川めぐみたちのことは心配するな』

 カケルはうなずき、立ち上がろうとして、

(ぐっ!)

 全身を激痛が襲い掛かり、たまらず膝をつく。

 その姿を御影が嘲笑した。

「は……はは!もう立ち上がることもできねえか。ここで俺を倒せないんじゃあ、これまでの努力は全部無駄になるなあ!」

「無駄……だと?」

「そうだ」

御影が炎の円刃を展開する。部屋のいたるところから、マグマのような炎柱が吹き上がる。

「あの教師の記事だけは、炎上のネタになり続けるのさ。あいつは、死ぬまで読者に消費され続けるんだよ!」

「ふざけるな!」

今回の事件のきっかけ。川口誠のフェイクニュース。

最初に川口が来た時のことを思い出す。

フェイクニュースによって職を追われた教師。その背後にあったのは、教え子である吉川だった。

どちらを信じるべきかわからなかった。

しかし、どちらを信じるという事ではなかった。

どちらも、信じなくてはいけなかったのだ。

 家族を失った悲しみと、真実を伝えたいという想い。

そして、家族を守る心と、真実を受け入れ償いたいという想い。

2人には、確かに真実を追い求める意志があった。

 真実を求める彼らの想いがカケルのスクープギアと共鳴する。

(俺は御影を倒す!)

 大剣が激しく輝きだす。その光が、カケルに力を与える。 

散々痛めつけられて、体はもう言う事を聞かない。

それでも、立ち上がる。立ち上がらずにはいられなかった。

剣を振りかぶり、カケルは御影に向かって駆けた。

「くたばれガキがああああ」

 御影が両手の炎が爆ぜ、まるで炎の龍となってカケルに襲い掛かる。

「うおおおおおおおお!」

 カケルは咆哮とともに光の大剣を振り下ろす。

 炎と光が激しく衝突した。建物が崩れそうなほどの衝撃が部屋中を揺らした。

 激しい熱が押し寄せる。喉と肺が焼け、意識を失いそうになった。

 それでも決して、眼は閉じない。

 フェイクニュースによって傷つけられた人々の表情が脳裏をよぎる。その先にある彼らの笑顔を思い描く。

 カケルの大剣の光が増幅した。

「うおおおおおおおおお!」

 光が炎の龍を飲み込んだ。

 まるで世界がなくなってしまったように、部屋全てをかき消した。

 やがて、視界が戻ってくる。

 眼前には、炎を失い倒れ伏した御影がいた。

『接続終了。当該記事の報道権は移行しました』

 アクトによる電子音声が鳴りひびく。

 それを確認して、画面の向こうのシュウが行った。

『やったな。カケル』

『ああ』

 カケルは、噛みしめるように頷く。

 真実で人を救う。それを達成できた。

 決して1人ではたどり着けなかった。

 ミコトとシュウ。オルビスを訪ねてきてくれた川口。

 そして。

『早瀬さん』

 画面の向こうにいる吉川めぐみはまっすぐカケルを見据えて、ゆっくりと頭を下げた。

『ありがとうございます……そして、ごめんなさい』

「え?」

(俺、なんかされたっけ?)

 突然謝られて、カケルは面食らう。

『その……色々、ひどいこといっちゃって』

 平伏しながら、吉川が続けた。

「あたしの投稿ちゃんと見ろとか、記者なんだったらそれくらいしろとか……かまってちゃんだし、何様だって感じですよね。っていうか、そもそも年上の人にため口なんて……」

「ああ」

 思い上がり、カケルは小さく笑う。

「確かに、あれは結構聞いたよ。実際、そうだったから」

『うう』

 吉川がくぐもった声を上げた。

 シュウたちの励ましがなければ、今も1人で腐っていたかもしれない。

 だが、今となっては些細なことだ。

「でもさ、1つだけ違うっていえることがあった」

 吉川が顔を上げた。視線が正面からぶつかった。

「記者は人々を守るものだってこと。それを、君に伝えられることが出来て本当に嬉しい」

「……はいっ」

 吉川が笑う。

 カケルが呆けた顔で見ていると、吉川の顔が心配げになった。

「あの、また私なにか……」

「いや、笑った顔、初めて見たなって」

 はっとしたように目を見開き、照れ臭そうに顔をそむけた。

「もう、恥ずかしいからやめてよ」

(もう口調もどってるし)

 だが、それがなんだか彼女らしい気がした。

『さて、いい感じになったことだし、事務所帰って祝勝会と行くか!カケル、お前の好きなもんなんでも頼んでいいぞ』

(なに!?)

 カケルは勢いよく立ち上がる。

「なんでも、いいんだな?」

『ああ!部下が立派な仕事をしたんだ。オルビスのリーダーに二言はない!』

『ええ、なにそれずるい!あたしだって記事書いたんですけど!』

「は、はあ?」

 息巻くミコトに、シュウが顔をこわばらせた

『お、お前はスターフロントのドリンクおごりってのがあるだろ』

『それとこれとは話が別!』

『お、お前なあ……』

 シュウがまるで胃腸炎を耐えているような表情で、

『じゃあ、2人とも食べたいモノ言え。その中間のもので手を打つ』

『なにそれ、ぜんぜん意味わかんない!』

『うるさい。せーので言えよ?』

 カケルとミコトが画面越しに視線を交わした。

『せーのっ……』

『「回らない寿司」』

『……お前らなんでこういう時だけ息があうんだよ……』

 シュウは助けを求めるように、吉川めぐみを見る。

『ひどいと思わない?こいつら』

 シュウの問いに、吉川はいたずらを仕掛けるように笑って、

『……オルビスの所長に、二言はないんですよね』

『めぐみちゃん、ナイス!』

 和やかな空気が流れる。

(祝勝会には川口も呼ぼう)

 自然と笑みがこぼれる。

取材を通して、築いた絆がそこにあった。

「……待ちやがれ」

 怨嗟に満ちた声音に、空気が凍った。

「てめえら、俺をこけにしたまま終われると思うんじゃねえぞ」

 御影が幽鬼のように立ち上がると、ホログラム上に記事が現れた。

『主婦が金銭と引き換えに、娘2人に売春を強要 姉妹にも非行歴』

「くそがきが……!俺を裏切りやがって。金に釣られて俺に協力してたくせにいい子ぶってんじゃねえぞ!」

 御影が吉川を睨みつけた。御影の憎悪からかばうように、シュウとミコトが吉川の前に立った。

「てめえが幸せになるのだけは絶対に許さねえ。報道権?そんなの関係あるか!てめえを地獄に落としてやる!」

 尋常じゃない様子に、カケルの口から言葉がこぼれた。

「お前はどうして」

「ああ?」

「そうやって、フェイクニュースで人を傷つけて、何がしたいんだ」

 カケルの問いに、御影は嘲るように鼻を鳴らした。

「そんなの、楽しいからに決まってんだろうが!」

 声音は狂気に満ちていた。

「俺が書いた記事が、他人の人生を支配する愉悦。これがやめられなくて、俺は記者をやってんだ!」

 興奮しながら、自分の記事に視線を移す。投稿のボタンが点滅している。

「てめえは一生、炎上の炎に閉じ込めてやるよ」

『カケル、そいつを止めろ!』

 シュウが叫んだ。

「もうおせえ!じゃあなくそがき!」

 捨て台詞を吐いて、御影が投稿ボタンを押した。

「ははは!あーはっははっははははは!」

 御影の悪辣な笑い声だけが部屋中に響いた。

「記事は発信された!担任教師の家族を殺した、最悪の学生の記事!さあ、燃え上がれ!悪意を燃料に、炎上を巻き起こせええええ――」

『報道規程違反を確認』

 その場にいる全員が凍り付いた。カケルが混乱していると、

「な、なんだてめえは!こっちくんじゃねえ!」

 御影が声を上げた。

 その視線は何もない空間に向けられていた。

「上等じゃねえか!ぶち殺してやるよ!」

 御影がスクープギアを展開する両掌を開いた。しかし、いつまで経っても炎の円刃は現れない。

「な、なんだ。どうなってやがる」

 理解不能な状態に、御影が焦燥を募らせる。

「ぎゃ!」

 唐突に、御影がくぐもった悲鳴を上げた。

見ると、胸元の辺りを大きな袈裟懸けの傷が出ていた。

 その傷口からは、なぜか血が溢れておらず、内部の構造が丸見えになっている。

まるで、肉体が一瞬で消失してしまったように。

たまらず、御影は尻もちをついた。

「やめろ、くるな、くるんじゃねえ」

 座ったまま不格好に後ずさり、やがて壁に追い詰められた。

身を縮こまらせるその姿には、さきほどまでの傲慢さは微塵もなかった。

 御影は徐々に近づく来る何かを見ているようだった。

「ぎゃあああああああっ――」

 叫び声が唐突に途切れる。御影の頭ががくりと下がり、全身から一気に力が抜けた。御影の心臓の部分には、大きな穴が開いていた。

『執行完了。この世の中に、秩序ある報道を』

 電子音声が鳴り響く。そして、御影の体が徐々に、風に吹かれる砂のように消えていく。

(一体、何が起こってるんだ)

 カケルは、目の前の出来事をただ見守ることしか出来なかった。

(つっ!)

 不意に、カケルの頭に痛みが走った。脳の奥底に何かが干渉しているような不快感。

(この感覚……どこかで)

 小さな虫が脳を這いまわっているような不快感をかみ殺して、カケルは顔を上げる。

 目の前には、何か人のようなものが形を崩していくのが見える。

(これは何だ?)

 謎の物体が消えて、ようやく頭の痛みが治まった。

 辺りを見回すと、そこは広い部屋のような空間だった。家具はなく、なぜかそこかしこに黒いすすのようなものがこべりついている。

まるで、何かが激しく燃えたような。

(ここは一体……それに、俺はここで何を)

 思い出そうとして、それが出来ない。頭の中から、何かが抜け落ちたような感覚だ。

 しばらく思案するも、結局答えは出なかった。

(とにかく、オルビスに戻ろう)

 首をかしげながら、カケルはその部屋を辞去した。

 何か大切なことを忘れたような気がした。


早瀬カケル スクープギア「真実の言ノ刃(The pen is mighter than the sword」 武器形態:大剣 種類:強化系

光の大剣による攻撃。カケルの「真実を信じる想い」が強いほど、威力があがる。

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