⑩
空中からほとばしった閃光が、カケルの両手に収束し、やがて形を成した。
身の丈ほどの大剣。カケルが真実に辿り着くことでその強さを増すスクープギアだ。
「へえ、意外と面白そうなものもってんじゃねえか」
御影が片手の炎を弄びながら立ち上がった。その体がゆっくりと沈み――突然、消えた。
「っ!」
カケルが咄嗟に剣を盾にすると同時に、剣身に激しい衝撃が走った。目にもとまらぬ速さで肉薄した御影が、手にした炎をカケルに叩きつけたのだ。じりじりと大剣越しにすさまじい熱気がカケルを襲う。
カケルはなんとか御影を押し返して、反撃に剣を振るう。
「はあ!」
御影は手にした炎の円刃でカケルの大剣を受け流し、もう片方の炎をカケルに突き入れる。カケルは体をひねるようにそれを躱し、受け流された勢いを利用して再び大剣を振るった。
炎と光の攻防が続く。しかし、御影の方が上手だった。
軽やかな身のこなしと、小回りの利く円刃が、徐々にカケルを追い詰めていった。カケルの反撃の合間に生まれる隙を縫って、灼熱の刃がカケルの四肢を炎と共に切り刻んでいく。
(くそ!)
徐々に劣勢に立たされることで焦ったカケルが、大ぶりの一撃を繰り出す。
御影が猛獣のような犬歯をのぞかせた。
「それ、待ってたぜ」
カケルの腹部に向かって、御影が炎の円刃を見舞った。
(ぐ!)
カケルはとっさに左腕を剣から放し、御影の攻撃を受け止めた。肉を焦がす嫌なにおいが鼻をつく。バランスを崩した体はそのまま勢いよくふきとび、壁に叩きつけられた。
「がは!げほっげほっ!」
カケルは衝撃で大きく咽た。遠のきそうな意識をつなぎとめて、左腕の様子を見る。ひどい有様だった。肘から先は傷だらけで、傷口が炎によって焼かれていた。文字通り焼けるような痛みに襲われ、歯を食いしばる。
「温いな、てめえ」
御影はいくばくの疲労も感じさせない佇まいで言った。
「さっきまでの威勢はどうしたんだ?まさか、もう終わりっていうんじゃないよな?」
カケルが答えられないでいると、
「そもそも、お前は何がしたいんだ?」
御影は興ざめしたように鼻を鳴らした。
「俺の記事がフェイクだったとして、俺と闘って報道権を奪った所で、お前に何の得があるんだ?」
心底不思議という風に問いかける。
「それだったら、てめえのための記事を書けばいい。フェイクが嫌なら、そうじゃない記事を好きに書けばいいじゃねえか。なんでいちいち噛みつく必要がある」
「お前のような、フェイクを作る記者から、皆を助けるためだ」
「あんたのせいで、不幸になった人間が、俺たちに助けを求めてきた。お前の記事を正してほしいと」
脳裏に蘇るのは、1人の教師。自らも職を失い、妻子にも先立たれた。
「助ける、ねえ……」
「別に、そんなもん誰も求めてねえ。記事に登場した人間がどうなったかなんて気にする奴なんていねえ。読んでるやつが気になるのは、その記事の内容だけ。記事の登場人物がどうなったかなんて、興味ねえんだよ」
「興味があるとかどうでもいい。誰が得するとか、そんな話じゃない」
「はいはい、わかったわかった」
御影が観念したかのように、両手を上げた
「まあ、お前がその教師を救いたいということはわかった。だが、そうだとして、今度は別の事実が浮かび上がってくるのはわかるか?」
カケルが視線を上げる。
「吉川がそれに加担したという事実だ」
その言葉に、のどが詰まる。
確かに、彼女が加担した事実は変わらない。川口の悲劇に、吉川が無関係とは決して言えない。
でも、それが真実じゃない。
「彼女は、母親と妹を守るためにやった」
カケルの言葉を御影はつまらなそうに聞いていた。
「お前に、彼女たちの炎上記事を書くと脅されていたからだ」
カケルは、涙を流しながら告白する吉川を思い出す。
『私だけなら、いくらでも報道してかまわなかった。でも……家族がそうなるのは……耐えられなかった』
「は!」
御影は吐き捨てる様に、
「結局は、共犯じゃねえか。事実は何にも変わらねえ」
御影の目に迷いはなかった。
だからこそ、カケルは強く断言した。
「違う、彼女は自身の罪を認めた」
「ああ?」
「お前みたいに、開き直ったりしていない。自身の罪を認め、裁かれることを望んでいる」
思い返す。
弱弱しく、嗚咽で消え入りそうな声で、それでも懸命に絞り出された言葉。
『たくさんの人を……先生をだましてしまいました……どんな裁きでもうけます……だから、お願いです。真実を報道してください』
「真実を信じ、真実を受け入れた彼女を俺は……守る」
膝に力を入れる。焼けるような痛みは言葉で押しつぶす。
「そのために、俺は戦う!」
カケルが咆哮した。握りしめた大剣が、カケルの「真実を信じる」想いの力に呼応して光を放つ。激しい風が巻き起こり、部屋中の炎を消し去った。
「うおおおおおおお!」
カケルは、御影に向かって突進し、剣を連続で振るう。想いの力によって生まれる太刀筋が、御影を徐々に追い詰めている。
御影はついにかわし切れず、円刃で受け止めた。
「ち!」
勢いに任せて、剣を振りぬく。質量を伴った斬撃に御影は後ろに吹き飛ばされて、壁際の所で、踏みとどまった。
そのまま、力が抜けたように膝をついた。
「くそが……」
受け止めたものの、満身創痍のようだ。灼熱の炎は、すでに細い煙しかあげていなかった。
カケルは大剣を構えたまま言い放つ。
「お前の負けだ。あきらめろ」
呼吸を乱しながら、御影が忌々しげに呟く。
「やるじゃねえか……正直舐めてたぜ」
しかし、御影は不敵に犬歯をのぞかせる。
「だがな、お前、もしかして勝ったと思ってるのか?」
「どういう意味だ」
御影は嘲笑する。
「お前、さっきいってたじゃねえか。吉川が俺に家族を人質にされてるってな」
御影がそういうと、空中にホログラムの記事が映し出された。
見出しには『主婦が金銭と引き換えに、娘2人に売春を強要 姉妹にも非行歴』
「な……」
「これ以上やるってんなら、この記事を発信する」
絶望するカケルに、御影は勝ち誇った顔で言った。
「ははは。どんだけ大口叩いても、しょせん真実なんてそんなもんなんだよ。フェイクに勝てやしねえ!」
報道権を盾にされて、カケルは一歩も動けなくなり、構えていた大剣を降ろすしかなかった。
御影が余裕綽々で近づいてくる。
そして、カケルの顔面に拳を叩きこんだ。
たまらず倒れこんだカケルを、御影が何度も足蹴にする。
「てめえみたいなクソガキが俺に楯突こうなんざ、100年早いんだよ!身の程知らずの、くずが!」
怒りに我を忘れて、御影は何度もカケルを踏みつける。顔、わき腹、手足の組織が悲鳴を上げる。
やがて、気が済んだのか。不意に攻撃が止まった。
「結局、真実なんてなんの価値もねえんだよ」
頭上に強烈な熱を感じた。
「今度こそ終わりだ、偽善者」
(……ここまでか)
絶体絶命の状況に、カケルが諦めかけた時――
『待たせたな、カケル』
耳になじんだ声が響き渡った。
~取材メモ~
御影レンジ スクープギア「炎上地獄 Frame Reposter」武器形態:チャクラム 種類:強化系
炎をまとった円刃による攻撃。自身の記事を見た読者の「他人を叩きたい」という感情が強くなるほど、威力があがる。




