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第四十九話 誕生日会 其の一


華やかな着物に身を包んだ招待客が続々とやって来る。

体育館ほどもある広い洋館が、みるみる人で埋まっていく。


(都様、いるかな……)


周囲を窺うが、あまりの人の多さでとても見つけられそうにない。


少しして、心なしかいつもより緊張した面持ちの九頭見様が現れる。


(やっぱイケメンだな……)


オーラがすごい。

普段の気さくな姿からは想像もつかない程、貫禄も威厳もある。


女性達の目がうっとりと九頭見様を追いかけている。


「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。皆様のお心遣いに感謝いたします」


その後少し話が続いた後、最後におしゃれなシャンパングラスが掲げられる。


「乾杯!」


(すごい、この時代にあんなグラスもあるんだ……)


その声が止むと同時に、一斉に九頭見様の周囲を女性達が取り囲む。


(すごい……)


しかし慣れているのか、九頭見様は慌てた様子もなくにこやかに女性達に応じている。


「……これください」

「あ、はい!」


気付けば自分のケーキの前にも長い列ができていた。

皆、好奇に満ちた目で私のケーキを見つめている。


「……どうぞ」

「はい、どうぞ」


次々とケーキが消えていく。


そしてそれを頬張る姿。

そこには歓声と笑顔が溢れている。


(良かった……)


「私、こっちも食べたい!」

「私はこれとこれ」


千歳も手伝ってくれるが、人手が足りない程の賑わいだ。

休む間もなくオーダーが入る。


「はい、どうぞ」

「次の方はどうされますか?」


(このままだとすぐになくなっちゃいそう……追加で作った方が良いかな)


まだ誕生日会は始まったばかりだ。

でも、この行列――とても抜けられそうにない。


「……ゆの」


不意に足元から声がした。

そこには机の陰にしゃがんでる女性――って、


「都様!?」


そこにいるのは、いつも以上に艶やかな着物をお召しになっている都様だった。


「私、手伝います。ゆの様は追加をご用意ください」

「何をおっしゃっているんですか。都様はあちらで――」


そう言ったものの、都様は立ち上がるとお玉を手にし、ゼリーを器に盛りつけ始める。


「だってもうすぐなくなってしまいます。九頭見様も召し上がっていないのに」

「そ、それはそうですが……それでしたら、料理方からどなたかをお借りするので大丈夫です。都様は九頭見様の方へ」

「やってみたかったんです。こういうの」

「だ、だめです!」


列に並んでいる人達も怪訝な顔をしている。


「ここは私と千歳様に任せてください!」

「いえ、そんなわけには――」


何せ都様は婚約者の最有力候補だ。

それに芳川様の娘、こんなこと許されるわけがない。


「そうですよ、都様。ここは私に任せてください。一人で大丈夫ですから」


千歳も口添えしてくれる。

都様は持っていたお玉を銀盆の隅に置くと、こちらに向き直る。


「――では、これは命令です」

「えっ?」


都様がにっこりと笑う。


「私の命令、聞いていただけますか? ゆの様はお菓子作りに向かってください」

「……」


それが都様の優しさだと気付く。


千歳と目が合う。

千歳は観念したように、私の方を見て静かに頷く。


「……では都様、お願いします」

「はい!」


都様が何事もなかったようにゼリーをよそうのを横目に、私は台所へと急いだ。



◇ ◇ ◇



開門と同時に、美しく着飾った男女が、九頭見家の洋館の前に列をなしていた。

治安司達はその警備や受付に追われていた。


各務は藪内らと共に、洋館内での警備に当たりながら、九頭見様の周辺へ絶えず目を配っていた。

誰もが優雅に振る舞いながらも、その笑顔の裏にはそれぞれの思惑が見え隠れしていた。



“五名のうち一名が該当いたしました”

“その者は現在九頭見家で働いております”

“九頭見家で!?”

“はい”

“名は――”



「……」


各務は遠くから静かにその人物を見つめた。


「――各務様、失礼いたします。一通り受付が完了しました」


警備隊長の報告に、各務は治安司長の顔に戻る。


「数名を残し、残りは出入口の警備を頼む」

「はっ」


各務の視線は女性達に囲まれる九頭見を一瞥(いちべつ)した後、再び洋館全体へと向けられた。



◇ ◇ ◇



「九頭見様、本日はお誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」


九頭見の前には長い行列――いつしか、九頭見と女性が一対一で歓談する時間が設けられていた。


「こちら、父が南方より取り寄せた珍しい茶葉でございます。とても香りが良いと評判の品です」

「お心遣いをありがとうございます」

「ぜひ一度、こちらのお茶を飲みながらゆっくり語らいたいです」

「ええ」

「父もぜひ九頭見様にお会いしたいと申しております」

「ありがとうございます」


そして、次の女性に入れ替わる。


「九頭見様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「こちら、庭で咲いております朝顔をお持ちいたしました」

「美しいですね」

「庭には他にも多くの花がございます。ぜひ一度ご覧いただきたいですわ。父もそのように申しております」

「それはありがとうございます」


また次の女性が前へ進み出る。


「九頭見様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「こちら――」


この調子で、優に五十名とは話しただろうか。

足元の箱は沢山の贈り物で埋め尽くされている。


どの女性も真剣だ。

限られた時間の中で、懸命に言葉を尽くしてくれているのが分かる。

だから笑顔を絶やすことなく、一人ひとりの言葉に耳を傾ける。


祝いの言葉。

贈り物。

家の話。


そして……繰り返される“父がそう申しております”の言葉。


その言葉を聞く度に、胸の奥が少しずつ冷えていくのを感じる。


――この目の前の女性は、私を好きなのだろうか。

家のために、私との縁を結ぼうとしてくれている。

それで幸せなのだろうか、と。


「……!!」


ふと、袖の内側に柔らかい物が触れる。

それが、ゆのから借りたとっておきの御守りであることに気付く。


思わず口元が緩んだ。


「……九頭見様?」

「何でもございません。続けてください」


九頭見は、女性に再び柔らかな笑顔を向けた。


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