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第四十七話 一週間後


九頭見様にクッキーを差し入れした都様が、息を弾ませて戻ってくる。


「いかがでしたか?」

「はい、九頭見様に大変喜んでいただけました!」


本当に嬉しそうだ。


「良かったですね!」

「はい……ただ、父がいないんです」

「芳川様が……?」

「九頭見様のところへ向かったとゆの様から伺いましたが、九頭見様はお会いされていないと――」


その時だった。


「都!!」


振り向くと、廊下の向こうから芳川様が駆け寄ってくる。


「すまん。途中で知り合いに会って話し込んでしまった」

「父上!」

「すまん、本当に……都は九頭見様にお会いしたのか?」

「ええ。お菓子を召し上がっていただきました」

「それは何よりだ」


芳川が穏やかに頷く。


「この後、九頭見様は出かけられると伺いましたが、父上、ご挨拶はいかがされますか?」

「そうか……ならば、明日また報告会で来るから、その時にしよう。これ以上長居するのもご迷惑だ」


そこまで言って、芳川がくるりとこちらに向き直る。


「ゆの殿、感謝する。都にとっても、私にとっても良い経験になった」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「ゆの様、またお願いしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」

「次お会いするのは、九頭見様の誕生日会かな」


父の言葉に、都の笑みが一瞬だけ曇る。


「ゆの殿の菓子、楽しみにしている」

「はい!」


門で二人の姿が見えなくなるまで、千歳と共に頭を下げた。



◇ ◇ ◇



共通項を持つ十五名の警護が始まった。


在宅時や夜間は家の外に見張りを立て、外出時には治安司がぴったりと護衛する。

これまで誘拐された四名の誘拐場所も室内、屋外と様々だ。

どこにいても気が抜けない。


――その頃、各務達は資料庫にいた。


今年に入って行方不明者は四名。

しかし、自分の両親のように今年よりも前に、そ(・)う(・)で(・)あ(・)る(・)が(・)ゆ(・)え(・)に(・)行方不明になっている人間がいるかもしれない。


藪内ら部下と共に手分けして、十年前まで遡り、行方不明者の基本情報が書かれた一覧を具(つぶさ)に調べていく。


(落ち着け……)


頁をめくる指に、自分でも焦りを感じる。


気付けば、日も落ち始めていた。


「そちらに該当者はいたか?」

「はい、三名程」

「こちらは二名だ。皆の者、手分けしてこの五名の精査を頼む」

「はっ」


一同が退出し、一人になった資料庫で各務はこれまで何度も手にしてきた『各務宗志・志津失踪事件』の綴りを静かに開いた。


(両親は生きている、そして作らされている)


あの皿。

あの裏印。


今年に入って起こった四件の失踪事件。

そして、もしも今日見つけた中に同じ共通項を持つ者がいれば、過去の失踪事件の解決にも繋がる。


新たな決意を胸に抱き、各務も資料庫を後にした。



◇ ◇ ◇



それから数日後。


「ゆの様、すごい、すごいです!」


千歳が何度も拍手を送る。


目の前には、銀盆に乗ったデモ用の九種類のケーキ。

水色・白・黄色を基調とした涼やかなものばかりだ。


そのケーキの台座は、もちろん先日、各務様に作ってもらったもの――。


「本当に夏らしくて……こんなにすごいお菓子、初めて見ました」

「ありがとう」


我ながらなかなかの出来だ。

写真に残しておきたいが、当然ながらこの時代にカメラもスマホもない。


「いよいよですね」

「うん……」


九頭見邸に来て以来、いくつか宴席は経験してきたが、今回はこれまでと全く違う。

誕生日会が迫るにつれ、屋敷全体に漂う独特の熱気をひしひしと肌で感じる。


「――この後、料理長と副料理長がお越しになるのですね」

「うん。初めてだから、お二人に一度ご確認いただこうと思って」


九頭見様の誕生日会だ。

九頭見様ご自身に確認してもらうわけにはいかない。


しばらくして二人がやってくる。


「おお、これは――」


入ってくるなり、二人はゆのが作ったケーキを前にしばし言葉を失う。


「……食べるのが惜しい出来栄えだ。素晴らしい」

「ありがとうございます」


二人が銀盆の上のケーキやゼリーなどを興味深そうに見つめる。


「すごいな」

「ええ」

「ゆの。この菓子は当日どのように冷やしておくつもりだ?」

「はい。銀盆の下に、薄い氷の板を敷くつもりです」

「なるほどな。しかし、これを会場まで崩さずに運ぶのは難儀だ」

「あ……」


そう言えばそうだ。

この立体的なケーキを、離れの洋館まで崩さず運べるとは思えない。

千歳と銀盆の両端を持って慎重に運ぶにしても、相当な距離がある。

ケーキ自体、柔らかいものも多い。


(どうしよう……)


「菓子と台座は別々に運び、当日会場で乗せた方が正解だな」

「そうですね、ありがとうございます!」


川幡副料理長と会話をしている横で、田野上料理長はケーキ一つひとつをじっくりと眺めている。


「いかがされましたか?」

「いや、あまりに素晴らしくてな……これは九頭見様にも招待客にも喜ばれる」

「ありがとうございます!」


その後、誕生日会当日の流れを打ち合わせする。

当日は銀盆の後ろに立ち、料理人自らがサーブするらしい。


(緊張するな……)


統央(とうおう)以外の地域からも、多くの客が招かれている。


“婚約者選び”の場と聞いていた通り、招待客は女性客が多い。


「では、当日頼みます」

「はい、よろしくお願いいたします」


二人が部屋を出て行くのを見届け、ホッと息をつく。


「良かったですね」

「はい」


九頭見様の誕生日会は、あと一週間後に迫っていた――。


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