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第四十六話 二度目のレッスン


都様が二度目のお菓子作りのレッスンに来られることになった。


いよいよ明日だ。


(緊張する……)


都様に対して以上に、お礼が言いたいと急遽付き添われることになった芳川様に対して。

私には優しい言葉をかけてくれるが、本来は厳しい方だと千歳から聞いている。

前回以上に、徹底的に掃除を行う。


「……あ、千歳。前あった足の傷、もう治ってるね」


膝をついて廊下を拭く千歳の足の傷はすっかり癒えていた。


「はい、ゆの様の手当てのおかげです。ありがとうございました」


一通り準備を終えると、門へ向かい、二人の到着を待つ。


「ゆの様、くれぐれも気を抜かないようにお気を付けくださいね」

「はい……」


そう言われると余計緊張してしまう。

やがて二台の駕籠(かご)が到着する。


一台目の駕籠からは芳川様、そして二台目からは都様が現れる。


「本日はようこそお越しくださいました」

「急に来て悪いな」

「本当にすみません、父も行きたいと申しまして」

「都がお世話になっているのだからな、直接お礼を伝えるのは当然だろう」

「遠いところありがとうございます。どうぞこちらへ」


客間へ案内し、二人に席についてもらう。

千歳がお茶を運び、用意していたお菓子を机に置く。


「こちらが、本日都様にお作りいただくお菓子になります」


見本として差し出したのはクッキー。


「これは……?」

「クッキーという焼き菓子です」

「模様が可愛い!」

「ぜひ召し上がってみてください」


プレーン生地とココア生地を使った五種類のクッキー。


「……いかがですか?」

「おお、この食感は面白い」

「どれだけでも食べられそう!」


二人とも気に入ってくれたようだ。


(良かった)


「作るのは難しくないのですか? このようなお菓子、初めて見ましたわ」

「都様なら大丈夫です」


それを聞いて都様が嬉しそうにはにかむ。


「私も作り方に興味がある。一緒に拝見しても良いかな」

「もちろんです」


手を洗った後、前回同様、着物を汚さないよう都様には割烹着を着てもらう。


「では始めましょう。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

「流れとしましては、二種類の生地を作った後、一度冷やします。その後、成形して窯で焼成します」

「生地を作る、冷やす、成形する、焼くですね」

「おっしゃる通りです。では生地作りから始めましょう」

「はい」


まずバターと砂糖を混ぜてもらう。


「……このように、空気をふんわりと入れる感じで混ぜ合わせてください」

「はい」


手本を見てもらった後、前回と同じように真剣な表情で、都様が材料を混ぜていく。

卵を少しずつ加え、さらに混ぜてもらう。


その手つきも前回よりも滑らかだ。


「ありがとうございます。では、都様。次はこちらをこのようにふるっていただけますか?」


次は小麦粉をふるってもらう。


珍しそうに都様が見つめる後ろで、芳川様の視線もこちらに向けられている。

芳川様に見られていると思うと、どうしても背筋が伸びる。


「このような感じでよろしいでしょうか」

「はい、ありがとうございます。次は先程混ぜていただいた中に、こちらの粉を入れて混ぜ合わせていただきます。こちらの箆(へら)で、今度は感じで切るように混ぜていただけますか」

「切るように……」

「――切るように混ぜるのには、何か意味があるのかな?」


尋ねたのは都様でなく、見学している芳川様だった。


「はい。練るように混ぜると食感が固くなってしまいます」

「なるほどな」

「では都様、お願いいたします」

「はい……」

「都、しっかりな」

「はい」


都様がこれまでになく緊張の面持ちで混ぜ始める。


「このような感じでしょうか?」

「はい、良い感じです」


ココア生地のものも同じように作る。

それぞれをひとまとめにした後、瑞果時代式の冷蔵庫で生地を寝かせる。


「ここでしばらく生地を冷やします。しばらく時間がかかりますので、都様もどうぞ休憩されてください」

「ありがとうございます」

「芳川様も」

「うむ……それにしてもこの台所には、たくさんの珍しい道具があるな」

「はい、菓子作りのために揃えていただきました」

「さすが、ゆの殿だ」

「そんな……」

「都、良かったな、良い先生に教えてもらえて」

「はい」


生地が落ち着くまで、他愛のない会話をしながら待つ。

現代の冷蔵庫とは異なる為、時折様子を確認しながら……。


「――そろそろ良さそうです。成形に入りましょう」

「はい」


二種類の生地をそのまま、或いは組み合わせて五種類のクッキーを作っていく。


「すごい、これで市松模様になるんですね」

「はい。この棒状のものを、この位の大きさに切っていきます」

「それが先程食べたあの形ですね」

「はい」


都様の包丁を持つ手が震えている。

もしかしたら、生まれて初めて持つ包丁かもしれない。

慎重に生地を切っていく。


「力はいりません。こちらをしっかりと押さえて」

「はい」

「都、焦らずで良い」

「はい」


二人の視線を浴びながら、都様が全ての生地を切り終える。


「都様、綺麗に切れております。最後にこの生地を焼いていきます」

「はい」


台所の扉を出た先にある窯場へ場所を移す。


「立派な窯だな……」

「はい」


芳川様が見るのはもちろんこれが初めてだ。


「これであの様々な菓子が焼けるのか」

「そうです。そのために作ってもらった特別な窯です」

「特別とは?」

「火加減が難しいので、熱を調節するためにこの壺に入れて焼いていきます」

「ほぉ……」


クッキー生地を並べた鉄板を窯へ入れる様子を見てもらう。


「では、これから焼成いたします。このお菓子は短時間で焼き上げるので、私はしばらくここで見張りをします。千歳、お二人にお茶を」

「承知いたしました」


後ろで控えていた千歳が、二人を客間に案内する。


パチパチと音を立てながら、窯の火がゆっくりと壺を包んでいく。

徐々に火が安定していく。


「……なるほど」

「え?」


振り返るとそこには芳川がいた。

慌てて立ち上がる。


「芳川様、いかがされましたか?」

「いや、ずっと座っているのは性分に合わないのでな」

「そうでしたか」

「ゆの殿の菓子は本当に素晴らしい」

「ありがとうございます」

「都をよろしく頼む」

「とんでもございません!」


頭を下げた芳川様に、自分も慌てて頭を下げる。


「九頭見様のところへ顔を出してくる。都を頼む」

「承知いたしました」


芳川様が去り、再び窯に目を向ける。

窯の中では、香ばしい匂いが少しずつ広がり始めていた。


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