第四十五話 十六人目
翌朝――。
治安方に出勤するなり、各務は従者に伝える。
「藪内を司長室に呼んでくれ」
「はっ」
待つ間の時間、お茶を飲みながら心を落ち着かせる。
少ししてから、藪内が姿を見せる。
「失礼いたします」
「例の件、調べはついたか?」
「はい、結論から申し上げます。各務司長のおっしゃる通りでした」
「……そうか」
各務はゆっくりと目を閉じた。
ここまで時間がかかってしまった。
しかし、両親が行方不明になって以来、追い続けた事件がようやく一本の線で繋がった。
「共通項をもつ人間の洗い出しに入る」
「承知いたしました」
「かなり骨が折れる作業になるとは思うが――」
「各務司長。先日申し上げた通り、治安司は三百余おります」
藪内が凛とした声で伝える。
その言葉に各務がふっと笑う。
「そうだったな。朝礼で全員に通達する」
「はっ」
そして、各務は信頼する三百余名の治安司に命を下した。
◇ ◇ ◇
「――十五名か」
「はい」
藪内から報告書を受け取る。
三百余の治安司総動員での調査は、予想以上に早く済んだ。
「全員の保護は非現実的だな」
「そうですね。どれだけの期間保護するかの見当もつきませんし、彼らの生活や仕事を止めてしまうことになります」
「警護をこの十五名に集中する」
「はっ」
「警備隊長達を呼んでくれ」
「承知いたしました」
扉を開ける直前、藪内が各務の方を振り返る。
「随分明るくなりました」
「……私がか?」
「それだけではございません。治安方全体が、です」
「……そうか。ならば良かった」
扉が閉まり、机の上の湯呑みを見つめる。
「十五名……いや、十六名か……」
呟きは誰に届くこともなく、静かに宙に消えた。
その後、司長室で警備隊長らと共に今後の警備体制について話し合う。
細かく人員配置や警備体制を確認する。
これ以上、行方不明者を出さない。
だが、それと並行して犯人を見つけ出さなくてはいけない。
行方不明になっている人間を見つけ出さなくてはいけない。
もしかしたら、無関係ではない行方不明者が他にもいるかもしれない。
ようやく入口に立ったに過ぎない。
それでも、自分は一人ではない。
三百余の治安司がいる。
(全員で必ず――)
◇ ◇ ◇
「ゆの様、九頭見様がお呼びです」
ゆのが呼ばれたのは、それから一週間後だった。
「九頭見様が?」
「はい、ご案内いたします」
「大丈夫。いつもの部屋なら一人で行けるよ」
「いえ、今日はいつもと違うお部屋です」
「……?」
そう言われ、千歳に伴われ九頭見様の邸宅側に移動する。
いつもと違う景色。
ある和室に通された後、畳を上げると、その下に階段が現れた。
(こんなところに……?)
初めて行く場所だ。
階段を降りると、廊下があり、両側にいくつか部屋がある。
(すごい……)
「……こちらです」
「ありがとう」
千歳は頭を下げると、そのまま去っていく。
緊張しながら戸を叩く。
「――ゆのです、失礼いたします」
そこで待っていたのは――。
「各務様!?」
九頭見様がいらっしゃるものだと思っていた。
しかし、いらっしゃったのは各務様お一人……。
光が差し込まないその部屋は、燭台や行燈だけが頼りだ。
「すまない、呼んだのは私だ。九頭見様にお願いして特別にこの部屋をお借りした」
戸惑いながらも、各務様の前に置かれた座布団に座る。
「忙しい時分に、このような場所に呼び立てて悪かった」
「いえ……」
「今日はこれを持ってきた」
各務様が自分の横に置いた風呂敷を、私の目の前で広げる。
中から出てきたのは――
「あ……」
九個の台座。
白く輝く台座だ。
「このような形で高さを変えている」
各務様が台座を順に並べる。
「すごい……本当に。ありがとうございます!」
台座を手にする。
絵で描いた通りだ。
ううううん、それ以上――。
「高さや大きさは大丈夫か?」
「はい、完璧です!」
「準備は順調なのか?」
「はい、おかげさまで」
「ならば良かった。……話は変わるが、湯呑。そなたに一つ聞きたいことがある」
急に各務様の声のトーンが真剣なものに変わる。
「何でしょうか?」
「一人で外出することはあるか?」
「え……?」
思いがけない質問。
「……いえ、町へ行く時は、いつも千歳に同行してもらっています」
「そうか……」
「今後もし外出する際は治安方へ伝えてほしい。九頭見邸内に詰所があるのは知っているだろう」
「はい。でもどうして――」
「護衛をつける」
「えっ?」
「九頭見様の命だ」
九頭見様の名を聞いて、湯呑の表情が変わる。
「……何かあったのですか?」
「失踪事件が起こっているのは知っているだろう」
「はい」
「そのためだ」
何かを言おうと湯呑は口ごもるが、そのまま頷く。
「分かりました。でも、それを言うために今日はこのような場所に?」
湯呑が光の射さない部屋を見渡す。
「――最近、湯呑の住処に鼠がいるようだからな」
「鼠!? 今のところ見たことはありませんが……」
「九頭見家に長く住みつく鼠が、どうやらゆのの邸宅側にも来ているようだ」
「本当ですか? 何か対策を取った方が良いでしょうか?」
湯呑の真剣な眼差しが見上げる。
「そうだな……ならば、猫でも飼うか」
「猫ですか? コッコの敵になりませんか?」
本物の鼠だと思っている湯呑の言葉に、堪えきれず吹き出す。
「――えっ?」
「すまない、悪かった」
笑いを収め、各務の顔が治安司長の顔に戻る。
「その台座についてだが、一つ頼みがある」
「頼み?」
「ああ」
湯呑の元に近寄り、その頼みを伝える。
「!?」
それを聞いた湯呑の目が大きく見開く。
「……本当に、それで……?」
各務が頷く。
「台座は後程、部下に届けさせる」
「……はい」
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように各務が呟く。
「大丈夫だ、今度こそ……」
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