第四十四話 光
各務は昨日に引き続き、司長室で藪内と頭を突き合わせていた。
残りの紙もあと僅かだ。
紙をめくる微かな音だけが、部屋に響いていた。
「――よし」
ようやく全ての紙をまとめ終えて、息をつく。
「各務司長は今回の四件の失踪事件、ご自身の両親の失踪事件と関係あると思われますか?」
「!」
唐突な藪内の言葉に、各務の手が止まる。
――そういえば、そうだ。
あの日、資料庫で藪内が手にしていたのは『各務宗志・志津失踪事件』の綴り。
なぜ、あれ程たくさんある資料の中から、両親の資料を持っていたのか――。
「……そなたは以前、私の両親の失踪事件の資料を見ていたな」
「ええ。各務司長が陶器職人であることは存じています。そのような肩書の者が治安司を志願するということは、何かを探りにきた、もしくは解決したい事件を抱えていると考えるのが妥当でしょう」
図星だ。
「業務時間外に、各務司長が何度も資料庫に足を運んでいる姿をお見かけしました。何を見ているのか気になり、各務司長がいつも立っていらした棚から、それらしい資料を探し出しました」
(そういうことだったのか……)
「そなたはどう思う? 繋がっていると思うか?」
「はい」
迷うことなく藪内が頷く。
「なぜそう思う?」
「確証などございません。各務司長のご両親の失踪事件から日にちも経っていますし、無関係と見る方が自然でしょう。しかし、治安司の勘と言えばよいのでしょうか、私は何となくそうは思えないのです」
「……」
「各務司長はどう思われているのですか?」
「……私もどこかで繋がっている気がしてならない」
「それは奇遇ですね」
そう言い放った藪内の表情は、どことなく嬉しそうだった。
「ならば、確証をこの中から探すか」
「ええ、必ずや」
◇ ◇ ◇
日はすっかり傾いていた。
二人の目は相変わらず、真剣に資料を追っていた。
「……!」
そんな中、各務がある言葉に目を止める。
次の瞬間、慌てて他の行方不明者の資料を手繰る。
「いかがされました?」
藪内の声が遠くに聞こえる。
冷や汗が背中を流れる。
「……藪内。明日、この四名の家族の元へ走ってくれ。尋ねてほしいことは――」
各務が震える声で、藪内に伝える。
「……承知いたしました」
「それは、もしや各務様のご両親にも共通するのですか?」
「ああ……」
鼓動が早鐘のように音を刻む。
「すまない、明日は休みで外せない用事がある」
「お任せください」
「……頼む」
藪内が手にしていた紙を置き、各務を見つめる。
「顔色が良くありません。この時くらい良いのではないですか?」
「え?」
「いつも冷静で表情を崩さない――そんな各務司長でなく、行方不明の両親を探す一人の息子として感情を露わにしても」
「!!」
そうだ、もう四年近くになる。
どこか半分諦めていた自分を動かしてくれたのは湯呑、そして目の前の藪内だ。
諦めなくて良かった。
「……そうだな」
藪内の目には、各務の目が潤んでいるように見えた。
◇ ◇ ◇
翌日――。
各務は久々に実家の作業場にいた。
目的はもちろん、湯呑に頼まれた台座作りだ。
終日休める日など、めったにない。
事件のことはもちろん気になる。
しかし、今日しかない……それに冷静でいられる自信もなかった。
久しぶりに土に触れる。
湯呑から貰った図を参考に、九個の高さが異なる台座を作っていく。
各務の中には一つの思惑があった――それは挑戦でもあり、ある意味賭けでもあった。
この機会を逃すわけにはいかない。
土を練る指先に力がこもる。
神経を研ぎ澄ませる。
その横顔は、陶器職人・各務宗真そのものだった――。
◇ ◇ ◇
九個の台座の成形をし終え、乾燥させる為に棚に並べる。
頭に巻いていた布を取ると、縁側に座る。
庭には、コッコのために作った小屋と柵がそのまま残っていた。
(懐かしいな……)
湯呑がここで暮らしていた頃のことを思い出す。
あの頃はこの縁側で焼きたてのケーキを囲みながら、他愛のない話をしていた。
その情景が、ふと脳裏を過る。
「!?」
(――それなら湯呑も……)
とんでもないことに気付き、無意識に拳を握り締める。
一度深く息を吐き、逸る心を落ち着かせる。
(いや、下手に匿うより、あの場所にいた方が安心か……)
各務はゆっくり立ち上がると、再び作業場へと向かった。




