第二十八話 試行錯誤
(海外のお客様に受けそうなもの……)
思いつくのは抹茶。
(でもこの前、九頭見様と芳川様には抹茶のテリーヌ出しちゃったな……)
それ以外で受けそうなものを考える。
抹茶のケーキは表面に抹茶を振ると飛びそうだし、餡子も好き嫌いが分かれそうだ。
(パフェは運ぶときに崩れそうだし……いつ会議が終わるか分からないのに、アイスも最高の状態で保てるか分からないよね……)
冷蔵庫がない時代だ。
金属の箱の中に入った氷で冷やす形。
普通の冷蔵庫よりも冷たいけど、どこまで信じていいのか未知数だ。
色々と頭の中に候補が浮かんでくる。
(……あ、どら焼きはどうかな。とりあえず作ってみよう)
和菓子は決して得意ではないけれど、テーマは“和”だ。
生地作りから始める。
生地の大きさや厚さを変えて、幾通りもの生地を作っては、一つずつ切り分けていく。
中に入れるトッピングも色々と用意し、千歳と共に順に試食する。
作業台の上には、知らない間に、切り分けられたどら焼きがいくつも並んでいた。
「これはちょっと果物の味が主張しすぎですね」
「この量だと抹茶の良さが消えるかも」
自分と千歳の意見を取り混ぜて、ベストな抹茶どら焼きを作っていく。
その日の食事が要らなくなるほど、たくさんの試食を重ねる。
(うーん……)
なかなか決めきれない。
(……あ、そうだ、料理長と副料理長に相談してみよう)
***
“自分の思惑で、他人の時間を奪うな”
その言葉を思い出し、千歳を通じて二人にアポイントを取る。
面会できたのは日も暮れた頃だった。
「失礼いたします」
作った抹茶どら焼きを広げる。
「こちら宴席用に作ってみたのですが、一度ご試食いただけますか?」
「抹茶の菓子か……」
「はい、抹茶どら焼きです」
「どら焼き?」
(瑞果時代にはないんだ……)
怪訝そうな顔で、二人がどら焼きを口にする。
「良いのではないか」
田野上料理長が頷く。
「見た目も美しく、喜ばれると思う」
「……ありがとうございます!」
今度は川幡副料理長に向き直る。
「いかがでしょうか?」
「……食事の後には重い」
「えっ?」
「膳の数も多い。その最後にこれは重いと言っている」
「!!」
確かにそうだ。
(全然気づかなかった……)
それだけ言うと川幡副料理長は立ち上がり、そのまま部屋を後にした。
部屋に田野上料理長と二人取り残される。
「……すまない、悪気はないんだ。ああいう言い方しかできない奴で」
田野上料理長が溜め息をつく。
「いえ、貴重なご意見ありがとうございました!」
「味は十分だし、まだ日にちはある」
「はい、ありがとうございます!」
(食事の後にも美味しく食べてもらえるお菓子を作らなきゃ)
俄然やる気が湧いてくる。
田野上料理長にお礼を言うと、急いで台所へと戻った。
***
部屋に戻り、再び台所に立つ。
(もう少し小さくして、生地を薄くしよう。薄くするなら、間に具材を挟むんじゃなくて、オムレット型にして、一口か二口で食べられるサイズにしてみようかな……)
そうと決めたら、もう一度生地作りに取り掛かる。
焦がさないように薄く焼き、そこにホイップクリームをメインに、白玉団子や餡子を少量入れてみる。
(あ、これいいかも!)
クリームの量を調整すれば、手も汚れづらい。
食べやすく、食事の後でも重くない。
(二つセットにして、もう一個は抹茶を生地でなくクリームにして使おう。それに苺をいれようかな)
明日には九頭見様に味の確認をしてもらうことになっている。
――こうしてようやく試作品が完成した。
***
翌日。
九頭見様による、宴席用の料理と菓子の最終確認が行われた。
私も隅で正座しながら、九頭見様の感想をじっと待つ。
料理の修正が数点入った後、私の番が回ってくる。
「ゆの、これはなんという菓子だ?」
「どら焼きといいます。抹茶を主役にいたしました」
九頭見様がどら焼きを口に運ぶ。
目を瞑ってじっくりと味わうその姿を、緊張しながら見守る。
「……美味いな。香ばしさも甘さも上品だ。二種類あるのも良い。そうだな……当日梅の花を横に添えるとより見栄えがする。菓子自体はこれで問題ない」
「はい、ありがとうございます!」
(良かった……)
出席者数も先方が四名、こちらも四名、計八名と人数も確定した。
宴席でのタイムテーブルも配られる。
宴席の合間には、舞や演奏などの催しも予定されている。
「では皆の者、当日頼んだぞ」
「はっ」
梅の蕾が、少しずつ綻び始めている。
宴席は、もう間近に迫っていた――。




