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第二十二話 新天地

陶磁器職人 →陶器職人に修正しました


まず視界に飛び込んできたのは、大きく据えられた窯だった。


(各務様が用意してくれた窯だ……)


現物を見るのは初めてだ。

思わずそっと触れる。


見るからに外側を覆う石が新しい。

それでも、内側はしっかりと手入れされている。


表向きには、窯職人の指示を仰いで元陶器職人として知見のある各務様が作ってくれたことになっている。


傍らには、使い慣れた壺。

予備の壺も用意してくれている。


(各務様、ありがとう!)


庭には、一足先にやってきたコッコが走り回っている。

相変わらず元気そうだ。


(それにしても、すごい……)


台所は一面にタイルが貼られ、現代のキッチンと変わらない。

作業スペースも驚く程広い。


「こちらは九頭見様の命で準備しました最新の設備と、こちら調理器具になります」


包丁にまな板、鍋に……泡立て器もある。


「他に必要なものがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」


落ち着いた声で説明するのは、私の身の回りの世話や伝達を任された、世話係の千歳(ちとせ)


「ありがとうございます」

「この後、九頭見様がこちらにお越しになる予定です」

「はい」

「それまでごゆっくりなさってください。では、失礼いたします」


台所を出て奥に進むと客間。

さらにその奥に千歳の部屋があって、突き当たりに自分の部屋がある。


現代の自分の部屋よりずっと広い――いや、逆に広過ぎてどこか落ち着かない。


しんと静まり返った空間――。

そこに各務様の姿はもちろんない。


(……大丈夫)


小さく息を吐いて気持ちを切り替えると、部屋の隅に運び込まれていた荷物の整理に取りかかる。


各務様からもらった着物や帯。

身の回りの品。


それに、小花柄の布団。

スウェット。


物は少ないのに、驚く程大きな収納。

あっという間に片付けが終わる。


その時、戸を叩く音がした。


「ゆの様、九頭見様がお越しになります」

「はい!」


慌てて立ち上がり、着物や髪を整え、急いで台所へと向かう。


廊下の向こうから、足音が近づいてくる。


「ゆの、よくぞ来てくれた」


何か場違いな程、キラキラして見える。

こんなに近くで見るのは初めてだ。


「こ、こちらこそ、素敵な台所と部屋を用意していただきありがとうございます」

「気に入ってくれたか?」

「もちろんです」

「窯も大丈夫そうか? 宗真が窯の職人に指示を仰いで作ってくれたようだが。まあ、使って見ないと分からないな」

「はい、後で使ってみます」

「いや、一週間はゆっくりと新しい生活に慣れれば良い」

「えっ?」

「何か不満か?」


(こんな素敵なキッチンがあるのに、何も作らずにいる方が酷……しかもそれ以外することもないし……)


「できれば早めにお菓子作りをしたいです。環境にも慣れたいですし」

「ゆのが無理をしないなら問題ない。欲しい材料を紙に書いて千歳に渡してくれ」

「ありがとうございます!」


そこまで言った後、九頭見様が私の目の前に近寄る。


「安心しろ。後で宗真に顔を出すよう伝えてある」


大きく目が見開く。


「不安を拭ってもらえ」


それだけ言うと、九頭見様が去っていく。


(も、もしかして、遠戚じゃないのバレてる……!?)



***



コッコと戯れながら、各務様が来るのを待つ。

最近のコッコは名前を呼べば来てくれるだけでなく、私の姿を見るだけで嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。


(可愛いな……)


空はもうオレンジ色だ。

西の方から少しずつ空を藍色が覆っていく。


「ゆの様、各務様がお越しです」

「……はい!」


(本当に来てくれたんだ……!)


少し緊張する。


「湯呑……ゆの」


湯呑、と言いかけた各務様が、“ゆの”と名前を言い直す。


「各務様!」

「どうだ?」

「はい。片付けが終わったところです」


台所に入る。


「すごいな……」

「はい、私も驚きました」

「窯を作りにきた時は、まだ完成前だったからな。こんなに立派なのか……」

「はい、もったいないくらいで……あ、今、お茶を入れます」

「いや、構わないでくれ。悪いがすぐに出なくてはいけない」

「……そうなんですね」


(そんな忙しい中を縫って来てくれたんだ……)


「窯はどうだ?」


一緒に窯が置かれている離れに入る。


「はい。材料をもらい次第、使ってみます」

「これまで使っていたものと全く同じ設計にしている。だがもし何か問題があれば言ってくれ」

「ありがとうございます!」


各務様がこちらに向き直る。


「不安なこともたくさんあると思うが、俺も時々顔を出す」

「はい」

「それに……コッコもいる」

「えっ!?」


各務様の口から“コッコ”という名前が飛び出て、驚きで固まってしまう。


「……そなたが、コッコと名付けてるのは知っている」


(うぅ、恥ずかしい……)


「元気そうな顔が見れて良かった」


各務様が背を向ける。


「え、もう行かれるのですか……?」

「ああ、仕事の途中だからな」

「すみません、忙しいのに」

「また来る」


それだけ言い残すと、おそらく五分にも満たない滞在時間で去っていく。


「……」



各務様の足音が消えると、それまで意識していなかった孤独感に襲われる。

――でも、頑張るしかない。


部屋に戻ると、机の前に座り、半紙に欲しい材料を綴っていく。

綴り終えると、帯の中に入れたぬいぐるみ・コッコにそっと触れ、静かに息を吐く。


(明日から、ここでパティシエとして新しい生活が始まる……)


書き終えた紙を千歳に渡すと、疲れに引きずられるようにそのまま眠ってしまった。



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