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第十二話 縮まる距離


(次は蜜柑を使おうかな。でもケーキの型……何か代わりになりそうなもの……)


野菜を素揚げしながら、次に作るケーキについて思案する。


(スポンジケーキ的な物を作りたいけど、ケーキの型どうしよう……)


各務様の朝食用に作っているのは、素揚げした野菜と冷たいうどん。


一通り揚げ終わる。

しかし、離れの戸は全く開く気配がない。


(……野菜冷めちゃうし、一度声をかけてみよう)


「……各務様、失礼します」


軽く戸を叩く。


「朝食の用意ができました」


戸の開く音がする。

出てきた各務様の額には、うっすらと汗が滲んでいた。


「だいぶ火が安定してきたが、今離れられない。もう少し後にして良いか?」


遠くにある窯の中は火が轟轟(ごうごう)と燃えている。


「じゃあ、ここに朝食持ってきます!」

「え?」

「各務様は火を見ていてください!」


台所に戻り、朝食をお盆にのせて運ぶ。

各務様がテーブルを空けてくれていた。


「これは……?」


皿に盛られた野菜を凝視する。


「素揚げした野菜です」

「初めて見たな……」


瑞果(ずいか)時代に揚げ物はないのかな)


「お口に合うか分かりませんが……」


蓮根に山芋、牛蒡(ごぼう)にさつまいも、茄子に南瓜など、持ってきてくれた野菜総動員で揚げまくった。


「いただきます」


蓮根を口に運んだ瞬間、小さくサクッと音が弾けた。


「面白い食感だな。美味い!」

「良かった……」


次々に手を伸ばす各務様を見て、安堵と嬉しさが同時に込み上げる。


「“各務式オーブン”は順調ですか?」

「ああ、もうすぐ壺が焼ける。その後冷ませば完成だ」


目の前では、真っ赤な火が揺れている。


「使い方は難しいですか?」

「湯呑が使いやすいように、どうとでも変えられる。他に何か欲しいものはないか?」

「……あの、ケーキの型の代わりになるものってありますか?」

「ケーキの型?」

「はい。こういうものなんですけど……」


絵に描いて説明する。


「なるほどな」


言いたいことを、各務様はすぐに理解してくれる。


「大きさはどれ位だ?」

「この位で――」


説明しながら、ふと気付く。

すぐ隣にいる各務様との距離――肩が触れそうなほど近い。


(最初は怖い存在だったのに……何だか不思議……)



***



朝食後、各務様が再び窯の前に座る。


(でも各務様、昨日から全然寝てない……)


「各務様!」

「?」

「少し寝てください。今は火が安定しているんですよね。それなら私が見ています」


一瞬、各務様が躊躇(ためら)いの表情を見せる。


「……ならば、少し頼む。何かあればすぐに起こしてくれ」


各務様がそのままテーブルにうつぶせになる。


「そうじゃなくて……ちゃんと布団で寝てください!」

「火が見える場所でないと、気になって却って眠れない」


「それなら!」


夢乃は部屋を出ると、布団を持って現れる。


「湯呑……」

「それなら、ここで寝てください。ちゃんと身体を休めないと……」

「……」


敷かれた布団に、各務様は観念したように横になった。


「少しでも何か変わったことがあれば起こしてくれ」

「はい」

「……湯呑」

「?」

「ありがとう」


よっぽど疲れていたのだろう。

それだけ言うと、各務様はすぐに寝息を立て始めた。


「!」


――思わず視線が釘付けになる。


火が気になるのか、こっちを向いて眠るその寝顔はいつもよりずっと幼くて――胸の奥が騒めいた。



***



各務式オーブンとケーキの型が完成したのは、それから二日後だった。


「各務様、本当にありがとうございました!」

「礼を言うのは、ケーキが作れた後だ」

「はい!」


(今度は私の番だ……)


コッコの卵も三個ある。

頭の中にはレシピがしっかりと描かれていた。


(このために各務様が休みを犠牲にしてまで作ってくれたんだもん。絶対に成功させなきゃ!)


卵を混ぜる手に力がこもる。

生地を作り終え、各務様が作ってくれた陶器製のケーキ型に流し入れる。


「各務様、焼きに入ります!」

「ああ」


二人で窯の前に向かい、ケーキの型を入れた壺を窯の中に据える。


「火の強さはこの位で大丈夫でしょうか」

「もう少し強くした方が良い」


薪を足す。


「よし、しばらく火が落ち着くまで触らずにいよう」

「はい」


パチパチと燃える音がする。


(上手くいくと良いな。自分のため以上に……)


隣に座る真剣な表情の各務様を見つめる。


(こんなに一生懸命にしてくれる各務様のためにも――)



***



部屋中に漂う香ばしい匂い。

ケーキの型から外すと、表面には綺麗な焼き目がついていた。


「見た目は美味そうだな」


二切れカットする。


「本当は粗熱を取ってからの方が美味しいと思いますが、一度召し上がってみてください」


断面には均一で綺麗な気泡ができている。

口に含むと、表面はカリッと、中はふんわりしている。


想像以上の大成功だ。


「……?」


隣の各務様は口を動かしながら、一言も発しない。


「どうされましたか? お口に合いませんか?」

「……美味すぎる」

「え?」

「すごいな、湯呑!」


そう言ってハイタッチされる。


(な、何かキャラ変わってる……)


「良かったです。そう言ってもらえて……各務様のおかげです!」

「いや……作った甲斐があった」

「各務様」

「?」

「このケーキって売れると思いますか?」


ずばり本題を切り出す。

ケーキを作る理由――それはお金を得るためだ。

異世界(ここ)で生きていくために。


「ああ、十分売り物になる……って、もしかして売ろうとしているのか?」

「あ……」


ここまで言ったら逃げられない。


「はい、売れたらいいなって」

「それは……パティシエとして、自分の力を瑞果時代(ここ)でも試したいからか?」

「……そ、そうです」


各務が僅かに目を細めた。


「湯呑はケーキの腕は一流だが、嘘をつくのは三流だな」

「!」

「出会った時から、ずっと――」



※毎週水曜・日曜を目安に投稿してまいります※


お読みいただき、またブックマークや評価をしてくださった皆さま、本当にありがとうございます。とても励みになっています。

これからも丁寧に書いてまいりますので、今後の更新も見守っていただけたら嬉しいです。


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