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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十三踏 ≪蛇の島≫
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95/101

95. 巨大怪獣の奇妙な提案

「俺は、シャナキール修道院のポトリーグだ!! ここんち≪黒き島々≫では、ひと呼んで鍋聖人ポトリーグ!! これから≪氷の海≫を越えて、故郷ヒベルニアへ帰るとこでぇッッ」



 し~~ん……。


 海上、小舟カラハと怪物との間に、不気味な沈黙がただよう。


 それを断ち切ったのは、蛇の王であった。



『……すまんが名前だけ、もう一度??』


「きーっっ、ポトリーグだっつうのッッ」



 緊張が高まりすぎて、少年はむしろ切れかける!!



「つづりが知りたきゃ、P・O・T・R・A・I・Gだ、ごるあぁぁぁっ」


『……父親が、同じ名なのか』


「父ちゃんとか、俺知らねぇしっ。名前は昔の大聖人、ポドリーグ様にあやかったんだ!! あんちくしょうッッ」



 ポトリーグのぎゃんぎゃん主張を聞いて、なぜだか蛇の王は納得したように鎌首を振る。うなづいたのだろうか。



『そうか、ポトリーグ……。≪ポドリーグ≫ではないが、ポトリーグとな』


「そうだよッ」


『≪ポドリーグ≫はむかし・・・の人、と言ったな。死んだのか? そやつは』


「だから何だよ!? ヒベルニアでは超有名な人だから、どこの村にも十人くらいはポドリーグさんがいるぞッ。みんなあやかってんだッ」



 びびりや恐怖を押し込めるためにも、ポトリーグは威勢よくべらべらまくし立ててはいるが……。蛇の意図が、さっぱりわからない。この怪物はいったい、何が知りたいのだろう? さらに知って、どうするのか。



『そうか、そうか。……では、ポトリーグよ? ≪氷の海≫を越えてやって来たものどうし。わたしの友達として、ここで仲良くしないかね?』



 あかい目をやや細くして、蛇の王は少しだけポトリーグの小舟のほうに頭を近づけた。


 びしーっっっ!!


 蛇の王の言っていることを、ポトリーグおよびるるとんとうずのあざらし姉弟は、一拍置いてから理解した。戦慄にかたまってから、ぶるるっと一緒に縦向き震える。



――気色わる――――ッッッ!!!



『お前はわたしの言葉を理解し、わたしもまたお前に自分の心のうちを明かすことができる。そういう相手を、食ってしまいたくはないのだよ。ポトリーグとて、強大なるわたしと戦うのは避けたいだろう? 自分のいのちは、惜しいものなあ』



 蛇の声は今、なめらかに穏やかであった。しかしその甘言のうしろに、ポトリーグとうず雄、るる波は本能的に捕食者のたくらみを感じ取る。



『わたしと盟約を結び、共存せぬか? ポトリーグよ』


『……そういう約束を、いけしゃあしゃあと反故ほごにするやつであろう。お前は』



 その時である。水中から硬い声がひびいた――光る鮭である!



『かいぎゅうとの盟約も、そんな風に真摯な態度でほざいていたな? 俺が立ち会っていたことを、忘れたとは言わせんぞ』



 水中にて白銀に輝きつつ、鮭は厳しい調子で続けた。



『この子はお前とも、かいぎゅうとも違う。ポトリーグに道を開けろ』



 鮭の言葉の最後はどす・・のきいた命令だったが、蛇は何も言わず、身じろぎもしない。


 ただあかい視線だけを海面に揺れる小舟と、その上のポトリーグとに向けていた。



『お前はわたしや、かいぎゅうと何も変わりはしないさ。……なにも知らない今は、まだ・・違うのかもしれんが、ね? じきにわたしと、同等のものになる。だから仲良くしようと言うのだよ、ポトリーグ』


「いや! てめえみたく、でっかくおっかなくなるとか、無理だしよ!? つうか、弱いやつひとりによってたかっていじめるやつらの親玉なんかと、つき合えるわけねえだろ! とっととそこ、どきゃあがれッ」



 実はポトリーグは、焦っていた。


 蛇のあかい視線に、何かが……。身体の中のなにかを絡めとられ、吸い取られているような気がしてならない。あの白蛇のまやかしに、似てもいるが……。もっと強く、もっと深いものだ。けてゆく力に、ポトリーグは必死に抗おうとしていた。




『ふむ。ではこれから、わたしの話をしよう……。それを聞いてくれたら、この湾を通してやろう』


「とっとと話せ、聞き流すからッ」


『……聞くな。真に受けてはいかん。ポトリーグ、あざらし達も』



 光る鮭が言った。しかしその警告の無意味さを、叡智の魚はよく知っている。





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