表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十二踏 ≪かいぎゅう島≫
PR
92/101

92. さらわれた仔かいぎゅう

『ポトリーグくーん!!』


『あざらしさーんっっ』



 海の上に頭を出して、何頭かのかいぎゅう達が呼びかけてきた。


 よく見えないが、声から判別するに案内役だったおじいちゃんかいぎゅう、そしてねねぐいのおばだ。



「どうしたんだっ!?」


『ねねちゃんが! ねねちゃんが、蛇たちにさらわれました――』


「ああああああんだってえええ!?」



 ポトリーグは口を四角く開けて、ぶったまげる。しかし同時に小舟カラハを波打ち際に下ろし、迷わずに海にり出していった。



「ねねっちは、どっちに連れていかれたんだ!!」


『み、みみみ南です』


『若いかいぎゅう達がいま先に立って、みんなで追いかけているのだけれど、……』


「南、だなっっ!?」



 おろおろと慌て惑い、まどろっこしくしかしゃべれないでいるかいぎゅう達の言葉を、ポトリーグは最後まで聞かない。



「行くぞぉ、引っぱってくれうずっち! るるっちは先に潜って、やつらの尻尾をめっけてくれッッ」



 ばしゃっ、ぶしゃっ!!


 あざらし姉弟は、即座に海中へと潜る。


 ポトリーグは思いっきり、白樫のかいを押し出した。


 ぐうん――。風のない、いだ夜の始まり。静かな海をかき分けて、ポトリーグの皮の小舟はぐんぐんと進み始める。


 るるとんの先導、うずの牽引は安定していて頼もしかった。


 勢いをつけて出てきたはいいが、夜の航海にポトリーグは慣れていない。


 けれど、不安とかどうとか言ってる場合じゃねえのだ、と自分に言い聞かせた。



『――行って、どうするんだ! 若僧どもッ』



 だからすぐ近くで怒鳴られた時は、さすがのポトリーグも驚いて、うっかり櫂を落っことしかける。


 ぱしゃーん!! ……びたっっ。


 いきなり、まばゆく光るものが跳んで現れ、ポトリーグの小舟の底に落っこちる。



『あーっ、その声! おしゃけさまじゃないのッ!?』



 ずばッと水面に顔を出したるる波が、前方から叫んでよこす。


 その通り、長かいぎゅうの宮の中にいたあの不思議な鮭が、ポトリーグの舟底でびちびち跳ねているのだ!



「……どうすんだって、決まってんだろおしゃけさま! 鍋で蛇を、どつく・・・んだよッ。ねねっちはまだ赤んぼだろ!? 蛇に食わすわけにいかねぇじゃんかッ」


どつく・・・だあぁ!?』



 跳ねつつ言う鮭は、びかびか白銀に光ってまぶしいほどである。


 と、その時るる波が、硬く緊張した声で言った。



『ポトリーグ、うずちゃん! わたし達、かいぎゅう達の群れを追い抜くわよッ』



 ぼちゃっ! 鮭が海中へ跳ね入った。


 瞬間、小舟の周りが透けるように明るくなる。銀の光に照らされて、かいぎゅう達がずっと深いところを群れなし泳いでいる姿が、ポトリーグにも見えた。


 それはすぐに後ろへ流れて、消える。皮の小舟を引くうず雄のほうが、ずっとずっと速いのだ!


 小舟の脇を泳ぐ鮭もまた、速かった。その光のおかげで、ポトリーグはずっと下の方にある水底までを垣間見ることができる。


 おさかいぎゅうのところで見た、六角形の石柱が、まるで石だたみのように続いていた。


 一行は今、蛇の群れを追って≪海の下の道≫の真上を進んでいるのだ!



『たしかにな。かいぎゅうどもは今、さらわれた娘を追って泳いではいるが……。あいつらは、戦い争いのできん生きものだ。ただついてきているだけに過ぎん』



 海中にいるはずの鮭の声が、なぜかポトリーグの耳には近く聞こえる。



『蛇どもと対峙して、娘を助けられるのはお前だけだ、ポトリーグ。盟約違反の非難糾弾は俺がやるから、ポトリーグはどうにかして娘を取り戻せ』


「……?? うん、わかったけどよ。あんたは何でついてきたんだ、おしゃけさま?」


友達だちの代理に決まっとるだろうが。この世の叡智をあずかる者として、蛇のやつがどうしてふるい盟約を破ったのかも、たださにゃならん。≪知恵の鮭≫の言うことは、聞くもんだぞ』


「はあ……」



 どこかで聞いたような、そうでないような鮭の肩書。とりあえず周囲がほのかに光って手元が明るいのは、非常に助かる。昼の航行と何ら変わらない。


 ふわあん、と夜風がなびいてきた……。



「風、来たーッッ!! うずっち、俺ぁ帆ぉ張るぞーッッ」


『うおーう』



 瞬時、うず雄が水面上に頭を出した。


 しゅぱッと張ったぼろ帆布が、ほたて殻みたいに膨らむ!


 さらに速度を増して、小舟は南を目指す。


 暗い夜の海を見通して先導する姉あざらし、その後を的確に追ってゆくうず雄。その首元に結ばれたきずなが、ポトリーグを導いてゆく。



「神さまイエス様、聖母さまっっ。頼むから、見守っていてくれええええッ」



 真っ暗な海上を、少年の本気の祈り・・が走ってゆく。



「我らがヒベルニアの聖ポドリーグ様にぃ、ブレンダン修道院長ぉぉぉー!! ねねっち助けるのに、俺を間に合わせてくれーッッ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ