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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十二踏 ≪かいぎゅう島≫
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89. ≪海の下の道≫の秘密

『光ってしゃべるしゃけ、だなんて……。おしゃけが好き過ぎて、どうかしちゃったのかしら。わたし』


『のん、るるちゃん。自分にもしゃけ声、聞こえるど』


「そうだ、るるっちが変になったわけじゃねぇ。鮭、光ってるしよ」


『まばゆく輝く、おしゃけ……』


『……まぁるるちゃんは、別の意味でしゃけ過ぎるけど』



 もそもそと言い合うポトリーグとあざらし姉弟をよそに、摩訶不思議なる鮭は銀の身体を水面すれすれに光らせた。ちょいと頭を出しつつ、おさかいぎゅうのそばを泳いでいる。



『良かったな? うまい具合に、かいぎゅう≪海の下の道≫のことから話がずれたぞ。秘密は謎のまま忘れ去られ、記憶の片隅に埋もれる』



 長かいぎゅうに向かって言った鮭の言葉を、しかしポトリーグはちゃんと聞き取っていた。



「そこ、忘れてないって。どういうことなんだ? でもっておしゃけは、長じいちゃんの友達なのか?」


『そうだ、人間の子ポトリーグ。お前は小っさい俺を食わずに、放流しなおした。持続可能な生態資源を見据えて行動できる偉いやつだから、これから話す色々も、ちゃんと受け止められるであろう』


「いや全然わかんねぇし??」



 鮭は何やらポトリーグを、見知ったもののように話しているが……?



『うん。俺たちはな、食い食われてまたぐるぐる世界に戻ってくる、っちゅう話だ。俺もそうだしかいぎゅう達もそう。そしてここいら一帯では、特にそれが顕著なのであーる。六角石柱の敷かれた≪海の下の道≫が、道しるべになっている分な』


「……??」


『まだわからんか。あのな、昨日の日暮れ前。お前は≪しゃけ泉島≫の泉で、鍋に小魚つかまえたろうが? ポトリーグよ』


「うん」


『それ、俺』



 うず、ポトリーグ、るるとん。鮭の話を聞く三者のお目々が、ひじょうに描きやすい点となった。いや、るる波がすぐに元通りにきりっと戻る。



『知らなかったわ……! しゃけって、育つの速いのね? 安心してたべられる……』


『ちがう。俺だけ特別なんだよ。でもあの泉でポトリーグに放してもらえたからこそ、俺は二つの島の間にある地下水路をたどって、ここ≪かいぎゅう島≫へ戻ってこられた。そうして長年の親友である、長かいぎゅうの話を補佐することができている』


『説明するより、ややこしくしてるだけって気がするのんですけど……。それで、蛇とかいぎゅうってどう関係してるのん?』



 のんびりもっさり口調ながら、うず雄がするどく核心の問いを放った。ポトリーグは黙って、うず雄のひげをにぎる。いいぞ、うずっち!


 長かいぎゅうが、ゆっくりとうなづいたらしい。



『うむ。蛇がかいぎゅうを襲わない、ということは知っているね?』


「ああ、水ん中では狩りができないからだろ?」


『……もちろんそれもあるがね、ポトリーグや。≪やって来た者≫どうし、私と蛇の王の間には、盟約があるからなのだよ』


「めいやく??」


『死期をさとった老かいぎゅうは、ひとりで旅に出る。私がその旅路の、道を教えるのだ……。六角石柱の≪海の下の道≫をここから半日、南へたどるように、と』



 静かに言った長かいぎゅうの顔を、ポトリーグとうず雄、るる波は凝視した。



『ちょっと待って……長さま。それじゃ、そのかいぎゅうは……』


『そう。旅路の果てで、蛇の王にのまれる・・・・


「は??」



 ポトリーグの頭は、混乱してきた。



『何それ……。じゃあかいぎゅうは皆、蛇に食われに行くのん??』



 少々取り乱したのは、うず雄も同じらしい。震える声で、長かいぎゅうに聞き返している。



『もちろん、その最期を拒むかいぎゅうも時々いる。家族たちに囲まれ看取られて、海の藻屑もくずに散ってゆくことを望むなら、私はそれを認めている。しかし大方のかいぎゅうは、楽しかった生のしめくくりを未来へのかてとしておさめるために、≪蛇の島≫に向かうんだ』



 蛇たちをべる王は、巨大だった。その巨躯を維持するためには、一年に数頭のかいぎゅうを飲む必要がある。しかし話の通じる者どうし、蛇の王とかいぎゅうの長とはこの取り決めをすることで、お互いを生かす道を選んだのである。


 すなわち、蛇の王とその眷族たちは、≪かいぎゅう島≫のかいぎゅうには一切の手出しをしない。


 生きている間の平穏を保障するから、死ぬときは蛇の王のもとにきて、肉となれ――と言うことなのだ。



『もう……何百の冬と夏とを越えたかな。私たちがやってきて、蛇たちがやってきて、そして≪はじめのかいぎゅう≫が私ひとりとなった時――。蛇の王と私は話し合って、そう決めたんだ』



 静かに長かいぎゅうは語る。しかしポトリーグは、聞き逃さなかった。



――何百・・の冬と夏??



「……長じいちゃん、何歳なんだ?」


『いくつだったかね。鮭や?』


『三百七十五歳だよ』


「……すげッ。かいぎゅうって、めっちゃ長生きなんだな」


『いいや違うよ、ポトリーグや。私たちはおよそ八十の冬を越えたあたりで、寿命を尽かすんだ。……どういうわけなのか、私にだけは一向に、その終わりが見えないと言うだけでね』


『いわゆる不死ってやつだな』


『お前もそうでないのかい、鮭や』


『いや~、俺は生まれるたんびに死んでるんだから、違うって。何回も自分に・・・生まれ変わるってのは、不死じゃないよ』



 巨大な長かいぎゅうと銀の鮭とは、ぽんぽんしゃべり合っている。いかにも仲良し、という感じだ。



『私もそうだし、この鮭やもそう。蛇たちの王も、そう。あの≪氷の海≫を越えてここへやってきたものは、身体を大きくしたり、寿命を永らえたりする。どうしてなのかは賢い鮭やにもわからないが、他の種の生きものとも話すことができるのだよ』


「うえええーっっっ?!」



 これにはさすがに、ポトリーグも驚いた!



「つまり、俺なんじゃねえかよーッ!?」



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