86. 鮭×昆布どうしたってうまい鍋
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かいぎゅう達の前では緊張して、ぴしっと引き締まっていたるる波だったが。
岩棚脇の浜に上がってきた時、姉あざらしはうるうるのつやつやになっていた。
「るるっち……これはぁッッ」
どすん! と口から両手に渡されたものに、ポトリーグはくわッと目を見張る。
「しゃ・けぇーッッッ。鮭でないのかぁぁぁっ」
『そうよポトリーグ。ここは楽園だったんだわ』
びかーっっと、るる波の大きな瞳がポトリーグを見ている……。ああ、その円く黒い宇宙に飲み込まれそうだ! これこそあざらし黒き穴!!
『島の西側に、しゃけがうじゃうじゃ、群れなし泳いでいたのよ!!』
「いっぱい食ったか! るるっち」
『ええ。しあわせ』
るる波の獲ってきた鮭を切りさばいて、ポトリーグは鍋で煮た。おくれて戻ってきたうず雄は、かいぎゅう達と一緒にこんぶを食べたと言う。
『で。これが一番おにく厚で、甘かったやつなのん』
「ほうほうほう」
つるっと持ってきてくれたこんぶの切れ端を、ポトリーグは鮭の身の横につけて一緒に煮てみた。
「ふがーっっ、うめーッッ」
そうして出来上がった寒冷地・南端の鍋は、やっぱりうまかった!
「何をどうしても、鮭うまいなー!」
『わかっているじゃないの、ポトリーグ』
焚き火の脇でしゃりしゃりと野りんごを賞味しつつ、るる波がにやりと笑った。あざらし流のにやりは、ひげが面白く揺れる。
ポトリーグの背後に長ながとのびている、うず雄もあいづちを打った。
『よかったのん、るるちゃん。前の≪しゃけ泉島≫でがっかりした分、取り返せて』
「ほんとね、うずちゃん。でも何だか妙だわ? ≪しゃけ肉島≫にはぜんぜん鮭がいなくって、ここに来たらたくさんいるなんて。前の島の名前が、何というか……。引っかけみたいじゃないの』
「≪しゃけ泉島≫な、るるっち。でも確かに、看板に偽りありー、って感じの名前だったなぁ。あすこんちの島」
『もしかしたら、≪しゃけ泉島≫にも季節によっては、鮭がいっぱい居てるんでないのん? ≪かいぎゅう島≫とそんなに離れてないし、このあたりを群れでぐるぐる泳ぎ回ってるのかもしんないのん』
「あー、それはありかもな! うずっち」
ポトリーグはしゃけ肉をふがほごと頬張りながら、うず雄を振り返りうなづいた。
歯にやわらかくたわむ身、そこから脂たっぷりあふれる……しゃけ汁ッ。
『そうね! そう言えば鮭はたまご産むのに、内陸のほうへ移動するんだって言ってたものね。ポトリーグ』
『実は、引っ越し好きなのかもしれないのん。しゃけ』
『わたしも、この辺に移住しようかしら……』
「まじ顔で言うのな? るるっち……。そうだ、ここんち内陸の方でさっき、べにはしがらすと会って話したんだけどよ」
思い出して、ポトリーグは言う。
『ああ、断崖の方にいっぱい住んでる鳥たちね?』
「うん。で、そのべにはしがらす達もな、じきに引っ越すんだってよ。冬の間だけ、≪アイレー≫に行くんだと」
『えっ、……アイレーへ?』
『自分らの≪ひげあざらし島≫より、ずっと北でないのん……。あんな遠いところへ?』
「らしいぞ。うずっち達は、行ったことないんだよな」
『うん。……でも温いとこだから、寒いのが苦手な生きものにはいいのかも』
この≪かいぎゅう島≫の冬は、いかにも厳しそうだった。言ってる今だって、ポトリーグは焚き火のそばに寄っている。鮭とこんぶを詰め込んだ、満足のたらふくお腹はあたたかいが……。
『ポトリーグ。るるちゃん、うずちゃーん』
その時、海から呼びかける声があった。
暮れかける濃色の海面に、ぽこりと浮かんだ頭が見える。幼いかいぎゅうの女の子、ねね風だ!
「なんだぁ、ねねっち~??」
立ち上がり、ポトリーグは叫び返す。
『おじいちゃんが呼んでるようー。長さま、ポトリーグ達に会うってー』
「おっ!!」
いそいそ、ぺたたた、ポトリーグとあざらし姉弟は波打ち際に寄って行った。
ねね風の他にもおじいちゃんかいぎゅう、おばさんかいぎゅうがそろって数頭、ずばずばと浮き上がってくる。
しかし彼らの頭を見渡して、あれ? とポトリーグは思う。
≪長さま≫と言うからにはむちゃくちゃでっかいか、あるいは壮絶にしわしわなかいぎゅうが来る、と予想していたのだが……。それっぽい老かいぎゅうは、どこにも見当たらない。
『あなた方のことを詳しく話して、長さまも協力するということなんですけどね。――ひとつ問題が見つかってしまった』
おじいちゃんかいぎゅうは眉間と額のしわを深くして、困った様子である。
「えっ?」
『わしらの長さまは、海底のお宮から動かないのですよ。ポトリーグ君、きみ……どうやって会いにゆく……??』
海底のおみや。すなわち海の底、水を通っていかなければならないところ……。
そこに考えがいたるまでの束の間、ポトリーグはきょとーんとかいぎゅう達を見つめていた。




