表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十二踏 ≪かいぎゅう島≫
PR
86/101

86. 鮭×昆布どうしたってうまい鍋

 ・ ・ ・


 かいぎゅう達の前では緊張して、ぴしっと引き締まっていたるるとんだったが。


 岩棚脇の浜に上がってきた時、姉あざらしはうるうるのつやつやになっていた。



「るるっち……これはぁッッ」



 どすん! と口から両手に渡されたものに、ポトリーグはくわッと目を見張る。



「しゃ・けぇーッッッ。鮭でないのかぁぁぁっ」


『そうよポトリーグ。ここは楽園だったんだわ』



 びかーっっと、るる波の大きな瞳がポトリーグを見ている……。ああ、そのまるく黒い宇宙に飲み込まれそうだ! これこそあざらし黒き穴ぶらっくほーる!!



『島の西側に、しゃけがうじゃうじゃ、群れなし泳いでいたのよ!!』


「いっぱい食ったか! るるっち」


『ええ。しあわせ』



 るる波の獲ってきた鮭を切りさばいて、ポトリーグは鍋で煮た。おくれて戻ってきたうずは、かいぎゅう達と一緒にこんぶを食べたと言う。


『で。これが一番おにく厚で、甘かったやつなのん』


「ほうほうほう」



 つるっと持ってきてくれたこんぶの切れ端を、ポトリーグは鮭の身の横につけて一緒に煮てみた。



「ふがーっっ、うめーッッ」



 そうして出来上がった寒冷地・南端の鍋は、やっぱりうまかった!



「何をどうしても、鮭うまいなー!」


『わかっているじゃないの、ポトリーグ』



 焚き火の脇でしゃりしゃりと野りんごを賞味しつつ、るる波がにやりと笑った。あざらし流のにやり・・・は、ひげが面白く揺れる。


 ポトリーグの背後に長ながとのびている、うず雄もあいづちを打った。



『よかったのん、るるちゃん。前の≪しゃけ泉島≫でがっかりした分、取り返せて』


「ほんとね、うずちゃん。でも何だか妙だわ? ≪しゃけ肉島≫にはぜんぜん鮭がいなくって、ここに来たらたくさんいるなんて。前の島の名前が、何というか……。引っかけみたいじゃないの』


「≪しゃけ島≫な、るるっち。でも確かに、看板に偽りありー、って感じの名前だったなぁ。あすこんちの島」


『もしかしたら、≪しゃけ泉島≫にも季節によっては、鮭がいっぱい居てるんでないのん? ≪かいぎゅう島≫とそんなに離れてないし、このあたりを群れでぐるぐる泳ぎ回ってるのかもしんないのん』


「あー、それはありかもな! うずっち」



 ポトリーグはしゃけ肉をふがほごと頬張りながら、うず雄を振り返りうなづいた。


 歯にやわらかくたわむ身、そこから脂たっぷりあふれる……しゃけ汁ッ。



『そうね! そう言えば鮭はたまご産むのに、内陸のほうへ移動するんだって言ってたものね。ポトリーグ』


『実は、引っ越し好きなのかもしれないのん。しゃけ』


『わたしも、この辺に移住しようかしら……』


「まじ顔で言うのな? るるっち……。そうだ、ここんち内陸の方でさっき、べにはしがらすと会って話したんだけどよ」



 思い出して、ポトリーグは言う。



『ああ、断崖の方にいっぱい住んでる鳥たちね?』


「うん。で、そのべにはしがらす達もな、じきに引っ越すんだってよ。冬の間だけ、≪アイレー≫に行くんだと」


『えっ、……アイレーへ?』


『自分らの≪ひげあざらし島≫より、ずっと北でないのん……。あんな遠いところへ?』


「らしいぞ。うずっち達は、行ったことないんだよな」


『うん。……でもぬくいとこだから、寒いのが苦手な生きものにはいいのかも』



 この≪かいぎゅう島≫の冬は、いかにも厳しそうだった。言ってる今だって、ポトリーグは焚き火のそばに寄っている。鮭とこんぶを詰め込んだ、満足のたらふくお腹はあたたかいが……。



『ポトリーグ。るるちゃん、うずちゃーん』



 その時、海から呼びかける声があった。


 暮れかける濃色の海面に、ぽこりと浮かんだ頭が見える。幼いかいぎゅうの女の子、ねねぐいだ!



「なんだぁ、ねねっち~??」



 立ち上がり、ポトリーグは叫び返す。



『おじいちゃんが呼んでるようー。おささま、ポトリーグ達に会うってー』


「おっ!!」



 いそいそ、ぺたたた、ポトリーグとあざらし姉弟は波打ち際に寄って行った。


 ねねぐいの他にもおじいちゃんかいぎゅう、おばさんかいぎゅうがそろって数頭、ずばずばと浮き上がってくる。


 しかし彼らの頭を見渡して、あれ? とポトリーグは思う。


 ≪長さま≫と言うからにはむちゃくちゃでっかいか、あるいは壮絶にしわしわなかいぎゅうが来る、と予想していたのだが……。それっぽい老かいぎゅうは、どこにも見当たらない。



『あなた方のことを詳しく話して、長さまも協力するということなんですけどね。――ひとつ問題が見つかってしまった』



 おじいちゃんかいぎゅうは眉間と額のしわを深くして、困った様子である。



「えっ?」


『わしらの長さまは、海底のお宮から動かないのですよ。ポトリーグ君、きみ……どうやって会いにゆく……??』



 海底のおみや。すなわち海の底、水を通っていかなければならないところ……。


 そこに考えがいたるまでの束の間、ポトリーグはきょとーんとかいぎゅう達を見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ