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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十踏 ≪いす島≫
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76/101

76. ポトリーグ、いす名誉市民になる

「おっちゃん達。これが何なのか、わかるかい?」


『……?』



 金ぴか・かにおじさん達は、飛び出した目をさらにぎゅいぎゅいとくゆらせ、麻紐の先に揺れる三ツ環の細工を見つめる。



『ごく、たま~に。海の底で、似たようなものを見かけるな』


『うむ。在るだけで、いったい何なのかはわからないが』


『……若かにや。もうちょっとそれ、海に近づけておくれ?』


「こうか~?」



 言われるままに、ポトリーグは金細工を海面近くに下げた。金ぴか・かにおじさんの一匹はすぐそばまで寄ってきて、はさみを振り上げる。



『このー、ぐるぐるまるくなっている中心に、点のようなものが見えるであろう?』


「うん」



 はさみで示され、小舟のへりに乗り出したポトリーグも凝視する。



『これと同じ形がな、石の柱の表面にもあるのだ。全部の石と言うわけではないが、まあ……十にひとつくらいの割合で』


「へえー?」


『ごく小さなものだから、我々のように繊細な観察眼をもったおじさんでなければ、こびりつくふじつぼやいそぎんちゃくの間に見落としてしまいがちだ。しかし、同じ形であるとはっきり言える』


『よって、≪いすの首邑≫に属する何かである、と言うことは間違いないだろうな』


『おい。ちょうどそこの石の柱に、しるし・・・がついていたんじゃないか?』


『そうそう、こっちだ』


『おいで若かに、若あざらし達』



 もよもよ泳いでいく金ぴか・かにおじさん達について、ポトリーグはゆっくりかいをこぐ。


 ひときわ大きな石の手前まで小舟カラハを進めると、三匹のかにおじさんは沈んでゆき、その石のまん中あたりで一斉にはさみをひらめかせた。



「あっ、本当だ! ぐるぐる輪っかが……刻まれてらぁ」



 大きさとしては、ポトリーグの手のひらくらいだろうか? 中央に点のようなものがある渦巻き環が、海水を通してポトリーグにも見える。


 ゆっくりもぐって間近に見てきたるるとんとうずも、海面に頭を出してうなづいた。



『細工みたいに三つの環がつながっているわけじゃないけど、ぐるぐる渦巻き方はそっくりね』


『石のあちこちに、あるっぽいのん』



 石柱の表面と金細工に共通するぐるぐる円環は、文字のようには到底見えないが、しるしはしるしだ。


 例えば貴族のもっている紋章のように、家柄だとか領地の所属などを示すものかもしれない。


 金ぴか・かにおじさん達も言ったが、この金細工は≪いすの首邑みやこ≫に属する何か・・なのだろう、とポトリーグは思った。



「……首邑のもんなら、住んでるおっちゃん達の物だってことだろ? 返すよ、これ」



 金細工にどういう意味があるのだか、さっぱりわからない。しかし装飾品としてはとても美しい、とポトリーグは感じていた。


 価値あるものなら、元の持ち主……あるいは元々あった場所へ返すべきなのだろう、と考えてポトリーグはかにおじさん達に言ったのである。


 しかし細工から麻紐を外しかけたポトリーグにむけ、金ぴか・かにおじさん達は一斉にはさみを振った。



『いや、お前が持っていていいぞ。俺たちにとっては、使い道のないものだ』


「えっ。こんなに金ぴかできれいなのに、か?」


『ふふふ。俺たちの自前金ぴか甲羅以上に、うつくしい装飾品などないのだからな。べつに構わんのだよ』


『そうそう。しかし、それをどこで拾ったのだ? 若かによ』


「あー……実は今朝、水くみに東の岬へ行ったんだ。そしたら、かささぎに会ってよー」



 かささぎ、とポトリーグが言った途端。


 金ぴか・かにおじさん達はうぞぞぞぞ、と全ての脚を激しくばたつかせた。



『若かにぃぃぃ! お前、それをかささぎの魔の巣窟から持ち帰ったのかッ』


『俺たちの財産と生命をさらい取る、あの魔物どもの禍々まがまがしきくちばしから、奪い返してきたのかぁぁぁッ』


『何と言うことだ、よし! お前に勇者の称号、および≪いす名誉市民≫の資格を与えようッ。名はあるのか、若かにッ!?』



 かにのおじさん達は、熱っぽく感動して口々に言う。


 あまり熱くなっては、ゆだってしまうかもしれない。危険だ!



「はあ……。ポトリーグつうんだけど。俺」


『『『ポーたん!!!』』』(※)



 金ぴか・かにおじさん三匹は、しょっぱい声をそろえて言った。



『では勇者ポーたんよ。あらためて、その三ツ環の細工をおみやげとして進呈しよう』


『そしてお前の武勇伝を、我々は子ども達に語り継ごう……』


「いや、かささぎおばちゃんは掃除してただけなんだけどよ?」


『お前も俺たち、≪いすの首邑みやこ≫の太陽かに族を忘れないでくれよ……』


「うん。ありがとう、かにのおっちゃん達」



 謎は謎のままだが、これ以上わかることはたぶんない。


 そう思ってポトリーグは三ツ環の金細工を再び首にさげ、毛織り修道衣の内側、麻の肌着との間にしまった。


 はさみを振る金ぴか・かにおじさん達に別れを告げる。


 ポトリーグはうず雄とるる波にはさまれて、石の柱のある場を離れた。


 しかし沖に出る前、ポトリーグは後ろにした≪いす島≫の風景をじいっと見つめる。……




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※現代ゲール語で、かにのことをportán……ぽーたん、と言います。(役に立たない注・作者)



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