75. 金ぴか・かにおじさん、ヤン×ヤン×ヤン
「猛者のおっちゃんに、聞きたいことがあんだよ~!! いないかーぁ?? 金ぴかなかにの、おっちゃーん!」
『はーい』
しょっぱ辛いおじさん声が、ポトリーグの呼びかけに応えた……!
『はい、はーい』
『はいはいは~い』
「あれっ?」
小舟の手前、ぴかぴかと海面近くに浮いてきたかにが……。三匹いる。
「おっちゃん、増えてねえか? 今日」
うず雄とるる波が小舟の両脇で、目をさらに円くしている。
『いよう、若かに。きのう会ったのは俺だ』
『俺はその友達だが、猛者のおじさんという呼びかけに当てはまる設定ゆえ、一緒に浮いてきた』
『俺も同様だ。おじさんが三匹そろえば、叡智が生まれる。お得なおまけと考えておけ。おっと、脇のあざらしどもは連れか? かみつかせるなよ、はさみでしばくぞ』
三匹めの金ぴか・かにおじさんが、すちゃっと鋭く水上にはさみを振る!
『……太陽かにだわ。何て言っているのかしら、うずちゃんッ?』
『全然わかんないのん、るるちゃん。かにだものん』
やはり、金ぴか・かにおじさんの言葉はポトリーグにしかわからない。あざらし姉弟は、もそもそとつぶやき合った。
「うん、噛まねぇし食わねえよ。わざわざ出てきてもらってすまねえんだけど、めちゃくちゃ聞きたいことがあるんだ」
『何だ、なんでも一応きいてみろ』
『わかることなら全力で答えるぞ』
『しかし世の中、わからないことの方が多いな』
めんどう臭がるどころか、三匹の金ぴか・かにおじさん達は頼りにされて嬉しそうである。
「ここの、石の柱がいっぱい立ってるところが、おっちゃん達かにの首邑なんだよな?」
『その通りだ、若かによ』
『うるわしき≪いすの首邑≫だ』
『われわれ太陽かに族、総勢一万匹が平和に暮らしているのだ。名産品は赤のり、うまいぞ』
ひとこと聞くと、答えが三倍返しである。みな、声がしょっぱい。
「この≪いすの首邑≫が、どうやってできたのか知ってるかい?」
『おっ! 俺たちの建都伝説に興味があるのか? 若かには』
『なかなか殊勝なやつじゃないか、アニヤン。本来なら一族以外の者にはひみつ、門外不出の伝説だが……。聞かせてやろうぜ? ドゥヤン』
『そうだな、トリヤン! 相手が真摯なら話し惜しみをしないのだ、俺たちは』
そしておじさん達は海面に金ぴか浮いたまま、≪いすの首邑≫の伝説を三者とりどりに語ったのである。
大昔、この≪いす島≫のまわりの海には何もなく、太陽かに族は原始の海底にてひたすら金ぴかに輝きたゆたうだけの、素朴な暮らしを営んでいた。
ところがある時、すさまじい地響きが長くとどろいて、海の底が激しく揺れ始めたのである。
その揺れは長いこと続いた。かに一族は世界の滅亡が来たのだと悲観する。およそひと回りもの間、揺れとどろきは続いた後にようやくおさまった。
そして太陽かに達がぶったまげたことに、彼らの前にこの石柱の林……。長く広く続く≪いすの首邑≫が出現していたのである!
「うえっ? そいじゃなんだ、この首邑は何の前触れもなく、ここんちに湧いて出たっつうことになんのかよ!?」
『うむ、そうなのだ若かによ。びっくり伝説であろう?』
『しかし本当なのだ。そういう風に、古来から伝わっているのだからな』
『俺たちの祖先はおっかにびっくり、この白亜のみやこへと移り住み、恵まれた治安環境において現在の繁栄を築いたのである』
金ぴか・かにおじさんの解説を聞きつつ、ポトリーグは首をひねりまくった。
ひねりつつ、脇にいるうず雄とるる波にも、金ぴか・かに伝説をかいつまんで伝えた。
『え……? 何なのん、それ。じゃあいきなりこの石が、生え出たってことなのん?』
『そうではない、若あざらし。この石の柱は、生えたわけでものびたわけでもない』
『ただ突然、ここへ現れ出たのだ』
ポトリーグ通訳により、金ぴか・かにおじさん達はうず雄に向かって、しかにつめらしく答えた。
ダルリアダ王国領の島で見た石の環同様、ポトリーグはこの石の柱が人間によって作られたものだ、と考えている。
しかし、かに達とその祖先は、人間そのものを見たことがないと言う。
海の中にわざわざこんなに大きな石を持ちこんだ人間がいるのなら、そこにいる生きもの達の注意をひいて当然だと思うのだが……?
『ねえ、ちょっとポトリーグ。今朝拾ったって言う不思議な細工、かに達にあれを見てもらったら? 何か知っているかもしれないわよ、このおじさん達なら』
「おう、そうだった」
るる波に言われて、ポトリーグは修道衣の下から例の金細工を引っぱり出した。
麻紐につるしたまま、海面近くに浮く金ぴか・かにおじさん達にむけてかかげてみる。
「おっちゃん達。これが何なのか、わかるかい?」
『……?』




