74. 旧く巨大な石たちの話
ブレンダン修道院長ひきいる一団とともに、見習いなべ番ポトリーグが、ダルリアダ王国領を通過していた時だ。
ヒベルニア島とプリタニア島の間を、ぐっと北に行ったところ。そこもちょうど≪黒き島々≫のように、数多くの島々が連なり集まる海域だった。
知己のいる島々にブレンダン修道院長は次々と寄っていったが、聖泉のあるイオナという小さな島のあと、北上してずっと大きな島に停泊する。
修道士たちの一行はそこの住民に、野にそびえる≪石環≫のことを教えられた。ポトリーグの脳裏によみがえったのは、その石たちの姿なのである。
――あの≪リュウアス島≫で見たでっかい石は、輪っかの形に並んでたけど。何つうかこう立ち方が、ここんち海中の石の林に……似てる。よな??
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物見遊山の感覚まるだしで、何人かの若い修道士たちが見に行くことにした。ポトリーグもおいでと言われ、くっついていった。
そうしてたどり着いた曠野の中の、石の環の前……。
巨大な石を見上げてほげーとたまげながらも、遠足気分のポトリーグは、修道士の兄さん達とくっちゃべっていた。
≪俺が前いた村の近くにもー。小っさいけど、似たようなんがあったんすよ≫
ポトリーグはぺらぺらと、幼いころの風景をくらべて語った。
故郷にあったのはずっと小さい規模だったが、それでも大人の腕でふた抱え以上もあるような、ずんぐり大きな石たち。それが十数個も円く寄り集まって、まるで仲良く話し合いをしているように見えたものだ。
石の環は、昔ヒベルニアの地にいた旧い神々、あるいは不思議な力を持った小さな人びとの住まいなのだ、と伝えられていた。夕暮れを過ぎてから行ったり、そこで寝ちゃいけません、とポトリーグは大人に言い聞かされたものだ。さらわれて、丘の向こうに連れて行かれてしまうんだからね、と。
≪それの、親玉みてえな感じだなー。ここは≫
感心するポトリーグの横で、修道士の兄さん達も、うんうんとうなづいていた。
≪僕もアルモリカの南で、前に見たことがあるよ。それは円くなくって、ずらーっと何本も列になっていたのだけど≫
≪あ、君も? 私も見ましたよ、えーと……どこだったっけかな。そうだ、アウグストネメトゥムの近くで≫
≪割とどこにでも、あるものなのかねぇ。にしても不思議だね、誰が何のために、こんな重いものを持ってきて立てたのだか……≫
いや、そら小さき人びと……。昔の神さまたちのやることなんじゃないすか、とポトリーグは真面目に問い返したのである。
修道士の兄さん達は、苦笑した。
≪これを作ったのは、大昔の人びとなのだよ。ポトリーグや≫
≪え? でもこんなでっかくて重い石、人間わざじゃとても無理っすよ。持ち上がんねぇし≫
≪一見、そう思ってしまうけどね。昔の人びとと言うのは、私たちの知らない叡智の技術を持っていたんだ≫
≪たくさんの丸太を並べて、大きなそりを使って、牛馬に引かせて……。人手と手間はかかったろうけど、皆で力をあわせて、やり遂げたのだな。時間をかけて≫
修道士たちの言葉の端々には、太古の時代への尊敬がまじっていた。
≪けれど、ポトリーグの言うことも、あながち間違っちゃいないと僕は思うよ。古の人びとがあがめて心の拠り所にしていたのは、そういう昔の神々だったのだし≫
≪そうですね。我々の父なる神とその子イエスの前に、この地で人々を支えていた存在ですよ≫
≪ふうむ。それじゃこの巨大な石の数々というのは。そういう異教の神々に祈るための、特別な場所だったのかもしれないなあ?≫
≪どっちみち、大切にされてきた場所だったのでしょう。まちがっても、ここでお粗相をしてはいけませんね≫
ふうーん、とポトリーグは聞いていた……。
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その時の記憶が今、舟の上のポトリーグの頭の中にはっきりとよみがえったのである。
――これを作ったのは、大昔の人びと……。
「るるっち、うずっち。これはやっぱし、人間の作ったもんだ。俺がわけわかんねえくらい、大昔だと思うけど……。ここんちには、人間が住んでたんだよ」
『えっ……?』
るる波がびっくりしてひげを振り、ぱしゃっと水しぶきを上げる。
しかし……。ポトリーグは海中の石を見つつ、櫂を握りしめた。
――ここには大昔、人がいた。じゃあ、確かにいたはずのその人らは、どこへ行っちまったのだろう?
たった一人で≪氷の海≫を渡ってきたマラキと違い、ここには多くの人びとがいたはずだ。
家ひとつ建てるのだっておおごとなのに、こんなに大きな石を海中に立てるなんて骨折り工事を、ひとにぎりの人間だけで行えるわけはないと思う。そう、相当数の人間が確かにいたに違いない。
村か……町か。そう、大きな町があって、人がたくさん住んでいたはず、なのだ。
――町……大きなまち、……首邑? あ!!
「おっちゃーん。金ぴかなかにの、おっちゃーん!! いるかーい」
ポトリーグは叫んで、呼びかけてみた。
この≪いす島≫にいる間、聞きたいことがあったら声をかけな、と言ってたではないか。
まさに知りたい謎に出くわしたポトリーグは、言われたまんまに金ぴか・かにおじさんを呼んでみる!
「猛者のおっちゃんに、聞きたいことがあんだよ~!! いないかーぁ??」




