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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十踏 ≪いす島≫
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73/101

73. 驚異! 海中の巨大列石群

 ・ ・ ・


 引っくり返した小舟カラハの夜営地に戻ったポトリーグは、火を起こしてはしばみの実を噛む。


 やがて魚を持って帰ってきたうずとるるとんに、ポトリーグは不思議な三ツ環の金細工を見せた。



『かささぎ鳥が浜辺で拾ったということは、つまり海の中にあったものが出てきた……と言うことでしょう?』


「そうだな、るるっち。ここんち人間は住んでないって、かささぎおばちゃんが言ってたから。別んとこにいた人間が海に落っことして、それが流れ着いたんかもなぁ」



 小ぶりのたらの身は、つるりととろけるような歯ざわりだった。それを噛んで飲み込む合間に、ポトリーグはあざらし姉弟に話す。話しながら、考えてゆく。



「けどよう。これ、それこそ昨日のかにのおっちゃんみたいにつるぴかしてるし、はげ落ちとか錆び付きが全然ないだろ。金なのか何だかわっかんねぇけど、海ん中に長いこと浸かってたら、傷んじまうはずなんだ。だから、最近おっこちたのかもしんねぇなあ」



 実は潮風に当たり続ける鉄鍋に関して、ポトリーグは同じことを心配しているのだが……。まぁそれは脇に置いておくしかない。万物、傷むときは傷む。



『……マラキの持ち物だった、ってことは考えらんないのん?』



 うず雄がもっさりと言った。



「うーん。あの人は、何十年も前に生きてた人だからなー。本人があんだけほねほね・・・・になっちまってんだし、金細工を持ってたらそれこそ錆びさびのぼろぼろになってるはずだ。マラキのじゃねえと思うぞ」


『そうかー。ああ、ほんじゃそれこそ、かにの首邑みやこのおじさんに聞いてみたらどうなのん』


「へ?」


『出発する前に、例の石がいっぱいあるとこで呼んだら来るかもよ? あの辺に住んでるのんでしょ』


「おおう、そうか」


『そうそう! わたしもさっき、うずちゃんと一緒にひと泳ぎして見てきたけど。かなり見ものよ、ポトリーグ』



 三ツ環の金細工は、一方の端に長細い穴があいている。でかめの縫い針の穴みたいなそこへ、手首に巻いていた麻ひもを通して結び、ポトリーグは首に引っかけた。これでなくさない。



 ・ ・ ・



 浜から小舟カラハを押し出す頃には、空は澄み上がって微風が出てきていた。


 雲はうすくたなびいているが、それがすらすら流れていくのである。


 今日もいい感じに走れそうだなー、とポトリーグは思う。



『ポトリーグ。こっちー』



 いつも通り、うず雄は小舟の舳先へさきにつないだ綱の端に頭をくぐらせている。そのうず雄が先導して、一行は東の岬へとまわりこんだ。ぐるうり。


 かいを扱いながら、ポトリーグは≪いす島≫の海岸線を眺める。



「あー。昨日とけさと、水くんだあたりだ。あの、もこっとしたいちいの樹に、かささぎ達が住んでんだよ」


『その下は、ゆるめの崖になっているわね』



 岩棚が途切れたところは、確かにごつごつした断崖になっている。海につながる下部分は、石ころ浜のようだ。


 今はちょうど、引き潮になっている。満潮であればそこの部分は水に覆われ、崖の下部分まで海に洗われるのだろう。



『そこだよう。石のはじまり』



 うず雄に言われて、ポトリーグは海中に注意をむける。



「……え??」



 深緑色の水が、急に明るいみどりへと転じる。


 透け通るその水中に、白っぽく突き出たものを見て、ポトリーグはぎょっとした。



『石にぶっつかんないよう。るるちゃん、ポトリーグの舟をはさんで泳ぐのん』


『そうね! 気をつけていきましょう』



 突如として風がやみ、とろんと空気が淀んだように思えるのは、気のせいなのか。



――なんだあ……? これ!!



 左側にうず雄、右側にるる波とくっついて、皮の小舟はそろそろと進んだ。


 うず雄が言ったように、なるほど水深はかなり浅い。


 静かに揺らぐ水の中で、白い石たちが佇んでいる……その根元が見える。



「いったい、何基あるってんだ」



 進むうち、ポトリーグは茫然としていった。石はひとつ越えればもう一つ、別のがあらわれる。


 海の下にいるものだから、見渡すということはできない。しかしゆっくりと進むポトリーグは、すぐに三十を数えた。



「つうか、よう……これ。きっちり二列、等間隔・・・で並んでんじゃんか。自然にこうなるってこたぁ、ねえぞ」


『とうかんかく?』


「石と石の間が、ぜーんぶ同じ幅であいてんだよ、るるっち。しかも並び方がまっすぐだろ」


『あー、ほんと。水平線みたいに、一直線なのん』



 ポトリーグが言うまで、気づかなかったらしい。うず雄がぐるっと目をむいた。



『なんでそうなるのん?』


「いや、知らねえし」



 ポトリーグはふたりに頼んで、石の並び方を確かめてもらった。



『……こっち側にも、もう一列ならんでいるわね』



 ポトリーグの小舟のそばに、ぬうと頭を出してるる波が言う。


 海の底から突き出ている部分だけでも、ポトリーグの背丈をゆうに超えている白い石。形はさまざま異なるが、長細いのは共通している。ずん胴の柱みたいだ。


 そんなのが三列分、ずらずらどこまでも等間隔で並んでいる……海中に。



『の~~ん』



 うず雄の声が遠くから聞こえて、ポトリーグとるる波は顔を上げる。うず雄の頭が、ずっと向こうの波間にぽつんと見えた。



『うずちゃん、石の列の端っこを見つけたんだわ。西側、あんなところまで三列の石が続いているのね』


「……一里はあるぞ??」



 ポトリーグには、わけがわからなかった。


 ますますいで、透き通るみどり色の明るい海水中。そこに立ち尽くす、無数の白い石柱の林。


 それはきれいだ、とも思えたが……とにもかくにも謎だ。


 どうしてこんなもの……。明らかにつくられた・・・・・ものが、こんなところに?



『ポトリーグ。人間て、こうゆうの作るのん?』



 小舟のすぐ近くまで、泳ぎ戻ってきたうず雄が問いかける。



「いや。作んねーよ、……」



 言いかけて、はたとポトリーグは思いとどまった。


 ブレンダン修道院長ひきいる一団とともに、ダルリアダ王国領を通過していた時のことを、思い出す。……


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