表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十踏 ≪いす島≫
PR
72/101

72. かささぎのお掃除

 ・ ・ ・ ・ ・


 金ぴか・かにおじさんが言ったように、翌朝は冷えついた。


 風はさほど強く吹きつけなかったものの、夜を通してこまやかな雨が長く降り続けたらしい。湿った空気が重くたちこめる中、ポトリーグは水を探しに再び東の岬へ歩いてゆく。



「ううー。つめてえ」



 寒さに強い(と、自分では思っている)ポトリーグだが、踏み分けてゆく草のせいで、革ぞうりの足もとがびっしょりになってしまった。


 それでも、東から差し込んでくる曙光は金色に明るい。


 泉で鉄鍋に水をすくい汲んでいると、ききき……とかたい鳴き声が聞こえた。



「はよっす!」



 ポトリーグは声をかけてみた。赤い実の季節はもう過ぎて、深緑の葉のしげるいちい・・・の樹々がある。


 上の方から聞こえてきたのは、まさしくかささぎの鳴き声だった。そのあたりに、巣があるのだろう。



『……おはよう。誰、あんた?』



 いかにも生活に疲れた感じの、女性の声が応える。



「通りすがりの、人間っすー。雨きつかったっすねー」


『にんげん~~??』



 声をたどって、はっきり判別できた。いちいのてっぺんから、ちょっと下にある枝。細かい葉に埋もれるように作ってある巣の中に、白黒羽毛のかささぎがいて、顔をこちらに向けている。



『一族のもんには、まるっきり見えないが……。なんで言葉がわかるんだえ?』


「うん。俺にもわかんねぇんだな、それが」


『……新手の蛇かえ? たまごか、ひなでも取りに来たんならおあいにく様だ。うちの子はこないだ巣立っちまって、島の北側へ独立したよ』



 かささぎのおばちゃんは、黒い頭を振りふり疲れた声でそう言った。


 空の巣症候群なのであろうか。



「いや、俺そうゆうの食わねぇし。ここんち最近、蛇が来たか?」


『春先に、こまっかいのがざあと来たよ。産み始めのたまごをいくつも飲まれちまったけど、めげずに産みまくったさ』



 かささぎと浜千鳥、かつおどりと鳥ばかりのここ東の岬に、大型の蛇はあまり来ないようだった。


 より大きなものは、山羊や野うさぎといったけものの住むところを狙って攻めてゆくのだろう。先日の蛇一味も、ここを通らず逃げたのか。



『その子どもらも、無事に育って出てっちまったし。あたしゃこれから、巣のそうじするつもりでいるのさぁー』



 見知らぬ生物が害をなさぬとわかり、ポトリーグ相手に話しているうちに、かささぎのおばちゃんは少しずつ気分を揚げたようだ。


 巣の中に立ち直ると、ぷんぷん、ぽい、と細い脚を蹴り上げるようにしている。



『まずは、持ち物の分別からー。思い入れのないものは、どんどん捨てよう』



 とさッ!


 いちいの枝をすり抜けて、根元に落ちたものが金に光った。



「おばちゃん。何か光るの落っことしたぞ、いいのか?」


『いいの、いいの』



 ひょっとして、金ぴか・かにおじさんの仲間ではないのか。だったら救出しとかねばと思い、ポトリーグはいちいの根元をのぞきこんでみる。



「……あれ?」



 しかし、草の中にまぎれ込んだそれは……かにではない。


 右手に拾い上げて、ポトリーグはどきりとした。


 それは本当に小さな、ポトリーグの親指くらいの細工ものだった。


 ぐるぐると渦巻いた円が三つ繋がり合って、ようじのような棒の先にくっついている。


 鈍く金色に光るそれは、どこからどう見ても人間のつくり出したものだ!



「おばちゃん! これ、一体どこでめっけたんだっ?」



 一挙に緊張して、ポトリーグは樹の上のかささぎに問うた。


 しかしかささぎは、ポトリーグが手に掲げる細工ものを見て、ふッと鼻息をつく。



『ああ、それ~? うちの旦那が、浜に打ち上げられてたのを拾ったの。喧嘩した次の日にもらったんだけど、全ッ然あたしの趣味でないから、むしろ見てていらいらすんのよ』



 思い入れがないどころか、嫌な記憶満載のようだ。捨ててしかるべし。



「これ作ったの、人間だと思うんだ。俺みたいなのが、この辺に住んでないか?」


『えー、知らないねえ。知っていたら、あんたを見てもさっきみたいにびびりはしなかったよ』



 それも道理である。


 かささぎおばさんは人間を全く知らなかったが、捨てた細工に似たものを海岸で見かけたことが何度かある、と言った。



「これ、俺がもらっていいか?」


『もちろんいいよ。あたしはいらないんだから』



 整理整頓おそうじを続けるかささぎに別れを告げて、ポトリーグは夜営地へ戻る。


 途中、歩きながら手中の細工をしげしげと見た。



――何だろ、これ?



 故郷ヒベルニアの人びとが一枚外套を身体に巻き付ける時、肩口や胸元をおさえるのに使う、留め針というのがあったが……。



――うーん。留め針とも、留め具フィブラとも違う。そもそもの針がついてねえんだもん。



 三つの渦巻き円環と反対側の端、細い棒の先は細長い穴になっている。大おば達が使っていた、女性の髪かんざしにも見えなかった。


 わからない。……わからないけれど、これはマラキの骨と同様、ここにいた先人が残したものに違いない。そう考えて、ポトリーグは緊張していた。



――ここんち≪いす島≫に、いったい誰がいたっつうんだ……?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ