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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第十踏 ≪いす島≫
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70/101

70. 金ぴか・かにおじさん、かささぎとの戦いを語る

 塩からいおじさん声の持ち主。それは金ぴかに輝く、大きなかにであった!


 どきゅーん!! とポトリーグの胸は震えた。


 今回ばかりは食欲でなく、かにの美しさに心打たれて、思わず息が詰まりそうになったのである。


 小さなつのつの突起が出っ張った甲羅、軽やかに長い脚、その先の丸みを帯びたはさみ。


 確かに動いてはいるのだが、生き物というよりも、すばらしく精巧なつくりものみたいに見える。


 ポトリーグはシャナキールの修道院で、礼拝堂に安置されている聖母さまの像を拝んでいた。やさしい顔の聖なる母は、小さな頭に小さな冠をのせていたが、目の前のかにはその金ぴか冠細工に通じるものがある。


 すんげぇ、とポトリーグはひたすら審美の感嘆を胸に吐いていた。



「きれいだなぁ! あんた」


『……それも、独特のねた・・なの? ああもう、最近の若いかにには、どう反応したらいいんだか』



 上に突き出た目玉をくるくる動かしながら、美しすぎるかにおじさんは困惑まるだしで言った。



「あー、ええと。海の水でなくって、真水が近くにねえかなって思ったんだけど……」



 かにじゃ内陸の事情はわかんねえよなー、とポトリーグはどうにか気を取り直して言う。



『ああ、そうゆう意味ね。なら東の岬へ回り込んでみな。泉とかゆうしょっぱくない水が、いくつか湧いとるよ』



 言ってる本かには塩から声だが、途端に金ぴか・かにおじさんは納得したようだ。



『ただし、命の保障はできないところだ! 心して行くんだな』


「ひッ、何それ? やばいことがあんのか、そこッ」



 いきなりきりっと引き締まった調子で言う金ぴか・かにおじさんに、ポトリーグは動揺して聞き返す。


 泉がやばいのだとしたら……。まさか、井戸のある≪池島≫級の怪奇の島に、またもや上陸してしまったのだろうかッ。不吉!!



『ああ……。俺の言葉を理解するということは、お前もよそから来たかにの一種なのだろう。だいぶんでかいが、同種のよしみで教えておく。そばに寄れッ』



 ぶんぶん、金ぴかのはさみを振って、かにおじさんはポトリーグに言う。



「いや、かにと違って人間すけど……。でも何~~??」



 素直にしゃがみ込み、顔を寄せたポトリーグに、かにはさささと横歩きして近寄ってきた。



『そこにはな……。かささぎが、住んでいやがるのだッ』



 ≪かささぎ≫と言った時、金ぴか・かにおじさんは特に力を込めた。


 小さな目玉から、しゅばッと白い集中線が背景の薄闇に浮くッ!!



『やつらは、俺たちかに一族の宿敵にして天敵だ。いきなり中空から襲いかかり、そのおぞましいかぎ爪に引っかけられて、我々はさらわれる。悪の巣窟たるきゃつらの巣に、放り込まれてしまうのだ!』



 金ぴか・かにおじさんはしょっぱ辛い声を低くして、ポトリーグに囁く。実に劇的な演出をきかせた語りなのだが……!



「うん……。そうだな、かささぎって……。そういうもんだよな?」



 きらきら光るものを巣に収集する、白黒の鳥の特性そのものだ。



『おっ、知っていたのか、若かによ。とにかく我々はそうして、さらいさらわれる悲壮なる運命にある。かく言う俺も、過去にもう四回さらわれた。ついばもうとしてくるくちばしをはさみでぶっ叩き、敵が怯んだすきをみて脱出したのだ。そうして逃げ帰る途中で色々なものを見たから、その辺の地形や風景を知っていると言うわけだ』


「あ~、なるほど。すげえ、おっちゃんは猛者もさなんじゃねえか!」


『……よしな』



 元々横向きであった金ぴか・かにおじさんは、さらに横向き目玉をかしげた。


 たぶん、かになりに渋く笑っているのであろう! 照れている!!



『……まあ、俺たちかに一族は、そうしてかささぎどもと幾世代にもわたって、仁義なき戦いを繰り広げているのだ。お前は身体が大きいから、かささぎも簡単にはさらえないと思うが……。気をつけて行けよ』



 金ぴか・かにおじさんは、あくまで真面目である。


 人に……特に年長者に話をあわせる方法を知っているポトリーグも、まじめに答えた。



「うん、気をつけるよ。教えてくれてどうもありがとう、かにのおっちゃん」


『では俺は、空が荒れてくる前にみやこへ戻るとしよう。お前はこの≪いす島≫へ棲みつくのか? 若かによ』



 金ぴか・かにおじさんの言い方に、ポトリーグは首をかしげた。



「俺は故郷くにへ帰るとこなんだ、ちょっと寄っただけ。≪いす島≫っつうの? ここんち」


『ああ、そうだ。まぁいる間、俺になにか聞きたいことがあったら声をかけな。じゃあな、若かに』



 しゃしゃしゃ……。


 岩の隙間にもぐりこむと、金ぴか・かにおじさんは見えなくなった。


 そこのすきまの先が、たぶん海水へとつながっているのだろう。



「……見かけと中身が違いすぎ、つうか。面白いおっちゃんだったな」



 ポトリーグはつぶやきつつ、立ち上がる。役に立つことを教えてもらった。


 空の鉄鍋の持ち手に細縄を通して肩にさげ、とねりこカモーンを持って、東の岬をふり仰ぐ。



「さっさと行って、水くんで来よっと!」

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