70. 金ぴか・かにおじさん、かささぎとの戦いを語る
塩からいおじさん声の持ち主。それは金ぴかに輝く、大きなかにであった!
どきゅーん!! とポトリーグの胸は震えた。
今回ばかりは食欲でなく、かにの美しさに心打たれて、思わず息が詰まりそうになったのである。
小さなつのつの突起が出っ張った甲羅、軽やかに長い脚、その先の丸みを帯びたはさみ。
確かに動いてはいるのだが、生き物というよりも、すばらしく精巧なつくりものみたいに見える。
ポトリーグはシャナキールの修道院で、礼拝堂に安置されている聖母さまの像を拝んでいた。やさしい顔の聖なる母は、小さな頭に小さな冠をのせていたが、目の前のかにはその金ぴか冠細工に通じるものがある。
すんげぇ、とポトリーグはひたすら審美の感嘆を胸に吐いていた。
「きれいだなぁ! あんた」
『……それも、独特のねたなの? ああもう、最近の若いかにには、どう反応したらいいんだか』
上に突き出た目玉をくるくる動かしながら、美しすぎるかにおじさんは困惑まるだしで言った。
「あー、ええと。海の水でなくって、真水が近くにねえかなって思ったんだけど……」
かにじゃ内陸の事情はわかんねえよなー、とポトリーグはどうにか気を取り直して言う。
『ああ、そうゆう意味ね。なら東の岬へ回り込んでみな。泉とかゆう塩っぱくない水が、いくつか湧いとるよ』
言ってる本人は塩から声だが、途端に金ぴか・かにおじさんは納得したようだ。
『ただし、命の保障はできないところだ! 心して行くんだな』
「ひッ、何それ? やばいことがあんのか、そこッ」
いきなりきりっと引き締まった調子で言う金ぴか・かにおじさんに、ポトリーグは動揺して聞き返す。
泉がやばいのだとしたら……。まさか、井戸のある≪池島≫級の怪奇の島に、またもや上陸してしまったのだろうかッ。不吉!!
『ああ……。俺の言葉を理解するということは、お前もよそから来たかにの一種なのだろう。だいぶんでかいが、同種のよしみで教えておく。そばに寄れッ』
ぶんぶん、金ぴかのはさみを振って、かにおじさんはポトリーグに言う。
「いや、かにと違って人間すけど……。でも何~~??」
素直にしゃがみ込み、顔を寄せたポトリーグに、かにはさささと横歩きして近寄ってきた。
『そこにはな……。かささぎが、住んでいやがるのだッ』
≪かささぎ≫と言った時、金ぴか・かにおじさんは特に力を込めた。
小さな目玉から、しゅばッと白い集中線が背景の薄闇に浮くッ!!
『やつらは、俺たちかに一族の宿敵にして天敵だ。いきなり中空から襲いかかり、そのおぞましいかぎ爪に引っかけられて、我々はさらわれる。悪の巣窟たるきゃつらの巣に、放り込まれてしまうのだ!』
金ぴか・かにおじさんはしょっぱ辛い声を低くして、ポトリーグに囁く。実に劇的な演出をきかせた語りなのだが……!
「うん……。そうだな、かささぎって……。そういうもんだよな?」
きらきら光るものを巣に収集する、白黒の鳥の特性そのものだ。
『おっ、知っていたのか、若かによ。とにかく我々はそうして、さらいさらわれる悲壮なる運命にある。かく言う俺も、過去にもう四回さらわれた。ついばもうとしてくるくちばしをはさみでぶっ叩き、敵が怯んだすきをみて脱出したのだ。そうして逃げ帰る途中で色々なものを見たから、その辺の地形や風景を知っていると言うわけだ』
「あ~、なるほど。すげえ、おっちゃんは猛者なんじゃねえか!」
『……よしな』
元々横向きであった金ぴか・かにおじさんは、さらに横向き目玉をかしげた。
たぶん、かになりに渋く笑っているのであろう! 照れている!!
『……まあ、俺たちかに一族は、そうしてかささぎどもと幾世代にもわたって、仁義なき戦いを繰り広げているのだ。お前は身体が大きいから、かささぎも簡単にはさらえないと思うが……。気をつけて行けよ』
金ぴか・かにおじさんは、あくまで真面目である。
人に……特に年長者に話をあわせる方法を知っているポトリーグも、まじめに答えた。
「うん、気をつけるよ。教えてくれてどうもありがとう、かにのおっちゃん」
『では俺は、空が荒れてくる前にみやこへ戻るとしよう。お前はこの≪いす島≫へ棲みつくのか? 若かによ』
金ぴか・かにおじさんの言い方に、ポトリーグは首をかしげた。
「俺は故郷へ帰るとこなんだ、ちょっと寄っただけ。≪いす島≫っつうの? ここんち」
『ああ、そうだ。まぁいる間、俺になにか聞きたいことがあったら声をかけな。じゃあな、若かに』
しゃしゃしゃ……。
岩の隙間にもぐりこむと、金ぴか・かにおじさんは見えなくなった。
そこのすきまの先が、たぶん海水へとつながっているのだろう。
「……見かけと中身が違いすぎ、つうか。面白いおっちゃんだったな」
ポトリーグはつぶやきつつ、立ち上がる。役に立つことを教えてもらった。
空の鉄鍋の持ち手に細縄を通して肩にさげ、とねりこ杖を持って、東の岬をふり仰ぐ。
「さっさと行って、水くんで来よっと!」




