68. 白蛇の疑惑
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涙もひいて、ようやく落ち着いたころ。
白蛇が残していったものを、ポトリーグは調べてみる。
「なんだこりゃ。やどりぎと……蔦か何かをぐるぐるにからめて、葉っぱの管服を着てやがったのか!」
巧妙につくられた深緑の脱け殻をつまみ上げて、ポトリーグとあざらし姉弟はある意味感心した。いい仕事してる!?
『こんなものを器用に作って、変装するだなんて。砂地に擬態する、かれいみたいね!? なんて恐ろしいやつらなのかしら』
ふんふん、るる波は鼻息あらく憤慨している。
『しかも、優しい甘言でポトリーグを仲間うちに引き込もうとしてた、ですって? 手下たちにわたしとうずちゃんをかく乱させておいて、自分は本命落とし工作……。とんでもなく頭のまわる蛇だわッ』
『もしかして。蛇どもの頭だったのんかも』
「いや、自分ちの≪王さま≫のことを、どうのこうの言ってたし。中くらいに偉いやつだったんじゃねえのかなぁ」
『ふん。ろくなものじゃないわ、あんなあざとい女の上司ってことでしょう。ポトリーグ、これからは知らない生きものの悪口なんか、真に受けちゃだめよ!』
「うん。つうかるるっちとうずっちが、俺のこと置いてくとかって、そもそもありえねえよなあ」
『そうそう。自分らは、ポトリーグと一緒』
のんびり相槌を打つうず雄にうなづいてから、ポトリーグはやどりぎのへび殻を、ぽーいと海にむけて放った。
気を取り直して、一行は今日も南にむけて出発する。
「やれやれ。島じたいは、接岸しやすくていいとこだったけど……。蛇のせいで、けちがついちまったなぁー」
ざぶーん!
沖に出て、柳枝に張った帆を操りつつ、ポトリーグはぼやいた。
「風つよくって、よく寝れんかったしよう」
『……あのさあ。ポトリーグに、るるちゃん』
先頭をゆくうず雄が、くるりと頭をこちらに向けた。
『なあに、うずちゃん? 深刻そうに』
『うん。とりこし苦労とかだと、いいのん。でも蛇たちに、待ち伏せされてたのんかもん、って思っちゃって……』
「はあ!?」
強風を利用して蛇特有の気配を消し、あの白蛇の一味はポトリーグたちをかなり長い間つけ狙っていたのでは。
たまたま出くわしたと言うより、綿密に準備をして、ポトリーグだけを仲間に引き入れようとしていたのではないか。
そういう危惧を、うず雄は珍しくはっきりと主張した。
『自分ら、……と言うかポトリーグが、蛇どもに目をつけられてて。こう~……何て言うのん……』
『監視されているかもしれない、と言うの? うずちゃん』
『そう』
どうやって。そして一体、何のために? 聞きつつポトリーグは、首をかしげる。
そしてるる波は、うず雄の不安を否定しなかった。
『そんなまさかと言いたいけど、残念ながらありえるわね。あんなに頭のいいところを見せつけられたし、蛇に関しては何でもありだと思う』
「るるっち。見られてるんか、俺ら? 海ん中から?」
薄気味わるさが、背中をそわーっと伝った。ポトリーグは、小舟の脇を泳ぐ姉あざらしに問うてみる。
『むやみに怖がることはないわ、ポトリーグ。でもこの先は今まで以上に、ひげとおにくを引き締めていきましょう』
『……気をひきしめるんでないのん、るるちゃん?』
『まあ用心して進もう、ということよ。何と言っても、蛇どものねぐらの島に近づいているのだしね』
「それもそうだ」
『さあ。じゃあ元気を出して、行きましょう……。お日さまもようやく、出てきたことだし!』
ちゃぷん、と音をたててるる波は海中にもぐった。ちゃぷぷん、うず雄もそれに倣う。
ポトリーグは振り返り、背後に遠くなる二つのこぶだった島影を見やってから、南をきっとにらんだ。
「うずっち・るるっちと行く、俺の航海譚。第九踏、≪やどりぎ島≫!! 完了ッ」
こうしてポトリーグの黒い皮の小舟は、幻惑の島をあとにした――。




