67. 怒りのるる姉ちゃん、トルネード炸裂
「あんちくしょう。何をたくらんでやがるんだ、蛇のやつら……!?」
とすっ、ぶーんッッ!
ポトリーグが放った次の石の一撃が、ぱっと蛇の群れを散らした。
『……でもあいつら、陸に上がってこないわね!?』
「こっちに来たら、鍋おみまいしてやるっ」
ポトリーグが息巻いた、その時である!
『はっっ』
うず雄の頭が、不意にポトリーグの横腹をぐいいと押した。
『――わたしの弟たちにッッ』
つんざくように、るる波が咆える!!
『触るんじゃぁ、ないわよーッッッ』
べたべたべたあーッッッ……とものすごい速さで這って行ったるる波が、ぐるうんっ! 勢いよく一回転した!
ぶちッ。
何かのはじけ飛ぶ音!? るる波の強烈すぎる下半身ひねり、あざらしおにく打撃にぶつかったものは、ぱたっと宙をひるがえって地に落ちた。
「あ……あれぇっっ!? なが虫の姉ちゃん……」
『ポトリーグ、寄ったらだめ! そいつ、蛇!!』
うず雄が、ずどーんと身体をはってかばう。その後ろで、ポトリーグは目を丸くひんむいた。
『しゅーっっって、言ってるのんッ』
ずるずる、……もそもそっ。
盛大に生えていた深緑の毛。その中から、まさに皮を脱ぐようにして現れたのは、白い蛇だった……!
「うえええええっ!?」
あまりに衝撃的な光景に、ポトリーグは顔の輪郭線をなみなみ波線描写にしてしまった。要するに震えあがっている。
――あいつっ。蛇だったのか!? 毛虫のふりして、優しい言葉で俺をだまくらかそうと……!
白い蛇はもしゃもしゃ毛のかたまりの前で、すういと鎌首を持ち上げて立った。
『ふん。変装のおかげで、打ち身しなくて済んだわ』
ポトリーグが修道衣の腰に巻いている、縄帯くらいの大きさ太さだろうか。
ぎいん……! それなのに細身の蛇がこちらをねめつけた時、赤い視線にポトリーグは戦慄をおぼえる。ぞくり!
こいつは洞窟の大蛇よりも、もっとずっと強く……そして邪なものだ、とポトリーグはいま本能的に感じ取っていた。
白蛇をにらんだまま、ポトリーグは鉄鍋を逆さにして、中身の石を地にあける。そのまま、ぐっと左手でふちを握りしめた。
――来るぞ……!
しかし、白蛇は素早く身をひるがえした。
するするっと浜辺の上をのたくってゆくと、あっという間に海中へ入ってしまう。
「あっっ」
『逃げた!』
一瞬、白蛇の浸かったあたりの海水が、もわりと浮き上がった。
小さな波が押し寄せたようにも見えたが、それは蛇たちの群れである。小さな蛇たちは引く波に溶け込んで、海の中へとすぐに見えなくなっていった。
「くそっ」
ポトリーグは石を拾い、もう一度とねりこ杖で撃ち込んでみた。ばしゅッッ!
『……もう、行ってしまったわ』
るる波が低く言った。
『いったい、何だったのかしら……あいつらの目的は? 海の中で、わたしとうずちゃんを狩るでもなく……。ただひたすら、嫌がらせにあおって追いかけ回して』
『時間かせぎとか』
ぼそり、と言ううず雄をポトリーグは見た。
『自分らと、陸にいたポトリーグをなるべく長く引き離すためのん』
『……そう言えば、さっきの変なもじゃもじゃ蛇だけは、地上にいたわね? まさかあいつに、何かされたの! ポトリーグ!?』
波打ち際のてまえ、鍋ととねりこ杖とを地面に置き、ポトリーグはとりあえず姉弟のひげを両手に握りしめた。
「……あいつ。うずっちとるるっちが、俺のこと置いてきぼりにして、どっか遠くに行っちまったんだって。そう信じこませようとしやがったんだ」
『ま~さか~??』
『ま~さか~!!』
るる波とうず雄は同時にしかくい前脚を上げて、ばしぶしとおのおのの胸のあたりを叩いた。この辺はきょうだい、さすがの協調。
『……信じたんでないのんな? ポトリーグ』
「……」
『置いてきぼりになんて、するわけがない。ずっとついてるわよ、あなたを群れに戻すまで』
「……うん」
ぐすん。丸顔をうつむけて、鼻をすする。
ポトリーグは、うず雄の太い首ったまをぎゅうと両腕に抱いた。
ぼろぼろぼろん、……熱い安堵の涙があふれて流れる。
それをるる波の鼻づらが、むいむいとふき取ってくれた……。
……おひげが、じゃらじゃらする……。




