表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第八踏 ≪マラキのいた島≫
PR
60/101

60. 川の字ひなたぼっこ

 つのめどりの老夫妻は飛んでゆく前、マラキの使っていたと言う小さな湧き水のありかを、ポトリーグに教えてくれる。


 それは南側の斜面、岩肌のすきまに流れ出る泉だった。冷たく澄んで、清らかな水である。


 鉄鍋の底に少しだけそれを汲んで、ポトリーグはつのめどり達に、そしてマラキの墓に別れを告げた。


 両手にとねりこカモーンと白樫のかい、たぷたぷ鍋の水を揺らしながら、慎重に斜面を下ってゆく。


 時々立ち止まって見下ろすと、変わらずにるるとんが、そして戻ってきたうずが岩棚の夜営地にいて、頭をこちらに向けてくれているのがわかる。


 険しい荒れ小道をくだりきると、岩の上をのたのた這って、あざらし姉弟が近寄ってきた。



『ポトリーグ』


『ポトリーグ』


「うん。大丈夫だった」



 鼻づらを寄せてきたふたりの長いおひげを、ポトリーグは両手に握った。


 うず雄の獲ってくれた大いわしを鍋で煮て食べながら、ポトリーグは話す。島のいただきで見た先人の住まいと白い亡骸なきがら、そしてつのめどりに語られた≪マラキ≫の物語を。


 焚き火の脇にぐでん、と横たわり、うず雄とるる波はだまって聞いていた。



「その人のうたってた歌も、教えてもらった」



 いわしの尾近くから歯で身をこそげ取りつつ、ポトリーグは言った。



『聞こえてたわよ。ポトリーグが歌うの』



 ふふふ、とやわらかく笑いながらるる波が言う。



『つのめどりのは、鳴き声としかわからなかったけど。あなたの歌は、ここまで流れてきていた。素敵だったわよ?』


「まじか」


『まじよ』



 もふん、とうず雄も相槌を打つ。


 その後ポトリーグは、ふたりに挟まれてしばし横になっていた。あざらしに時々必要な、日向ぼっこ。


 朝の陽光は明るい。不安もさびしさも、その中に溶けてゆく。


 マラキは一人ではなかったし、自分にもうず雄とるる波がいる。


 そのことを知ったポトリーグは、両脇に迫る壁のようなあざらしおにくに挟まれ、安心していた。



 ・ ・ ・



 岩棚の間から慎重に小舟カラハを海に下ろし、ポトリーグ達は出発する。


 だいぶ沖合に出たところで、ようやくポトリーグは振り返った。


 帆を操りながら、ポトリーグは思う。



――そういや、ここんちの島の名前を。つのめどりに聞いてなかったなぁー……。



 るる波もうず雄も、知らないのである。というかひげあざらし一族の中に、ここへ来たことのある者はいないのだ。姉弟が初めて訪れたのかもしれない。



『住んでるつのめどり達にとっては、名があるんでしょうねぇ。でも、確かめようがないわ』



 小舟の左脇をゆく、るる波が言った。



『事実そのまんま、≪マラキのいた島≫でいいんでないのん?』



 右側に顔を出したうず雄が、のんびりと提案する。



『≪マラキ島≫って言うと、島がマラキのものっぽくなって、つのめどり達が怒るかも。でも≪マラキのいた島≫て自分らが呼ぶだけなら、さしさわりないっぽいのん』


「そうだなあ、うずっち。ほんじゃあ仮称≪マラキのいた島≫っつうことでー」



 ぶうん! 吹いてきた風を、帆いっぱいに受ける。



「俺の航海譚イムラヴァ、第八踏! 先人の【約束の地】にして、≪マラキのいた島≫。完了ッッ」



 ぶぶ、ぐうーん!


 小さな皮の舟とあざらし達は、緑の海原をぐんぐん南へ。


 風に押されて、すべるようにり出してゆく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ