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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第八踏 ≪マラキのいた島≫
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59. 先人の歌とともに

 頭蓋骨まできれいに平石でつつみ、こんもりした小さな塚のようになった≪聖マラキの墓≫の前。


 ポトリーグはもう一度、黒い巻き毛の頭を垂れて祈った。



――【約束の地】にたどりついた、すげえあなたに。聖母さまの祝福を!



 戸口をくぐって石の庵の外に出ると、羽ばたきが聞こえる。



『ポトリーグ。連れてきたよ、歌の上手な私の奥さんだ』


「こんちは!」



 マラキの家の屋根にとまった、小さなつのめどりの横にいるさらに小柄なつのめどりに、ポトリーグは笑顔で挨拶をした。



『はい、こんにちは。マラキに連なる種族の坊や』



 ふっくらした胸と肩とを震わせて、声までふくよかにまるいおばさん鳥は応える。



『あなたもマラキのように、ここの島で暮らすのかしら?』


「いいや。俺は俺の小舟カラハに乗って、これからまた海にり出すんだ。けど偶然出会えたあんた達と、マラキのことを、ずうっと憶えていくよ」



 おばさんつのめどりは、夫ともども満足そうにうなづいた。



『ありがとう。わたし達とマラキをたっとんでくれる善い子のあなたに、一生けんめい歌いましょう……。これが、マラキの歌ですよ』



 ふるふるっ……。おばさんはもう一度震えると、歌い出した。



 ♪波に抱かれ 海をくあなた


 永遠とわにかわらぬ ぬくもりを


 この胸のなかに とも


 私はともにゆく とうときあなたと



 ♪私はあなたと ともに


 永遠とわにかがやく ほほえみを


 なみだを集めた 海にむけ


 私とともに あなたは



「……!!」



 聞いているうち、ポトリーグはどんどん笑顔を広くしていった。


 知っている、のである。


 そこに載っている言葉は、初めて聞いた。けれど今、自分の目の前に生きて・・・現れ出たその旋律を、ポトリーグは絶対にどこかで聞いたことがあった……。


 故郷ヒベルニアの歌だ!!



「おばちゃん。俺にこの歌、教えてっっ」


『ええ、いいわよ!!』



 ♪♪永遠とわにかわらぬ ぬくもりを


 この胸のなかに ともし……



 短い歌をつのめどりと一緒に歌いながら、ポトリーグは島の高みから見渡せる海を、水平線を見た。


 東側は切り立った崖が、細い細い岬となって大海原へと突き出ている。それはちょうど、舟の舳先へさきに見えた。



 ♪♪私はともにゆく とうときあなたと



 おばさんの、おおらかな歌い上げ方のせいもある。


 ポトリーグがいつか故郷のどこかで聞いたその歌は、ほんの少しのさみしい調子を包み込んで、明るい光の差すほうへ広がってゆくような……。


 たくましくて朗らかな、前へと進む歌になっていた。



 ♪♪私とともに あなたは



 ポトリーグのうたうその歌の中で、知らないはずのマラキが笑っている。


 今はっきりと、ポトリーグは理解した。


 この歌をうたい生きた人は、この島という小舟カラハにのって航海を続けていた……。彼自身の航海譚イムラヴァを紡いだのだ。


 だからここはマラキの舟であり、同時に【約束の地】でもあった。


 そうして彼は、一人ではなかった。彼を支える力強い存在とともに、マラキは壮大な旅をしたのである。その存在こそが、この歌の中にいる≪あなた≫ではなかったか。


 緑の空と海との広大な世界の真っただ中、吹き抜ける風があまりに美しく、こころよい。



 ♪♪私とともに あなたは




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