59. 先人の歌とともに
頭蓋骨まできれいに平石でつつみ、こんもりした小さな塚のようになった≪聖マラキの墓≫の前。
ポトリーグはもう一度、黒い巻き毛の頭を垂れて祈った。
――【約束の地】にたどりついた、すげえあなたに。聖母さまの祝福を!
戸口をくぐって石の庵の外に出ると、羽ばたきが聞こえる。
『ポトリーグ。連れてきたよ、歌の上手な私の奥さんだ』
「こんちは!」
マラキの家の屋根にとまった、小さなつのめどりの横にいるさらに小柄なつのめどりに、ポトリーグは笑顔で挨拶をした。
『はい、こんにちは。マラキに連なる種族の坊や』
ふっくらした胸と肩とを震わせて、声までふくよかに円いおばさん鳥は応える。
『あなたもマラキのように、ここの島で暮らすのかしら?』
「いいや。俺は俺の小舟に乗って、これからまた海に騎り出すんだ。けど偶然出会えたあんた達と、マラキのことを、ずうっと憶えていくよ」
おばさんつのめどりは、夫ともども満足そうにうなづいた。
『ありがとう。わたし達とマラキを尊んでくれる善い子のあなたに、一生けんめい歌いましょう……。これが、マラキの歌ですよ』
ふるふるっ……。おばさんはもう一度震えると、歌い出した。
♪波に抱かれ 海を騎くあなた
永遠にかわらぬ ぬくもりを
この胸のなかに 灯し
私はともにゆく 尊きあなたと
♪私はあなたと ともに騎く
永遠にかがやく ほほえみを
なみだを集めた 海にむけ
私とともに あなたは在る
「……!!」
聞いているうち、ポトリーグはどんどん笑顔を広くしていった。
知っている、のである。
そこに載っている言葉は、初めて聞いた。けれど今、自分の目の前に生きて現れ出たその旋律を、ポトリーグは絶対にどこかで聞いたことがあった……。
故郷ヒベルニアの歌だ!!
「おばちゃん。俺にこの歌、教えてっっ」
『ええ、いいわよ!!』
♪♪永遠にかわらぬ ぬくもりを
この胸のなかに 灯し……
短い歌をつのめどりと一緒に歌いながら、ポトリーグは島の高みから見渡せる海を、水平線を見た。
東側は切り立った崖が、細い細い岬となって大海原へと突き出ている。それはちょうど、舟の舳先に見えた。
♪♪私はともにゆく 尊きあなたと
おばさんの、おおらかな歌い上げ方のせいもある。
ポトリーグがいつか故郷のどこかで聞いたその歌は、ほんの少しのさみしい調子を包み込んで、明るい光の差すほうへ広がってゆくような……。
たくましくて朗らかな、前へと進む歌になっていた。
♪♪私とともに あなたは在る
ポトリーグのうたうその歌の中で、知らないはずのマラキが笑っている。
今はっきりと、ポトリーグは理解した。
この歌をうたい生きた人は、この島という小舟にのって航海を続けていた……。彼自身の航海譚を紡いだのだ。
だからここはマラキの舟であり、同時に【約束の地】でもあった。
そうして彼は、一人ではなかった。彼を支える力強い存在とともに、マラキは壮大な旅をしたのである。その存在こそが、この歌の中にいる≪あなた≫ではなかったか。
緑の空と海との広大な世界の真っただ中、吹き抜ける風があまりに美しく、こころよい。
♪♪私とともに あなたは在る




