50. 脂つやつや! 焼きさば祭り
「本日の主菜はぁぁ! うずっちのくれた……鯖ああああああッ」
串がわりの木枝に刺して、焚き火であぶっていたその青き魚を、ポトリーグはぎーんと見据えた!
「もう、焼けたよなあああ? あああ、鯖ぁっ」
ちらちら、とろとろ、その身の脂を火に照らすさば!
ところどころ、いい感じにこんがりしてきた。もう~いいだろうッ! 串を手に、ポトリーグはがっぷりと喰いついた。
「は・ふーッッ」
熱いその身を、はふはふ口中に転がす!
『ポトリーグ……鯖??』
『大丈夫なの? 鯖』
これまで、人の子ポトリーグが鍋の中で海鮮を煮るのを、あざらし姉弟は何度も見てきた。しかしこうして直接火にあてて≪焼く≫のを、目にするのは初めてなのである。そういう意味で、うず雄とるる波は心配して言ったのだった。
「大丈夫だあ、鯖(ça va)!! うめ―ッッッ」
脂でつやつや! 口まわりを輝かせ、ポトリーグはずどーんと言い放った。
『そっか、よかったのん。尻尾がくびれてるやつを、とってきたのん』
「くびれ関係なしに、うまーいッッ」
ああ、かみ合っていない。まぁいいのだ、よく噛んでお食べ。
濃厚まろやか海栗に続き、脂のたっぷりのったさばを満喫できて、今夜もポトリーグはめちゃくちゃ幸せである。
しましま模様の新鮮すぎるさばは、ポトリーグの歯にはさまって、ふしゅぅと一瞬たわむ。焼いたはずなのに煮汁が吹き出しているのか、と錯覚するくらいだ。それはさばの身のたたえる、脂なのである!
しゃく、しゃくしゃく……。うず雄も、甘い野りんごの実を噛んでいる。
『うまいのが、いっぱいあるのんなー。世の中って』
『ほんとね、うずちゃん』
ほのぼの言いあう姉弟あざらしも、この鯖を海中でしこたま食べて、今夜はごきげんなのだった。
ほどよくお腹に重いさばのおかげで、ポトリーグは食べ終わって間もなく眠くなる。
その日の陽光の最後の残照が、西の彼方に沈んだ頃。ポトリーグはさっさと指で歯をみがき、ほたて殻にすくった湯でぶはっとすすぐと、寝じたくに取り掛かる。
焚き火の周りで乾かした海藻を、ひっくり返した小舟の下に押し込み、今日もねどこを作成した。
『あーあ。今日は全速力で、いっぱい泳いだし……。怖いこともあったから、くたびれちゃったわ。わたし、もうこっち側でばたんきゅう、するわよ~』
岩の裏に置いた小舟、その脇に並ぶようにして、るる波は本当にばったん・きゅう、と倒れ込んだ。
『お先ー、ポトリーグ』
「うん、おやすみるるっち。俺はその辺で、しょんべんしてから寝るッ」
『はいはい。いちいち宣言しなくって、いいからねー』
ポトリーグは、あくびをする姉あざらしのひげを握ってから、浜草の茂るあたりへ歩いて行った。
「……ん~~?」
そうして用を足しつつ、初めて気づく。
水を探して、かたつむりと話したえりかの原……。そこが、明るいのだ。
「うっわ。まじであそこだけ、昼っぽいぞ? 何で……あれ??」
原の上に、ふわふわと浮いて漂うものがある。光っているのは、その浮きただよう何かなのだった。
ポトリーグは首をかしげる。だいだいがかった、温かみのある白い光を放つものは……。ゆったり、ゆっくりと動きまわっている。
鳥ではない、とポトリーグは直感した。あまりに動きが緩慢だ。むしろ、かたつむり並みにのろい。
「一つ、二つ、みっつ……」
目を細めて、ポトリーグはその灯りを数えてみる。ざっと二十近くもある?
かたつむりが頼りにしていると言うその光は、ポトリーグの目にも邪なものには見えない。
だから何となく、足を向けてしまった。眠いし疲れてもいるが、光の正体も知りたい。
ぺたぺた……後ろから這う音がする。うず雄だ。




