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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第七踏 ≪どんど島≫
48/55

48. ヒースの原の【防御甲殻衣】所持者

 聞こえてきたささやかな声は、いかにものんきで平和だった。恐ろしいものではないな、と直感してポトリーグは挨拶することにする。



「おばんでーす。どこにいるんかな?」



 少年は、朗らかに声をかけてみた。



「知ってたら、水のくめるとこを教えて欲しいんだけどー」



 しいーん……。さわさわ、さわ……。


 沈黙の中を、冷風が吹き抜けてゆく。


 びびらせちまっただろうか、とポトリーグは首をかしげた。



『……あんた。言葉、わかるの?』



 小さな声が、こわごわと聞いてきた。しめた、とポトリーグはゆっくりしゃがむ。


 その声は、足もと下の方から聞こえてきたようだった。



「うん、わかるぞ。とって食ったりとか、しねえし。水場おしえて?」


『ほんとかなあ』


『しっ、みつかるって。中に・・隠れてようぜ』



 その言い方で、ふいにわかってしまった。ポトリーグは笑顔になる。



「俺はガリア人じゃねえから、かたつむり食わねえよ!」



 わんさかと花を咲かせているえりかの株に、ちょこなんとのっている二匹のかたつむりがいたのだ。



「だみ声で邪魔しちまって、悪かったなー。ここんちのひと?」


『なんだ、いいやつっぽいぞ。大丈夫でない?』


『でかすぎるけど……。おい、あんまり防御甲殻衣から出るなよ』



 褐色と乳色のまき巻き殻を持った、かたつむり達だ。


 引っ込めぎみの頭からにょんにょん触角をつき出して、ポトリーグにむけ振っている。



『水場ってのは……。大きい水のことなんだろうな。つうか、世界・・のまわりにいっぱいあるもんでないの?』



 ゆるゆる動きは緩慢でも、わりかし口調はちゃきちゃきしているかたつむりである。



「せかい」



 微妙に目を点にしかけたポトリーグだが、すぐに考えがいたる。


 かたつむりは遠くにゆかない、かれらの世界観・・・はすっきりと小さいはずだ。ここのかたつむりの世界とは、すなわち島。



「俺はその海こえて、ここんち来たんだ。けど、しょっぱくない方の水が欲しいんだよ」


『へー、そうなの。俺らはつゆなめて生きてるから、そういうでっかい水のかたまりは知らないし、見たことないんだけどー』


『あ、でもさあ。朝に夕に、≪飛行体≫が大量に向かってくところが、ちょい北東にあるよ。ばっしゃんぶっしゃん、って水音が響いてくるから、それが水場ってやつかもね』


『そういう水場帰りの飛行体に見つかったら、俺らおしまいだけどな? 恐ろしや』



 北東……。ポトリーグが顔を上げたその方向に、ふわっと飛び立つ小鳥の影がよぎる。


 飛行体とは変な呼び方だが、飛ぶもの……鳥のことなのだろう。かたつむり達にとっては、天敵の怪物だ。



「わかった。どうもありがとな!」



 立ち上がる前に、ポトリーグは思いついたことを聞いてみる。



「……ここの島、≪どんど島≫って言うんだよな? ≪飛行体≫の他に、おっかねえのって出る?」


『はりねずーみにいたーち、きつねーがいる。どれも恐ろしい魔獣ばかりだ』


『楽園のふりをした、壮絶な魔境なんだよね実は。あ、こうもーりも出るよ』


「苦労してんだな? あんたら」


『そういう星のもとに生まれたんだから、べつに文句はないのさ。時間帯で気をつけていれば楽勝だし』


「ふーん……」


『それにしても、あんたみたいにでっかい種類のかたつむりも、見たことがないね』


「……かたつむりと違うぞ、俺は」


『え? だってそれ、脇に持ってんのは防御甲殻衣だろ。どうやって中に入るんだか、わかんないけど』


「……? あ、これか? 殻でなくって鍋なー。ふつうに見て無理だろ、何をどうしたって俺入んねえよ」



 つっこみ役にまわっているが、実はこれで楽しんでいるポトリーグである。



『うん。俺らって目がわるいし、あんまりよくわからないんだな』


「いや、近眼としたってかたつむりじゃねっての。あーそうだ、蛇のやつらは出るかい?」


『……へい、びー? なんだっけ。お前、知ってる?』


『へびー……。なんかこう、重いっぽいやつ?』


「長細い身体で、地面の上をしゅるしゅる、うねうね這ってくるやつらなんだ。色んな大きさのが群れてて、重いのもたぶんいるぞ」


『へえー、それは知らないなあ。見たことも、聞いたこともない』


『俺たちの、小さき世界の片隅においてはなー』



 この島に、蛇の被害は及んでいないのだろうか。


 小さな鳥とけもの、かたつむりくらいしかいない島なら、見逃されるのかもしれない。


 蛇も食いがいのありそうな生き物を狙いそうだからなー、とポトリーグは思う。




『ねえ。そいつらって、夜に動きまわる生きものかい?』



 かたつむりに逆に質問されて、ポトリーグは首をかしげた。……はて? 蛇って夜行性だっけか。



「どうなんだろう。俺が見た時は、昼間だったけどなあ?」



 よく考えたら、知らないのだった。狼や野犬は、夜にも狩りをするが……。あとであざらし姉弟に確かめておこう、とポトリーグは思う。



『その≪へび≫ってのが、暗い中で動くやつらだとしたらね。たぶん夜のうちには、ここに寄り付かないと思うよ』


『そうそう。うちの島には、≪光る飛行体≫がいるから』


「光る飛行体??」




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