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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第七踏 ≪どんど島≫
46/59

46. 貝殻ざくざく、浜キャンプ

 ・ ・ ・ ・ ・



 この日、ポトリーグとうず・るるとんは、夕陽が強く輝き出すまで海上をとばした。


 けさ嵐に降りこめられた分を、取り返してやれという気負いもあったが……。


 やはりもう一つ、≪池島≫の怪奇からなるべく離れたところで休みたい、と思う気持ちに追い立てられていた。


 いま太陽は、西の果てへとかたむきかけている。


 夜の航海もおっかねえなと思うポトリーグの、ささやかな不安が伝わったのだろうか。るる波が、大きく声を張り上げた。



『うずちゃん、ポトリーグ。じきに左手の方に、中くらいの島が見えてくるはずよ。おじいちゃんが話していた≪どんど島≫だと思うから、今日はそこに行って休みましょう!』


「そうしよ、るるっち!」


『はあい』



 あざらしの情報共有網にある島なら、とりあえず安全だろう。ちょっと安堵して、ポトリーグとうず雄は即同意する。


 そのせいもあってポトリーグは、≪どんど島≫という奇妙な島の名称に、ほとんど注意をむけなかった。おぼえやすい分そういうもの、と気持ちに引っ掛からないのである。


 ちなみにるる波は、≪ひげあざらし島≫に帰還しだい、井戸のある≪池島≫の恐ろしさを、皆に話して聞かせるつもりらしい。


 ポトリーグに聞こえた限り、あの井戸の中の紫おばけは人間を捕まえようとしていたのであって、あざらしはさほど関係ないのでは? とも思うのだが……。


 しかし怪奇の罠に捕えられた以上、るる波とうず雄はこの怪談を貴重なる経験として、他のあざらし同胞たちに語り継いでゆくべきなのだろう。


 まあ、どこの島にだって蛇どもは上陸しうる。いたるところに危険があり、油断できないのが≪黒き島々≫なのかもしれないが。


 やがて目の前に姿を現した島影に、ポトリーグは小舟カラハ舳先へさきを向けた。


 島は平べったいような形をしているが、先ほどの≪池島≫と異なり、だいぶ樹々が茂っているようだ。


 一行は沿岸をゆくうち、小さな岬の南側に砂浜を見つける。そこへ上陸することにした。



 ・ ・ ・



 貝殻がざくざくした浜である。


 ただ、全ての殻は波にみがかれてやわらかく、まるくなっているのだ。牛皮張りの舟底が傷つくのでは、と冷やひやしたポトリーグの不安は、杞憂に終わる。



『わたし達のおじいちゃんが、若い頃に友達と冒険に来て、ここに夜営したことがあるんですって』


『……話に聞いたのんと、まるきり同じ。ざくざく貝がら、とってもきれいでないのん』



 ちょっとうっとり目に言ったうず雄は、わりかし詩的なのかもしれない。


 白い貝殻にすみれ色の貽貝いがいがらが大量にまじって、傍目に藤色のしま模様になった浜は、確かにとても美しかった。


 それを金の太陽が照らしているのだ。岬を曲がってから、浜は入り組んだ小湾のようになって穏やかだし、見るからに平和そうなところである。


 貝がら浜辺はきれいではあるが、さすがにその上に寝るのはいかん、と言うことでポトリーグは小舟をかつぐ。



「あの、でっかい丸石のあたりに小舟カラハ天幕テントすっかな。うずっち、るるっち、海ん中でゆっくりしてこいよぉ」


『そうね! じゃあまた、ポトリーグにも何か獲ってくるわ』


『何がとれるかな……』



 浅いところに浸かったままの姉弟あざらしと別れて、舟を背負ったポトリーグは浜の奥の方へと歩いて行く。


 ひとりになって、そよそよ微風になでられる。


 よいせ、と岩陰に小舟を下ろし、まずは乾いた海藻を集め始めた。



「こんなもんかー。次は焚き付け……」



 連日のこと、手際もどんどん良くなってきている。


 逆さまに返した小舟の中に、大事なりんごとはしばみの残りを隠して、ポトリーグは内陸部分へ出かけることにした。


 お鍋と麻袋を肩からひっさげ、とねりこカモーンを右手に。さあ行ってみよう!


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