45. 魔除けのとねりこ杖(カモーン)
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ぎゅんぎゅん、うず雄はすっ飛ばす!
その勢いに引っぱられ、ポトリーグの黒い小舟は波の上を風みたいに疾走して、おそろしい魔の島から遠ざかった。
先頭のるる波は、西側にずれてしまっていた航路をたて直し、まっすぐ南へと修正する。
やがていまわしい島と、その周辺にあったいくつかの小さな岩礁は、水平線の向こうに散るつぶつぶ小さな点になってゆく。
ポトリーグが何度目かに振り返ってみた時、≪池島≫はもう完全に見えなくなっていた。
昼過ぎにつのめどり達の≪かたばみ四つ子島≫を発った時よりも、空はずっと澄んで、明るい緑の天からは光が差している。
こんな真昼間に、あんな怪奇に遭っただなんて! ポトリーグは鼻の頭にしわを寄せた。
「うずっち、るるっちー! いくら何でも、さすがにもう大丈夫なんでないのかッ。あの変な島、ずーっと後ろに行っちまったぞッ」
ずばっ!
あざらし姉弟は、水面上に頭をつき出した。海の中でも、ポトリーグの声はしっかりふたりに聞こえているらしい。
『そうねー! うずちゃん、そろそろ元の速さに戻しましょうっ』
『うんー』
ゆる・ゆるる……と、うず雄は泳ぐ速度を徐々に落としていった。
「とんでもねえ化け物の島が、あったもんだな! うずっちとるるっちは、あの変なばばあ声に引き寄せられてたんか。もう大丈夫なのか?」
大きくどならなくても話のできる速さにて進みながら、ポトリーグはふたりに問うた。
「るるっちは、あったま痛いの大丈夫か!」
『ええ。ポトリーグがあの石組みに向かって、びしっとたんかを切ってから、すっかり良くなったみたい。うずちゃんはどう?』
『怖くておっかないのんは、おんなし。でも身体がねばねばするみたいな、変な感じはもうしないのん』
「そっかー! しっかし、何者だったんだろうな? 俺には変なばばあの声が聞こえてたけどよう、ありゃ生きてるもんじゃねえな! もちろん人間でもないぞっ」
『わたしにも、ちょっと聞こえたわよ。いけにえがどうのこうの、って……。要するにあのお化け、わたし達のこと引き寄せて捕まえて、食べちゃうつもりだったのよ。たぶんあの池の奥に棲んでいる、おそろしい何かね!』
「だよな! 気ッ色悪い、汚ねえ池だったもんなあ」
井戸に見えたあの石組みは、何なのか知らないが……。ポトリーグの注意を惹きつけるための、罠だったのだろう。封印のように頂に置かれていた、大きな石が気になるが。……十字が上に刻まれてなかったか??
とにかく、危険はやり過ごせた。
――つうかこれ。案外……役に立ったな?
舟底に置いたとねりこの杖を、ポトリーグはちらりと見た。
今になってようやく思い出したが、とねりこの樹には魔を祓う力が備わっている、とポトリーグは聞いたことがある。
ヒベルニアにはそういう、魔除けの樹々がいくつかあった。とねりこはその一つなのである。
自分に向かって伸ばされた、あの禍々しい紫色の手をなぎ払った杖。
とねりこの枝を拾ったのは、たまたまの思いつきだったが……。
杖にしといてよかった! 俺もなかなか冴えてんじゃーん、と内心でポトリーグは自分をほめる。
あるいはうず雄やつのめどり達を、蛇から守ったことを喜んだとねりこの樹自身が、少年に幸運を贈ってくれたのかもしれない。




