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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第六踏 ≪池(ロク)島≫
44/54

44. 井戸の中の魔女

――ふ~~べ~~ん~~



 どこからともなく、不気味な声がただよってきた。



「えっ、……誰だッ!!」



 ポトリーグとるるとんは、さっと後退する。


 とねりこのカモーンをかかげ、鉄鍋かぶとの下から、ポトリーグはすばやく周辺を見回した。


 しかし誰もいない……。


 言葉を発してしかるべき人間の姿も、鳥あるいはけものの姿も……全く見えないのだ。その時、るる波がするどく言った。



『ああっ。ちょっとポトリーグ、あの石のすきまを見てッ!?』



 井戸らしき石組み、その下の方から……何やら紫色の煙のようなもやもや・・・・が、静かにわき出ているではないか。



――ふべんなここから~ぬけだしたくて~~。しゃべくり声をたよりに、復活のいけにえ用を~、引き寄せたと言うのにぃ。



 ポトリーグの耳に流れ込んでくるのは、しわがれ押しつぶされたような、老婆の声だった。背中ぞくぞく、鳥肌がたつッ!



――たぐりよせてみれば、人間でなし~。青くさい小僧がひとり、いるにはいるが~。とねりこなんぞ、持ちよって~。ぎいぃ、はしばみと樫なんぞも、持ちよってぇぇぇぇ!!!



 両耳をふさぎたくなるような、おぞましく気色悪い恨みごとだ。


 しかし、ねちねちとしたその自分勝手( っぽい)言いように、ポトリーグはかちーんと来てしまったのである。つい。



「邪魔して、悪かったなあッ!?」



 とねりこ杖を、石組みの方へびしッと差し向けて、ポトリーグは言ってやった。


 以前ポトリーグは身を寄せていた村で、陰険な年輩女性に口やかましく因縁をつけられ、困っていたことがある。言われてばっかりじゃたまんねえ、と時々はたんか・・・で返していた。その方向の延長で、ポトリーグはこう続けたのである!



「けどよう? 俺の友達だちを変な力で引っかけて、ここんち来させたんは、あんたなんだろうが! こちとら急いでんだ、ブレンダン修道院長が待ってんだよッ。引き留められて、いい迷惑は俺らだっつうの!!」


――しゅうどういん、ちょおおお~!



 おぞましい声が動揺にまみれて、さらに壮絶に気持ち悪くなった。


 ぷしゅう~。石組みの隙間から盛大に紫の煙が噴き出して、井戸を包み隠してゆく!



――しゅううどおおお~! いんちょおーッッッ!!


『――あらッ。頭と体が……なんだか急に、やたら軽くなったわ!?』



 はっとした様子で、るる波が言う。



『今なら、いつも通りに泳げそうよ! 行きましょう、ポトリーグっ』


「おう、るるっち!」



 べたべたべたーッッ、全速力で這いゆくるる波とともに、ポトリーグは浜の小舟とうずの元へかけ下った。



――ぎいいいいーっっっ。おくれてやってきた、神どもめぇぇぇー……!



 苦しみもだえるようなおぞましい声は、走るポトリーグと姉あざらしの後を追ってくる。



「うずっちぃー! うずっち、この島から脱出すんぞおー! 大丈夫かあっっ?」



 走りながら、ポトリーグはうず雄に向けてどなった。


 へんな気配は、確実に後ろについて来ている。しかし絶対に振り返ってはいけない、とポトリーグは本能的に直感していた。


 あの井戸。


 一見、人間の住んでいる痕跡のように取り繕ってあったが……。


 その中深くにいるもの、この島に巣くっているのは、全くお目にかかりたくない性悪のなにか・・・に間違いなかった!


 うず雄も、妙な拘束から解き放たれていたらしい。


 ポトリーグの到着とほぼ同時に、弟あざらしはするすると這い出し、小舟を綱で引っぱった。一行はすぐに波打ち際に到達する!


 あざらし姉弟は躍り込むように身体を波打たせ、すばやく水中に身を沈めてゆく。


 それに続いて、するするじゃぶんと海に入ってゆく小舟の中へ。ひょいっとポトリーグはとび乗った。



『全力で、沖へ出るのよーッッ』



 きりっとした、姉あざらしの声が響く。


 かいを、と手に取りかけて振り向いたポトリーグの目に。もやーっっと紫色の煙が見えた!


 そこから……手が!!


 禍々まがまがしい紫色の筋ばった手が二つ浮き出て、ポトリーグにつかみかかろうとする。



――グロアクに、抱かれろぉぉぉ! お前ぇぇぇぇぇ!!



「しゃーらくせえ、んだよおおおッッッ」



 気色悪すぎな声もろとも、ポトリーグは紫の手を、とねりこカモーンで一閃した!


 ぶんぶぶん、その勢いでむちゃくちゃにその周辺を振りさばく。



――ぎゃあああああ……とねりこぉ……



 ポトリーグに向けられていた紫の手は、煙になって海上の空気にまぎれ立ち消えた。



『ポトリーグ、大丈夫うーっっ!?』



 前から、うず雄がどなってよこす。弟あざらしの力強い泳ぎは、ものすごい速さで小舟を引っぱってゆく。


 ぐいーん!


 吹く風が、おぞましい魔の瘴気をなぎ払うようだ。



「大丈夫、だあーッッ」



 ポトリーグもどなって、帆にとびついた。



「俺の航海譚イムラヴァ・第六踏! 魔女ばばあから危機いっぱつ、で脱出ううう!」


ロク島! 二度と来ないわよ、こんなとこーッッ』



 姉あざらしも、ぷりぷり憤慨してどなっている!!




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