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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第六踏 ≪池(ロク)島≫
43/55

43. あざらし姉弟、からめとられる

『怖いよう』



 丸い大きな瞳を潤ませて、うずは何かに怯えている。


 いつものように、ポトリーグは両手にうず雄のひげを握った。しかしうず雄はとどまらず、すすり泣くかのようにポトリーグに顔をすりつけてくるのである!



「どうしたんだよッ!? ……うずっち! 何が怖いんだっっ」



 毛織り修道衣の胸に、どでかいうず雄の頭を抱きしめて、ポトリーグは問うた。と、脇腹に触れるものがある……。


 るるとんまでが、寄りかかってきていた!



『ものすごく頭が痛いわっ……。妙な力で引っぱられるの、向こうの方へ』


「何だってぇ!?」



 るる波があごをしゃくった方を見る。ポトリーグの視界に、水の線がうっすらと入ってきた……。平らな島の内陸側にあるらしき、水たまりのようなもの。あれが池だろうか。


 と、そのすぐ手前にある変なものが、ポトリーグの目に飛び込んできた。



「あれっ。井戸があるッッ」



 口に出して言ってから、ポトリーグはぎょっとする。


 それは石の積み重ね、寄せ集めに見えた。しかし、自然に集まってできた岩場などではない。明らかに誰か・・が積み置いた、石のかたまりなのである。


 そう、ちょうど小さな井戸底を守るための石組み……。すなわち井戸にしか見えないッ!



『誰かが、何かが、あの辺りにいて……。わたしとうずちゃんを、嫌な力で引きつけようとしているのッ』



 るる波は苦しそうに、しかしきっぱりと抵抗の態度を見せて、そう言った。



『何かの、まやかし・・・・というやつかしらッ!?』


「よし、行ってみよう。皆はここにいろよ、俺は何とも感じねえんだから」


『わたしも行くわよ。うずちゃんは、ポトリーグの舟の陰にかくれていらっしゃい!』


『うう。ぐすん』



 うず雄は浜の上で、小舟カラハのすぐ脇にうずくまる。


 ポトリーグは空の鉄鍋を頭にかぶり、作り上げたばかりのとねりこカモーンを右手に持って、石組みの方へ歩き始めた。その横をるる波が、貫禄をもってべったべたべたと這ってゆく。


 井戸に見えるものは池のはじ、海からほとんど離れていないところにある。


 それでもるる波がここまで陸側に来るところを、ポトリーグは初めて見た。



『大きな水たまりね。これが池?』



 ぼうぼうと伸びた草地に、水がたまったと言う感じだが、湿地ではないようだ。


 ごろごろと岩肌ののぞく草むらに立って見渡しながら、ポトリーグもうなづいた。



「だな。だいぶ深いみたいだぞ」



 ちらちらと陽光を受けて照り返している水面は、きたなく黒褐色に濁っていた。


 次いで、ポトリーグは石組みをにらむ。



「……大丈夫か、るるっち?」


『ええ。ポトリーグにくっついているとなぜか、あの奇妙な引っぱり感がなくなるわ』


「? ……ほんじゃあ慎重に行くぞ。るるっち」



 そろりそろり、べたべた、ふたりは石組みに近づいてゆく。


 ほんの数歩てまえで、ポトリーグは立ち止まった。



「……やっぱりな。どう見ても人の作ったもんだぞ、こりゃあ。誰かが、ここんちの島に住んでるんだ」



 ポトリーグの胸のうちでは、がんがんばりばり、心の臓が高鳴っている。


 平べったい石を円筒型に積み上げてかためた、井戸にしか見えないものが目の前にある。ブレンダン修道院長、修道士たちとはぐれて以来、初めて見る人間の痕跡だ!



『誰かって……。じゃあこの石組みの中に、人間が住んでいるの?』


「いや、るるっち。これは井戸っつって、巣じゃねえ。飲み水の出るとこを、守るためのものなんだ」



 ポトリーグは今も緊張していたが、それは恐怖からではなく、期待からの張りつめに変化していた。


 そう……積まれた井戸があるからには、ここに住んでいる人間がいる。トゥーレの民だとしたら、自分は思っていたよりずっと早く、目的地に近づいているのかもしれない!



「……ん??」



 しかし。その井戸の上部分は、だいぶ大き目の石で封印・・されている。それに気づいて、ポトリーグは鉄鍋かぶとの頭をかしげた。



「……の、はずなんだけどなあ。何でまた、こんなでっかい石がふたみてえにはまってんだ? 水くめねえじゃんかよ、不便だな」



――ふ~~べ~~ん~~



 途端、どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。



「えっ、……誰だッ!!」



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