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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
40/56

40. つのめどり達に見送られて、出航

 ・ ・ ・ ・ ・


 るるとんの予想どおり、昼をまわる頃にあたりは静かになる。


 まぶしいくらいに空が明るくなり、高くこね上がったような泡だて雲が、緑の空を押し上げているようだった。


 そういう中天に、うっすらとにじむような虹が出ているのを、ポトリーグは見る。



「虹だ、いい感じだッ! ようーし、今日も南へ行こうッ」



 雨風から一日近くの間、かくまってくれた洞窟を引き払う。


 ポトリーグは小舟カラハをかつぎ上げて、浜に向かい歩き始める。両脇をぺたぺたもそもそ、あざらし姉弟が這う。


 肩に引っかけた麻袋と、鉄鍋がずっしーんと重い。中に、あらたに得た食糧が入っているからなのだが。


 それでも長く休んだポトリーグの身体の内には、力と気合がみち満ちている。


 表に返した小舟の中に、それらの荷物やとねりこのカモーンを入れ、波に向かっていざ押し出そうとしていたところに、声が聞こえた。



『おーい』


「あっ。昨日のつのめどりじゃねえのかな?」


『いっぱい、いるど……??』



 ばささささーっ!


 二十羽ほどもいるだろうか。大小のつのめどり達が上空高くから舞い降りてきて、小舟のへりにずらーっととまった。びっしり一列、……非常にかわゆい。



『ポトリーグ、旅立つんだね?』



 みんな同じに見えるが、話し方ですぐにわかった。昨日話した、あの吟遊詩人バードっぽいつのめどりだ。


 自分に一番近く、船尾にとまったその一羽に、ポトリーグはうなづく。



「うん。あんたら皆たっしゃでな? つのめどり達に、聖母さまの祝福を」


『聖なるなべの子、ポトリーグ。みんなで、きみの旅路の無事を祈っているよ』


『ポトリーグ』


『ポトリーグ!!!』



 つのめどり達は一斉に、ポトリーグの名を呼んだ。


 なんか照れくさいなー、とポトリーグはにやつく。これでは英雄、あるいは聖人あつかいだ。



『主人に聞きましたが、あなたはあざらし達とともに、南に行くんですってね?』



 吟遊詩人つのめどりの横にいる、少々こがらな一羽が問うた。



「そう。ずーっと南下して、≪氷の海≫を越えるつもりなんだ。そこを通らねえと、自分のいたとこに帰れないっぽいから」



 吟遊詩人つのめどりの奥さんらしきその一羽は、あざやかな黄色のくちばしを開けて言った。



『そうですか。ではお役に立つかもしれないし、わたし達の言い伝えもお教えしときましょう。≪黒き島々≫の南端にある、≪かいぎゅう島≫のぬしたちは、他のどの生きものよりも長く生き、たくさんの知恵を持っていると言いますよ』


「知恵?」


『ええ。ですからポトリーグ、もしあなたも何か困ったことがあったなら。そこでかれらにたずねてみると、いいかもしれません』


『俺とやわらかく話せるきみなら、≪かいぎゅう島≫の主たちとも、きっと話ができるだろうからね』



 吟遊詩人つのめどりも、言い添える。



「へえー?? でも、ぬしって誰、なに? ≪かいぎゅう島≫っつうからには、やっぱし海牛なんかな」



 ポトリーグは一応、海牛・・という言葉を知っていた。修道士の兄さん達に聞いただけの話だが、海の牛っぽいもの、大きなけものがいるらしい。


 けれどうず雄が十分に牛っぽいから、あざらしに似たようなもんだろう、くらいにしかポトリーグは考えていない。


 ちなみにうず雄とるる波も、≪かいぎゅう≫が何なのかを知らなかった。



『かいぎゅうと言うのは、陸の牛よりもずうっと大きいものらしいよ。おそらくきみの友達よりも、はるかに大きい』


「はっ。……それ、≪いさな≫なんじゃねえの~??」



 突如として海面にあらわれた、小島のような怪物のことを思い出して、ポトリーグは少々びびった。



「まあ、話が通じるようなら試してみるけど……。ちょっとおっかねえなー。会わずに済むんなら、そうっと通り越したいなあ」


『ふふふ、そうだね。何ごともなければ、そのままお行きよ。ポトリーグ』


『おせっかいになっちゃったかしら?』


「ううん、そんなことない。どうもありがとう」



 つのめどり達は、ふわりと飛び立った。船尾に両手をついて、ポトリーグは小舟カラハを押し出す。


 横からるる波が、頭でぐうんと押し出してくれて……ざぶん! 波にり出したその瞬間に、ポトリーグはとび乗った。


 ぐういっっ! かいで思い切りこぎ出す。



『ありがとうー! 俺たちの、聖ポトリーグ』


『無事でいてね、聖ポトリーグ』


『聖なるなべの子、ポトリーグ!』


『なべ聖人、ポトリーグ』



 左右をうず雄とるる波に守られ、上空を舞うつのめどり達の祝福を一身に浴びながら。


 ポトリーグの黒い小舟カラハは進み始めた――南へ!



「俺の航海譚イムラヴァ、≪かたばみ四つ子島≫・完了ーッ! 次は、どこだああああ!?」



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