表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
39/55

39. ポトリーグ、ハーリング杖を製作する

 ・ ・ ・ ・ ・


 あざらし天気予報の通り、次の日はだいぶ荒れた。


 朝早く、用足しに洞窟の外に出たポトリーグは、横なぐりの風に黒い巻き毛をもしゃもしゃ吹かれる。雨はそんなでもないが、びゅーんと吹く風が強い。


 経験豊かな船乗りなら、なんのこれしき、と勇んで海に出るのだろうか? けれどポトリーグは自分の操船のあやふやさを知っていた。自信のないところで、いちかばちかの勝負になんて出ないのである。



「大丈夫なのかよ、うずっちにるるっち? 波、すんげえ荒れ荒れだぞ」


『平気へいき。波のずっと下に潜っちゃえば、いつもとたいして変わらないのよ』


『でも、気をつけるのん』



 るるとんとうず、あざらし姉弟はもそもそ・ぺたぺたと洞窟を這い出て行った。慣れっこなのである。


 ポトリーグは洞窟の入り口近くで再び火を起こし、昨日の鬼たら上半分を煮る。煮ながらはしばみの実をむいて、かりこり噛んで食べた。うまッ。


 大きなたらの輪切り身がゆだつ間、ポトリーグは舟のへりの内側にしまっておいた、とねりこの枝を取り出す。


 葉のついた小枝は全部たきつけに使ってしまって、おおもとの枝部分が残っているだけ。


 しばらくの間、ポトリーグはとねりこをじーっっと眺めてから……それを地面に置いて、今度は小刀を取り出した。枝にあててから、ちょっとずつ削り始める。



――ほんとは、幹の一番かたい所から削り出すもんなんだよなー……たしか。



 そういう話を、一応聞いたことはあった。けれどヒベルニアの子ども達全員が、みな正式な≪カモーン≫を持って使っていたわけではない。


 何だってよかったのだ。あの球技をするのに都合のよい形をしていて、それなりに見えるなら。


 修道院に入る前まで、親しんで遊んでいた球技の杖を、いまポトリーグは再び削り出そうとしているのである。


 かりかり、こりこり、ぞりぞり……。


 地道に削っているうちに、鍋のたらが煮えた。お腹いっぱいにそれを詰め込んでから、また作業に戻る。


 一心不乱にとねりこ枝を削り続けているポトリーグの耳には、吹き荒れる風の轟音もほとんど入っては来ない。



 ・ ・ ・



 ぶるるるーん!!


 洞窟の入り口前で、もう一度盛大に身震いをし、水気を弾き飛ばしてから、るる波は中をのぞく。



『ただいま、ポトリーグにうずちゃん。……あら?』


「よう、るるっち~」



 ぐでーんと横たわり、消化活動・・・・にいそしんでいるうず雄。そこに寄りかかり座っていたポトリーグが、顔を上げた。


 小首をかしげて、るる波はポトリーグが手にしているものを見つめる。



『こんどは、何をこしらえたの。それって確か、≪うみうし島≫で拾ってきた木の枝よね?』


「うん」



 右手の小刀を脇に置いて、ポトリーグはほぼ完成した自作のカモーンを、左手で垂直にかかげる。


 ポトリーグの脚よりも短いだろうか、とるる波は推し量った。



『平べったい先っぽが、大きく曲がっているわ。これも、舟を操るのに使うの? それともごはん作りに使うのかしら』


「ううん。これは、遊ぶのに使うんだ」


『ええ?』



 ポトリーグはるる波の身体ごしに、外を見る。雨と風はだいぶ弱まってきていた。


 立ち上がって洞窟を出、足元に落ちていた小石を拾い上げる。



『……石、どうするの?』


「何でもいいんだけどよ。球を使って~」



 ポトリーグはたまご大のその丸石を、ひょいと宙に放り上げた。


 ぱっこーん!!


 作り上げたばかりのとねりこ杖で、軽やかに石をひっぱたく。


 ひゅうーんっっ!


 石はどこか、遠くへと飛んで行く。ぽちゃんと遠く音がしたから、海に落ちたらしい。



「こうやって、いろんなまとめがけて当てたり、打ち抜いたりして、点の取り合いをするんだ。イモニヤ(※)っつうんだけど」


『へええーっっっ! 石が、鳥みたいに飛んでいったわ!?』



 まるい眼をさらに大きくして驚いている姉あざらしに、ポトリーグはうなづく。



「蛇どもを追っ払うのに、使えるんじゃねえかなーと思ってよう」


『ああ、かいみたいに?』



 白樫材の櫂は硬くて軽い。しかしやはり水をかくものなのであって、敵をぶん殴るには少々かさばっている。


 それに万が一折れたりしては、この先の航海に支障が出る、とポトリーグはかすかな不安も抱いていた。


 よって≪ぶっ叩く≫専門の、カモーンを作ってみたのである。


 枝で出来ているぶん持ち重りに欠けるが、すばやく空を切る感触は、ポトリーグの身体になじんでいるものだ。


 さらに今るる波に実演してみせたように、石などを打って飛ばすこともできる。


 球を打つ要領でかたいものを打ち放てば、遠くにいる蛇どもを威嚇するのに役立つかもしれない。


 洞窟に入りながらそう話すポトリーグに、るる波は感心してひげを揺らしながらうなづいていた。



『なるほどね! 貝殻なんかでも、びしっと飛ばせるものかしら?』


「でかいのならいけるかな。ほたてとか、はまうりとか。手当たりしだい、なんでも武器になりそうだけど……。あー、でも海の上には石とかねえしなあ」


『むにゃっっ』



 消化から昼寝に移行していたらしい。うず雄がごろりと寝返りを打ってから、首をもたげた。



『……ああ、るるちゃん帰ったのん。雨あがった?』


『まだ、もうちょっとね。正午ひるにはさすがに嵐も行っちゃうでしょうから、……虹が出たら出発しましょうか』



 それまでに、カモーンを仕上げられるだろう。


 ポトリーグはうず雄の脇に座り込んで、再び小刀をとねりこ杖にあてた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※イモニヤ(Iománaíocht):ハーリング(Hurling)のことです。ゴルフクラブ状に先端がカーブした木の杖(ハーレイ/カモーン)で、スリッターなるボールをぶっ叩く、スピーディーなアイルランドの球技。大きな木製おしゃもじをふるってぶんぶん展開されるため、近眼の作者にはとてもついてゆかれぬ世界です。神話にも英雄伝承にも頻繁に登場しますので、起源はそうとうに古いのでしょう。(作者・注)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ