36. 鬼おいしい! 鬼たら鍋
「何じゃこりゃあああ、うずっちいいいい!?」
うず雄が足もとに置いたものを見て、ポトリーグはびりびり仰天した。
『うふふふ、すんごい幸運つきまくり。≪鬼たら≫めっけちゃった』
『んまあッッ、みごとだことー! 手ごわかったでしょ、がんばったわね!? うずちゃんてば』
「す、すげえ……」
それは巨大にして立派な、鱈だった。
にしたってポトリーグは、こんなでっかいたらを見たことがない。座って手をかざしてみれば、ポトリーグの肩幅よりもずっと長い身体をしている!
図体もそうだが、頭も大きくいかつかった。黒たらをさらに凶悪っぽくした感じで、広く開いた口にはするどい歯がぎざぎざしているのだ。
「鬼たらか! めっちゃ食いがいがありそうだ。つうか食い切れる気がしねえッ。明日に持ち越していいもんか、これ!?」
『いいんじゃないのん、ポトリーグ。どっちみち明日の朝は時化て進めないし。ゆっくり食べきってから、海に出れば~』
「あ、そっか!」
そこでポトリーグは、たらの下半分だけを食べることにした。上のほうは顎に穴をあけて、洞窟の岩壁でっぱりに引っかけておく。普通の家なら梁につるすところだが、まあ同じことだ。
『ポトリーグは、魚のきもは食べないのんな。自分にちょうだい、るるちゃんもたべる?』
『あららら、満腹だったんだけどな~。別腹をあけるっきゃないわね』
たらの腹からかき出した肝を、あざらし姉弟はむふふもふふと喜んでたべている。
『しらこ、うまーい』
『おつだわ~』
ポトリーグも、ぶっつり輪切りにした身の方をむひひと味わった。
今までにもらった白たら、黒たらに比べると少々大味ではある。
しかしぼっそり豪快に崩れる身は、ほこほことしてこころよい食感だ。さらに今日のポトリーグには、じゃこう草という香味がある!
「ああああ、≪なが貝≫の浸かってた出汁が。もう~~、たまんねえぞう」
こんなに口いっぱい……。いやもう身体いっぱい、さかなを食べつくせるだなんて! 本当にポトリーグは嬉しかった。
ヒベルニアにいた時、親戚の家や修道院にいた頃は、もの足りないまま食事を終えるのが普通だったのに!!
お腹の中いっぱいに、おいしくて熱いものがゆっくり満ちてゆく感覚が心地よかった。それを幸せ、以外になんと呼んだらいいのだろう。
「うずっち、るるっち! 鬼たらとなが貝の鍋、超~~うまいぃぃ」
『よかったねぇ』
『ゆっくり食べるのん。ポトリーグ』
洞窟の中にかさばっているうず雄とるる波の存在が、どこまでも優しく温かい。
今日も、ふたりの大おばにもらったほたて貝の殻を使って、ポトリーグは塩辛あまい煮汁をすすった。
あたたまった身体と頭の中で、今日つのめどりに言われたことをふっと思い出す。
――そっかー、鍋……。いろいろうまいものをくれる、うずっちとるるっちがいて。それを煮る鍋があってこそ、俺は食ってられるんだ……。めっちゃめちゃ、ありがてえよなー? つのめどりが言ってた……鍋が俺の命の源、っての。あれは本当だぞー。
魚と煮汁のつまった鍋。さらに大好物のはしばみと、りんごもたくさんある……。
もぐもぐと咀嚼しつつ、ポトリーグは感謝しかできなかった。実際、頭とお腹の中には感謝しか詰まっていない。何に対しての感謝か?
それはもう、今ここに在るポトリーグ周辺のすべて。それらに対して、である。
満腹と温かさの中に、少年がふんわり……ぼうっとした頃合だった。
『そう言えば。しっかり聞いたこと、なかったのん』
ゆったりもっさり、うず雄が言う。
『ポトリーグのいた群れって、どんな風だったのん?』




