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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
36/55

36. 鬼おいしい! 鬼たら鍋

「何じゃこりゃあああ、うずっちいいいい!?」



 うずが足もとに置いたものを見て、ポトリーグはびりびり仰天した。



『うふふふ、すんごい幸運つきまくり。≪鬼たら≫めっけちゃった』


『んまあッッ、みごとだことー! 手ごわかったでしょ、がんばったわね!? うずちゃんてば』


「す、すげえ……」



 それは巨大にして立派な、たらだった。


 にしたってポトリーグは、こんなでっかいたらを見たことがない。座って手をかざしてみれば、ポトリーグの肩幅よりもずっと長い身体をしている!


 図体ずうたいもそうだが、頭も大きくいかつかった。黒たらをさらに凶悪っぽくした感じで、広く開いた口にはするどい歯がぎざぎざしているのだ。



「鬼たらか! めっちゃ食いがいがありそうだ。つうか食い切れる気がしねえッ。明日に持ち越していいもんか、これ!?」


『いいんじゃないのん、ポトリーグ。どっちみち明日の朝は時化しけて進めないし。ゆっくり食べきってから、海に出れば~』


「あ、そっか!」



 そこでポトリーグは、たらの下半分だけを食べることにした。上のほうはあぎとに穴をあけて、洞窟の岩壁でっぱりに引っかけておく。普通の家ならはりにつるすところだが、まあ同じことだ。



『ポトリーグは、魚のきも・・は食べないのんな。自分にちょうだい、るるちゃんもたべる?』


『あららら、満腹だったんだけどな~。別腹をあけるっきゃないわね』



 たらの腹からかき出した肝を、あざらし姉弟はむふふもふふと喜んでたべている。



『しらこ、うまーい』


おつ・・だわ~』



 ポトリーグも、ぶっつり輪切りにした身の方をむひひと味わった。


 今までにもらった白たら、黒たらに比べると少々大味ではある。


 しかしぼっそり豪快に崩れる身は、ほこほことしてこころよい食感だ。さらに今日のポトリーグには、じゃこう草という香味がある!



「ああああ、≪なが貝≫の浸かってた出汁だしが。もう~~、たまんねえぞう」



 こんなに口いっぱい……。いやもう身体いっぱい、さかなを食べつくせるだなんて! 本当にポトリーグは嬉しかった。


 ヒベルニアにいた時、親戚の家や修道院にいた頃は、もの足りないまま食事を終えるのが普通だったのに!!


 お腹の中いっぱいに、おいしくて熱いものがゆっくり満ちてゆく感覚が心地よかった。それを幸せ、以外になんと呼んだらいいのだろう。



「うずっち、るるっち! 鬼たらとなが貝の鍋、超~~うまいぃぃ」


『よかったねぇ』


『ゆっくり食べるのん。ポトリーグ』



 洞窟の中にかさばっているうず雄とるる波の存在が、どこまでも優しく温かい。


 今日も、ふたりの大おばにもらったほたて貝の殻を使って、ポトリーグは塩辛あまい煮汁をすすった。


 あたたまった身体と頭の中で、今日つのめどりに言われたことをふっと思い出す。



――そっかー、鍋……。いろいろうまいものをくれる、うずっちとるるっちがいて。それを煮る鍋があってこそ、俺は食ってられるんだ……。めっちゃめちゃ、ありがてえよなー? つのめどりが言ってた……鍋が俺の命の源、っての。あれは本当だぞー。



 魚と煮汁のつまった鍋。さらに大好物のはしばみと、りんごもたくさんある……。


 もぐもぐと咀嚼しつつ、ポトリーグは感謝しかできなかった。実際、頭とお腹の中には感謝しか詰まっていない。何に対しての感謝か?


 それはもう、今ここに在るポトリーグ周辺のすべて。それらに対して、である。


 満腹と温かさの中に、少年がふんわり……ぼうっとした頃合だった。



『そう言えば。しっかり聞いたこと、なかったのん』



 ゆったりもっさり、うず雄が言う。



『ポトリーグのいた群れ・・って、どんな風だったのん?』



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