34. 大好き! ヘーゼルナッツ
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ポトリーグとあざらし姉弟はまず、大蛇およびその眷属の死骸を片付けた。
『蛇の身体には、毒があるかもしれないしね。できるだけ遠くにやっちゃうに越したことはないわよ、こんなぶっそうなもの』
大蛇の太い胴体に小舟舳先から取り外した縄を引っかけ、反対側の輪っかに頭を通して、るる波がずるずると引きずってゆく。ポトリーグは尻尾のほうを持った。
浜の波打ち際まで持っていき、あとの処理はもう、海に任せることにする。小さい方の蛇は磯から直接、水に投げ入れた。
その間うず雄は、洞窟の中をくまなく調べてまわる。ぬうんと出てきて、いまや完全に空っぽだ、とポトリーグに言った。
『特に嫌な臭いだとかはないし、汚くもないのん。でも自分、蛇のにおいとかよくわかんないし……。やっぱ危ないのんかなあ?』
「うーん。蛇のうんことかがねえなら、別に平気でないのか? あとで焚き火する時に、いぶしとけばいいだろ~」
そうしてうず雄とるる波は、海へ魚を獲りに行く。
ポトリーグはつのめどりに案内してもらって、水その他を入手すべく、島の内陸部へと向かった。
浜草の茂るなだらかな丘陵を越えると、一挙に深い緑が目に飛び込んでくる。
潮風のあたりにくいところに、樹木がかたまり生えているのだ。
『まず、あの辺の野原に、香りのいい草がいっぱい生えている』
ぱさぱさと飛び、時々ポトリーグの肩先にとまりながらついてきた、つのめどりが言った。
どんなのだろう、とポトリーグが草の原に踏み入ってみると。それは大きく株になった、じゃこう草だ!
「おおおーう! 魚とか貝にまぶして煮ると、超~絶うまいんだぁッ」
『へえー、魚とあわせるの? 俺たちは食べないけど、巣の中に時々敷くんだ。虫が寄って来なくなるから』
「あ、そういう使い方もできんのな?」
ポトリーグは手のひらいっぱいにじゃこう草を摘んで、ぎっしりした香り高い束をつくる。
そこを越えて進むと、背の低い木々がもしゃついて生えていた。
『俺たちつのめどりは、西の島ふたつに住んでいるんだけど。今頃の季節は連れだって、これを食べにちょいちょい飛んでくるんだ』
もしゃっとした樹々……。それはなんと、はしばみだった。
『……って、あれ。どうかしたのかい、ポトリーグ? 顔が赤くなったぞ、……う・わー!?』
突進してゆくポトリーグの肩先から落っこちそうになって、つのめどりは慌てた。
麻袋を下ろして、ポトリーグは底の方に入れておいた大判ぼろ布を引っぱり出す。
「き・ひゃあーっっっ」
本人は大歓喜の叫び、つのめどりにはやや引かれ……。そんな奇声まで上げて、ポトリーグは勢いよくはしばみの実を採り始めた。
褐色の乾いたがくごと、大好物の木の実をぼろ布の上に集めてゆく!
『なんてことだ、血相かえて! 人間はこれが好きなのか!?』
「好きなんてもんじゃねえッ。俺の国じゃあ、皆これ食って育つんだあ!」
ほぼ喜びの涙目で、ポトリーグはつのめどりに言った。他の国ではどうだか知らないが、ヒベルニアの人間ははしばみが大好きなのだ。
頭が良くなるから、子どもはいっぱい食べなさいとよく言われる。本当であろうか?
『あっはっは、そうかい! 喜んでもらえてよかった。ほらほら、向こうにだっていっぱいあるよ』
「きゃーッッ」
黄色い声を上げて、ポトリーグはその小さなごちそうを山盛り集めた。
もうこれ以上は無理、と言うところまで到達する。布の四隅をむすんで、包みにした。
『そこの倒れた古木の裏を、見てごらん。ここいらで一番おいしい水場だよ』
小さな泉が湧いているのである。
そこの傍らにもりんごの古樹があって、たわわに紅い実をつけていた。枝がまるで鏡をのぞき込むように、水面の上にかかっている。
「なんつうすてきな島だ。お宝みたいな食いものが、こんなにたくさんあるなんてッ」
鍋と皮ぶくろに水を汲み、あみ袋にりんごを採って、ポトリーグのそばかす頬ぺたもりんごの実のように赤くなっていた。
背中に両手に、食べ物と水がずっしり重い……。これを幸せと呼ばず、何と呼ぼう?
『うん、俺たちもそう思ってるんだ。でもそれも、きみがこの島から蛇を追っ払ってくれたからこそ、なのさ。……ところでポトリーグ。浜や洞窟までの道のり、わかるかい?』
「ああ、わかるぞ」
『じゃあ、ひとりでも大丈夫だね? ……暗くなってきたし、そろそろ俺はねぐらの西の島に帰らないといけない』
「そっか、鳥って夜目があんまり利かないんだっけ。気をつけて帰ってなー? ほんとに、ありがとう」
『またね、聖なるなべの子ポトリーグ。きみのこと、皆に話すよー』
ばさばさー。つのめどりは羽ばたいて、ポトリーグの肩先を発った。
その小さな身体がやがて宙にうたれた点のようになって、闇のまじり始めた空に消えてゆく。
西の果てに暮れゆく金とだいだい色の太陽、それを追いかける緑そして深緑の天に、夜がかぶさってきていた。
鍋の水をちゃぷ・ちゃぷんと揺らして、ポトリーグは浜のほうへ。
うれしい帰り道をゆく。




