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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
34/56

34. 大好き! ヘーゼルナッツ

 ・ ・ ・



 ポトリーグとあざらし姉弟はまず、大蛇およびその眷属の死骸を片付けた。



『蛇の身体には、毒があるかもしれないしね。できるだけ遠くにやっちゃうに越したことはないわよ、こんなぶっそうなもの』



 大蛇の太い胴体に小舟カラハ舳先から取り外した縄を引っかけ、反対側の輪っかに頭を通して、るるとんがずるずると引きずってゆく。ポトリーグは尻尾のほうを持った。


 浜の波打ち際まで持っていき、あとの処理はもう、海に任せることにする。小さい方の蛇は磯から直接、水に投げ入れた。


 その間うずは、洞窟の中をくまなく調べてまわる。ぬうんと出てきて、いまや完全に空っぽだ、とポトリーグに言った。



『特に嫌な臭いだとかはないし、汚くもないのん。でも自分、蛇のにおいとかよくわかんないし……。やっぱ危ないのんかなあ?』


「うーん。蛇のうんことかがねえなら、別に平気でないのか? あとで焚き火する時に、いぶしとけばいいだろ~」



 そうしてうず雄とるる波は、海へ魚を獲りに行く。


 ポトリーグはつのめどりに案内してもらって、水その他を入手すべく、島の内陸部へと向かった。


 浜草の茂るなだらかな丘陵を越えると、一挙に深い緑が目に飛び込んでくる。


 潮風のあたりにくいところに、樹木がかたまり生えているのだ。



『まず、あの辺の野原に、香りのいい草がいっぱい生えている』



 ぱさぱさと飛び、時々ポトリーグの肩先にとまりながらついてきた、つのめどりが言った。


 どんなのだろう、とポトリーグが草の原に踏み入ってみると。それは大きく株になった、じゃこう草タイムだ!



「おおおーう! 魚とか貝にまぶして煮ると、超~絶うまいんだぁッ」


『へえー、魚とあわせるの? 俺たちは食べないけど、巣の中に時々敷くんだ。虫が寄って来なくなるから』


「あ、そういう使い方もできんのな?」



 ポトリーグは手のひらいっぱいにじゃこう草を摘んで、ぎっしりした香り高い束をつくる。


 そこを越えて進むと、背の低い木々がもしゃついて生えていた。



『俺たちつのめどりは、西の島ふたつに住んでいるんだけど。今頃の季節は連れだって、これを食べにちょいちょい飛んでくるんだ』



 もしゃっとした樹々……。それはなんと、はしばみだった。



『……って、あれ。どうかしたのかい、ポトリーグ? 顔が赤くなったぞ、……う・わー!?』



 突進してゆくポトリーグの肩先から落っこちそうになって、つのめどりは慌てた。


 麻袋を下ろして、ポトリーグは底の方に入れておいた大判ぼろ布を引っぱり出す。



「き・ひゃあーっっっ」



 本人は大歓喜の叫び、つのめどりにはやや引かれ……。そんな奇声まで上げて、ポトリーグは勢いよくはしばみの実を採り始めた。


 褐色の乾いたがく・・ごと、大好物の木の実をぼろ布の上に集めてゆく!



『なんてことだ、血相かえて! 人間はこれが好きなのか!?』


「好きなんてもんじゃねえッ。俺の国じゃあ、皆これ食って育つんだあ!」



 ほぼ喜びの涙目で、ポトリーグはつのめどりに言った。他の国ではどうだか知らないが、ヒベルニアの人間ははしばみが大好きなのだ。


 頭が良くなるから、子どもはいっぱい食べなさいとよく言われる。本当であろうか?



『あっはっは、そうかい! 喜んでもらえてよかった。ほらほら、向こうにだっていっぱいあるよ』


「きゃーッッ」



 黄色い声を上げて、ポトリーグはその小さなごちそうを山盛り集めた。


 もうこれ以上は無理、と言うところまで到達する。布の四隅をむすんで、包みにした。



『そこの倒れた古木の裏を、見てごらん。ここいらで一番おいしい水場だよ』



 小さな泉が湧いているのである。


 そこの傍らにもりんごの古樹があって、たわわに紅い実をつけていた。枝がまるで鏡をのぞき込むように、水面の上にかかっている。



「なんつうすてきな島だ。お宝みたいな食いものが、こんなにたくさんあるなんてッ」



 鍋と皮ぶくろに水を汲み、あみ袋にりんごを採って、ポトリーグのそばかす頬ぺたもりんごの実のように赤くなっていた。


 背中に両手に、食べ物と水がずっしり重い……。これを幸せと呼ばず、何と呼ぼう?



『うん、俺たちもそう思ってるんだ。でもそれも、きみがこの島から蛇を追っ払ってくれたからこそ、なのさ。……ところでポトリーグ。浜や洞窟までの道のり、わかるかい?』


「ああ、わかるぞ」


『じゃあ、ひとりでも大丈夫だね? ……暗くなってきたし、そろそろ俺はねぐらの西の島に帰らないといけない』


「そっか、鳥って夜目があんまり利かないんだっけ。気をつけて帰ってなー? ほんとに、ありがとう」


『またね、聖なるなべの子ポトリーグ。きみのこと、皆に話すよー』



 ばさばさー。つのめどりは羽ばたいて、ポトリーグの肩先を発った。


 その小さな身体がやがて宙にうたれた点のようになって、闇のまじり始めた空に消えてゆく。


 西の果てに暮れゆく金とだいだい色の太陽、それを追いかける緑そして深緑の天に、夜がかぶさってきていた。


 鍋の水をちゃぷ・ちゃぷんと揺らして、ポトリーグは浜のほうへ。


 うれしい帰り道をゆく。




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