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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
32/56

32. ポトリーグ一行、大蛇他をKOする

『……こいつ、死んでるど。ポトリーグ!』


「え、えええっっ!? まじか、うずっち!」


『見てみ……、口あけてべろだしてるのん』



 長いひげをぶるぶる震わせつつ、こわごわとあごをしゃくるうずに促され、ポトリーグは大蛇の頭部を凝視する。


 本当に、大蛇は死んでいた。


 突っ伏したあごが砂にまみれて、のこぎりのように並んだ無数の鋭い歯がしっかりと見える。


 大きな赤い眼はどんよりと濁って、もはやそこに生命のしるしはない。



「こんなでっかくて、強いやつが……?」



 確かに今さっき、自分は全力をこめてこいつを殴った。しかし鉄鍋のただ一撃で、これほど強靭な野生のけものを仕留められたとは、ポトリーグにはどうしても信じられないのである。



『ちょっと……ポトリーグ! うずちゃん! こっちも見てごらんなさいよ!?』



 振り向くと、るるとんは先ほどポトリーグが小蛇どもにからまれ、倒れていたあたりの地面を見ている。



『あれっ!? 小さい蛇も、死んでるのんッ』



 縄ほどに細いのが、七・八匹ほど地に散らばっているのだ。



「何で……。あ、これって俺が鍋もらってすぐに、どついたやつらか?」



 両脚を締め付けていた蛇どもは、中小あわせて何十匹もいたように思える。鍋を受け取ると、すぐに群れはポトリーグの身体から離れていったのだが……。最初の鍋底の直撃をくらったのが、死んでしまったのだろうか。



『そうよ。ポトリーグが、全部やっつけたんだわ。すごい!』


「えーと、るるっち……」



 鼻息あらく言う姉あざらしの前で、ポトリーグはやや混乱した。



――そんなんで……。そんなもんで死んじまうのか? 蛇って。



 修道院に来る前、ポトリーグは親戚縁者のところを転々としていた。どの家でもにわとり、うさぎ、山羊やひつじを飼っていて、最後は食料としていた。だからけもの達がそうそう簡単に息たえるものではないことを、少年はよく知っているのである。


 しかし、そうしてしめて・・・きたどの家畜たちよりも、大きな蛇を……。たった一打撃で??



「あ、けど待て。俺がぶんなぐる前に、るるっちの放った鍋がでっかいやつにぶつかったじゃんか? あいつはたぶん、それの打ちどころが悪かったんだろ! ふらふらしてたしよッ」


『……べつに、そこまで力を入れて投げなかったわよ……?』



 何かが、腑に落ちない。しかし、目の前の大小蛇はたしかに死んで、ポトリーグたち一行は無事だった。



『けがしてないか、ポトリーグ』


「うん、大丈夫だ! けど危なかったよな、うずっちが間に入ってくれなかったら。俺はのど元をがっぷり噛まれて、まじでやばいことになってたぞ」



 ポトリーグは両腕をまわして、うず雄の首周りをぎゅうと抱きしめた。ついでにうず雄のひげも、ぎゅうと握った。



「ありがとな。うずっち」


『……ポトリーグが無事で、ほんとよかったのん』



 もそもそ、照れたように言う弟あざらしを見やりつつ。実は先ほどからるる波は、内心のびっくりをちょっと抑えきれないでいる。


 何をするにも遠慮がち、引っ込み思案で怖がりだったうず雄が……。あんな風に大蛇に突進して吠えたてたのが、姉あざらしには信じられなかった。いいや、実際その目で見たのだから信じるしかない。


 るる波は嬉しかった。弟あざらしはポトリーグを守るため、あんなに勇気を振り絞れたのだ!



「るるっちの鍋ぶん投げも、直球まる決まりすとらいくでおみごとだ」


『ふふふ。えらかったわよ、ふたりとも! あんなにたくさんの小蛇と、こんな大きいのを向こうにまわしても、退かなかったのね。とっても勇敢だったわ! よくやった、うずちゃん』


『そう~??』


『そうよ。うずちゃんとポトリーグ、すんごくえらい』



 あざらし姉弟は、もよよん! と縦方向に身体おにくを震わせた。これは喜んでいるらしい。


 なのでポトリーグもまねして、たて向きにふるえてみた。もよん!



「そうだ。俺たちはみんな、えらいのだ」


『えらいなんてもんじゃ、ないよ~~! 君たち……』


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