32. ポトリーグ一行、大蛇他をKOする
『……こいつ、死んでるど。ポトリーグ!』
「え、えええっっ!? まじか、うずっち!」
『見てみ……、口あけて舌だしてるのん』
長いひげをぶるぶる震わせつつ、こわごわとあごをしゃくるうず雄に促され、ポトリーグは大蛇の頭部を凝視する。
本当に、大蛇は死んでいた。
突っ伏したあごが砂にまみれて、のこぎりのように並んだ無数の鋭い歯がしっかりと見える。
大きな赤い眼はどんよりと濁って、もはやそこに生命のしるしはない。
「こんなでっかくて、強いやつが……?」
確かに今さっき、自分は全力をこめてこいつを殴った。しかし鉄鍋のただ一撃で、これほど強靭な野生のけものを仕留められたとは、ポトリーグにはどうしても信じられないのである。
『ちょっと……ポトリーグ! うずちゃん! こっちも見てごらんなさいよ!?』
振り向くと、るる波は先ほどポトリーグが小蛇どもにからまれ、倒れていたあたりの地面を見ている。
『あれっ!? 小さい蛇も、死んでるのんッ』
縄ほどに細いのが、七・八匹ほど地に散らばっているのだ。
「何で……。あ、これって俺が鍋もらってすぐに、どついたやつらか?」
両脚を締め付けていた蛇どもは、中小あわせて何十匹もいたように思える。鍋を受け取ると、すぐに群れはポトリーグの身体から離れていったのだが……。最初の鍋底の直撃をくらったのが、死んでしまったのだろうか。
『そうよ。ポトリーグが、全部やっつけたんだわ。すごい!』
「えーと、るるっち……」
鼻息あらく言う姉あざらしの前で、ポトリーグはやや混乱した。
――そんなんで……。そんなもんで死んじまうのか? 蛇って。
修道院に来る前、ポトリーグは親戚縁者のところを転々としていた。どの家でもにわとり、うさぎ、山羊やひつじを飼っていて、最後は食料としていた。だからけもの達がそうそう簡単に息たえるものではないことを、少年はよく知っているのである。
しかし、そうしてしめてきたどの家畜たちよりも、大きな蛇を……。たった一打撃で??
「あ、けど待て。俺がぶんなぐる前に、るるっちの放った鍋がでっかいやつにぶつかったじゃんか? あいつはたぶん、それの打ちどころが悪かったんだろ! ふらふらしてたしよッ」
『……べつに、そこまで力を入れて投げなかったわよ……?』
何かが、腑に落ちない。しかし、目の前の大小蛇はたしかに死んで、ポトリーグたち一行は無事だった。
『けがしてないか、ポトリーグ』
「うん、大丈夫だ! けど危なかったよな、うずっちが間に入ってくれなかったら。俺はのど元をがっぷり噛まれて、まじでやばいことになってたぞ」
ポトリーグは両腕をまわして、うず雄の首周りをぎゅうと抱きしめた。ついでにうず雄のひげも、ぎゅうと握った。
「ありがとな。うずっち」
『……ポトリーグが無事で、ほんとよかったのん』
もそもそ、照れたように言う弟あざらしを見やりつつ。実は先ほどからるる波は、内心のびっくりをちょっと抑えきれないでいる。
何をするにも遠慮がち、引っ込み思案で怖がりだったうず雄が……。あんな風に大蛇に突進して吠えたてたのが、姉あざらしには信じられなかった。いいや、実際その目で見たのだから信じるしかない。
るる波は嬉しかった。弟あざらしはポトリーグを守るため、あんなに勇気を振り絞れたのだ!
「るるっちの鍋ぶん投げも、直球まる決まりでおみごとだ」
『ふふふ。えらかったわよ、ふたりとも! あんなにたくさんの小蛇と、こんな大きいのを向こうにまわしても、退かなかったのね。とっても勇敢だったわ! よくやった、うずちゃん』
『そう~??』
『そうよ。うずちゃんとポトリーグ、すんごくえらい』
あざらし姉弟は、もよよん! と縦方向に身体おにくを震わせた。これは喜んでいるらしい。
なのでポトリーグもまねして、たて向きにふるえてみた。もよん!
「そうだ。俺たちはみんな、えらいのだ」
『えらいなんてもんじゃ、ないよ~~! 君たち……』




