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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第五踏 ≪かたばみ四つ子島≫
31/55

31. ポトリーグ一行、洞窟の大蛇と対峙する

「何つう……でっかさだ!」



 じりじり……。かいを構えたまま右に向かってすり足移動しつつ、ポトリーグはつぶやいた。



「離れろ。るるっち、うずっち」



 のたのた……。ポトリーグの低い声に、後ろのあざらし姉弟がしたがって這う気配。


 黒っぽい身体をくゆらせ、赤く光る眼で、蛇はじいっとポトリーグをにらみつけている。


 こいつはひとりなのだろうか、とにらみ返しながらポトリーグは思った。


 でっかいやつだが、ただ一匹なのであれば。成敗できるかもしれない……!



――集中するんだ。叩きとばせッ!



 ふうーあッッ、と蛇がすばやく頭を突き出して来た。


 くあッと開けた口の中に、白くちらちらとが輝く。……牙だ。


 びたあん!


 ポトリーグはその蛇の頭を、下側からひらめかした櫂の先で、思いっきりひっぱたいた。今度は手ごたえあり!


 返すところでびたんッ、首のあたりにもう一撃お見舞いする。


 首と言ってもどの辺なのだか……いや、どうでもいいしッ。



「うおらッ」



 たぶんそこは胴体部分、ポトリーグは大蛇の横っ腹を蹴りつけた。



「とっとと、帰りやがれッ! この野郎ぉー」



 その大きさから、蛇を完全にのす・・ことができるとは、ポトリーグは思っていない。とにかく海に向かって追っ払おう、と考えていた。


 しかし。蹴ったその脚に、ぐるぐるりっっと絡みついてきたものがある!



「え? うわーッッッ」


『きゃああ、ポトリーグっっ』



 洞窟の中から、こつぶ・・・の蛇どもが一挙に流れ出てきて、ポトリーグに組み付いたのである!



――ちっきしょう! ひとりじゃなかった!!



 ゆらいだ体勢を立て直そう、とポトリーグが踏ん張ったその時。ぐいっと強烈な力がかかって、ポトリーグの手から櫂がもぎ取られてしまった。


 一瞬の隙をついて、大蛇が櫂の柄に食らいつき、それを遠くにぶいんと放ったのである。


 ど・さーッッッ!


 無数の小蛇どもに両脚にからみつかれ、締め上げられて、ポトリーグはくずおれた。


 仰向けに倒れたその顔の真上、しゃああッと大蛇が牙をむく。


 殴りつけるべく、ポトリーグがこぶしを固めたとき。


 ぐおーっっっ!!


 咆哮しつつ体当たりしてきたうず雄が、大蛇と衝突した。どすん!


 しかし、大蛇は素早く後退する。


 致命傷の危機を避けられはしたものの、ポトリーグの両脚には依然として大量の蛇どもがくっつき、それがぎりぎりと締め上げてくるのだ。動けない!


 そうしてうず雄の身体にも、小さな蛇たちはびとびとと絡みつき始めている。いちど退いた大蛇もまた、鎌首をもたげる――!



「るるっち、るるっちぃーッ! なべ! 鍋を放ってくれ、舟ん中だッ」


『え、えええーっっ!?』



 小舟カラハのそばですくみ上がっていた姉あざらしは、くるッと舟の中に頭を突っ込む。


 船尾にあった空っぽの鉄鍋のふちをくわえると、ポトリーグに向かって……ぶーん! ぶん投げたッ!


 ぼこッ。


 鍋はうず雄に喰いつかんとまわりこんで来ていた、大蛇の頭を直撃してからはずみ、ポトリーグの手中におさまる。



「ようっし!!」



 現在所有している中で、一番硬いもの! それを使ってどついてやれ、とポトリーグは思ったのである。


 両手に持った鉄鍋、その底を脚に絡みつく蛇どもめがけて振り下ろす。


 ばちん! 


 しゃ、しゃ、しゃしゃあーッッッ!


 にぶい感触が鍋を通して、ポトリーグの手に伝わる。その瞬間、細かな息すじ・・・のような音がたくさん響いて、ぷあっと蛇どもがポトリーグの脚から外れた。



「おっ!?」



 それこそ蜘蛛の子を散らすように、さあっと自分の身体から離れてゆく小さな蛇どもを見て、ポトリーグはしめたと思った。


 地べたに伏していたポトリーグを、かばう形で脇にいてくれたうず雄。そのうず雄と、大蛇の間にポトリーグはぐいっと入り込む。その勢いで大蛇にも、鉄鍋の一撃をくれてやろうとした……のだが。



「あれっ?」



 大蛇はふたりの前、たくさんの小蛇に囲まれてとぐろを巻き、鎌首をもたげようとしていた。……しかし、様子がおかしい。


 首を上げようとして……、がっくり。持ち上げて……ぐったり!!


 どうしても首を落としてしまうらしい。


 その妙なそぶりはポトリーグの目に、蛇がふらついているように見えた。目まいでも起こしたのか。


 しゃあーッッ!


 何度目かの首振りの後、大蛇は牙をむいて突っ込んで来た!


 どかっっ。


 その口めがけて、ポトリーグは鉄鍋底で思いっきり殴りつけた。


 ぶいいいん、後ろに向かって大蛇はそっくり返る……どさッッッ。


 しゃ、しゃ、しゃしゃしゃあーッッ!!


 大蛇の身体が地についたとたん、その周りにいた小さな蛇たちはうねうねと動きだす。まるで波のように集まり、流れていって、ものすごい速さで岩場を越える。瞬く間に海の中へと入って、消えうせてしまった……。逃げたのだ。



「……」



 少し離れたところに投げ飛ばされていた櫂をくわえて、るる波がポトリーグの脇に這ってくる。


 それを片手に受け取り、ポトリーグは大蛇のしっぽをちょん、とつついてみた。ぴくり、とも動かない。



「……なんだ? 気を失ってんのかな?」



 ポトリーグは、さらに櫂で蛇の胴体を押してみる。そろそろり、と側にいたうず雄が寄って行って、しかくい前脚で蛇の頭あたりをゆすった。



『……こいつ、死んでるど。ポトリーグ!』


「え、えええっっ!?」



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